弱いところをプスって刺したいーー!
アイアンアントの巣を攻略すると決めると、正人はタブレットを操作してスキルカードを選ぶことにした。
指で画面をスクロールしながら、先ずは欲しかったスキルカードを選ぶ。
「それでは、まず細剣術、槍術のスキルカードをください」
「冷夏さんとヒナタさんは、接近戦用のスキルをもってなかったんですね」
「ええ、ですから最優先で欲しいと思っていました」
「わかりました」
接近戦のスキルをもってないのに十階層を超えたことに驚きながらも、谷口は了承した。
正人はレイピアと槍の絵が描かれたアイコンをタップすると、チェックマークが入った。これで選んだことになる。
この二つのカードは、今後の戦いにおいて必須とも言えるスキルだったため判断に迷わなかったが、他のスキルカードは悩んでしまう。
回復系のスキルカードはないが、正人がよく使う『エネルギーボルト』『ファイヤーボール』などはリストにある。他にも『アイスランス』『縮地』『挑発』『隠密』などあるが、どれも一枚しかない。誰に覚えさせるかというのも重要だ。
「みんなは、これからどんな戦闘スタイルにしたい?」
数が多すぎるので、正人は三人の意見を聞くことにした。
「ヒナタは早く動いて、弱いところをプスって刺したいーー!」
やりたいことが決まっているヒナタは、タブレットを覗き込みながら言った。
深く考えることはせずに直感でき生きているからこそ、こういったときは迷いなく選べる。しかも無自覚ではあるが自分の強みというのを分かっているため、言っている内容も的確である。全員が方向性は間違っていないと思っていた。
正人はヒナタの要望を叶えるべく、タブレットを操作してスキルカードを探していく。
移動系のスキルカードは『俊足』と『縮地』の二つだけだ。どちらも短距離を高速移動するスキルで、一瞬にして敵の懐に入れるうえに、離脱も可能である。直線的な動きしか出来ないという弱点はあるが、使いどころさえ間違えなければ強力なスキルとなるだろう。
目的のスキルカードを見つけた正人は、タブレットに表示されている説明文を読んで、要約した内容をヒナタに伝える。
「俊足は足が速くなるスキルで、縮地は空間を歪めて距離を短くする高速移動スキルみたいだね」
「うーーん! 何が違うの!?」
頭で考えてもわからなかったヒナタは質問すると、正人は苦笑いを浮かべながら口を開く。
「俊足は本当に走るから前に障害物があるとぶつかっちゃうんだよね。一方の縮地は空間を歪めて距離を縮めるから、途中に椅子といった障害物や床に穴が空いていても目的の場所まで移動できる、というのが違いかな。もちろん、壁なんかは通り抜けできない。あくまで距離を縮めるだけだから」
性質として縮地は短距離瞬間移動に近いだろうが、縮地は1メートル~2メートルほどの距離しか移動できないうえに、乱発も不可能である。そのためスキルの便利度をランキング化するのであれば、俊足、縮地、短距離瞬間移動といった感じに高くなるだろう。
縮地は回復系に続くレアな存在だ。それを無償で正人たちに渡すほど、探索協会は本気でサポートしようと考えていた。
そこまでするなら、優秀な人材を派遣して欲しいというのが正人の本音ではあるが、各地で出現したモンスター退治に忙しいので、出せないものは出せない。探索協会からすれば、諦めて頑張ってくれとしか言えない状況だった。
「じゃあ縮地で! あとは視力強化のスキルカードが欲しい」
「それだけでいいの?」
「うん! 欲張って多くもらっても、使い切れないから!」
戦闘では一瞬の判断が生死を分けることもある。数が多すぎて使うスキルを選んでいる間に死んでしまったら、末代までの恥となるだろう。特にヒナタは直感で戦うタイプであるので、スキルの数は抑えた方が本来の力を発揮できる。
「そっか。じゃあ、冷夏さんはどうする?」
悩んでいることもあって、冷夏はすぐに答えられなかった。タブレットの液晶画面を眺めながら、スキルカードを見ているだけである。
「お姉ちゃんなら、体を強化するスキルが良いと思うよ! ゴリラよりも力強くなれるから!」
「ヒナタっ!」
正人の目の前で怪力だと言われてしまい恥ずかしくなった冷夏は、顔を赤らめながらヒナタに向けて拳を振り上げた。
「ほら! そういう所だよ! すぐ手が出るんだから、やっぱりバカ力を鍛えた方が良いよ!」
「!!」
そんなことを言われてしまえば、冷夏は動けない。大人しく拳を振り下ろして正人を見る。
騒動を気にした様子はなく、スキルカードを選んでいた。
恥ずかしい騒動に気づかれなくて良かったと安堵していると、正人とが顔を上げた。
「肉体強化は怪力と相性が良いし、覚えてみない?」
奇しくもヒナタと同じ結論に達した正人は、冷夏の力が強化されるスキルを選んだ。
「はい! 覚えます!」
信頼する正人の提案であれば、あれほど恥ずかしがっていた怪力の能力だって好きになれる。迷うことなく即答すると『肉体強化』のスキルが選ばれた。
「他に必要なのはある?」
叩いて壊す。薙刀なのにそんな戦い方ばかりしていた冷夏には、密かな望みがあった。それは遠距離攻撃である。正人のように遠くからスキルを使ってモンスターを華麗に倒したい。そんな想いがずっとある。
「私は遠くからズバッと、攻撃するスキルを覚えたいです」
いつもは我慢している冷夏が、珍しく本音を伝えたのだった。






