好きなものを選んでください。すべてプレゼントしましょう
「協会からはなんと言われたんですか?」
近づいてくる谷口に対して、正人が質問をした。
表情からして良くない話であると察してはいるが、都内の安全に関わることでもあるので、逃げ出すわけにはいかない。
正人はじっと、谷口の返事を待つ。
「……話は長くなります。部屋に移動しませんか?」
提案にのってもいいのだが、懸念は残る。
「穴の監視はどうしましょう?」
四人を代表して里香が質問した。
中にアイアンアントがいると分かった今、放置するわけにはいかない。話し合っている最中に地上へ出てきたら、対処が遅れて被害が拡大してしまう。異変があったらすぐに動けるようにしたい、という考えがあった。
「監視カメラを設置しているので大丈夫です。動きがあれば、探索協会から連絡があります」
調査隊が全滅してから何かいると分かっていたので、穴の周辺に監視カメラを設置していた。非常に高性能で、真夜中でも姿がはっきりとわかる。さらに赤外線のセンサーもあるため、見落としても気づける体制になっているのだ。
仮にアイアンアントが穴から出てきてもすぐに気づけるだろうし、正人たちがいるのであれば周囲への被害は最小で抑えられる。
だから、この場にいる必要はないのだ。むしろ、体力や気力が削られてしまうので、豪邸でゆっくりと休んでほしいという気持ちすら、谷口にはあった。
「それだったら……」
判断しきれない里香は、チラッと正人を見る。
「行こうか」
自分の意見に自信の持てない里香に代わって、優しく微笑みながら言った。
パーティーメンバーの三人、そして谷口をはじめ探索協会から信頼を得ている正人の言葉を、否定する者はいない。
10LLDDKKという慣れることのない豪邸へ、四人は入っていった。
◇ ◇ ◇
リビングに入った四人は、ソファーに座りながら冷たいジュースを飲んでいた。
里香たち女性陣はバスルームで汗を流したこともあって、シャツやハーフパンツといったラフな格好に着替えている。
新しい服は仕事を依頼するついでに、しばらく豪邸に滞在させようという探索協会の計画で用意されたものだ。他にもいくつか正人たちへのプレゼントが用意されており、絶対に逃がさないという強い意志を感じる。
「で、協会からの指示ですが、正人さんたちだけでアイアンアントの巣を壊滅させろ、とのことでした」
私たちに死ねと言っているのか!
そんな文句を放ちそうになった冷夏を、正人が手で制した。
なぜ止めるのかと、睨みつける。
「話は最後まで聞こう」
珍しく怒りを含んだ声を聞いて、冷夏は落ち着いた。
正人は探索協会の依頼内容はおかしいと理解しつつも、文句を言わないように我慢しているとわかったからだ。
「当然、続きはあるんですよね?」
視線を冷夏から谷口に移した正人が、脅すような声で言った。
「もちろんです。今回は正人さんたちにとって、大きなメリットもある話です」
探索協会が正人に、無茶な依頼をするはずがない。
奴隷契約を結んでいるわけでもないので、多大なリスクに見合う報酬を用意しなければ、正人たちは日本を見限って海外に出て行ってしまう危険性を考えているからだ。
貴重なレベル三で友好的な探索者を使い潰すようなことや、逃げられるようなことはしない。探索協会は本気で特別な報酬を用意していた。
「これを見てください」
谷口が大型のタブレットを正人たちに見せた。
画面には剣や槍などの絵柄が描かれたカードが表示されている。その数は50をくだらないだろう。
「スキルカードだ! いっぱいあるね!」
目をキラキラと輝かせながら、ヒナタが食い入るように見ていた。
普段見かけることのないスキルカードが並んでいて、眺めているだけでも楽しめる。里香や冷夏、そして正人までもが、画面を食い入るように見ていた。
探索者にとって切り札になるスキルカードには、それほどの魅力があるのだ。
「ここにあるスキルカードは、協会が保有しているものです」
「なるほど。で、それを見せた理由は?」
「好きなものを選んでください。すべてプレゼントしましょう」
「「「え!?」」」
一つぐらいはもらえるかもしれないと思っていたら、好きなだけすべてと、予想外の言葉に、女性陣は驚きの声を上げた。
話を進めていた正人は、言葉を失うぐらいの衝撃を受けている。
「本当に全部、いただけるので?」
「今回の依頼達成に必要であれば、です。不要なものは残してくださいね」
当然ながら探索協会は、善意で貴重なスキルカードを渡すことはしない。依頼達成のために無償で譲渡するのだ。
受け取ってしまえば、正人はアイアンアントの巣を壊滅させなければいけないし、逃げ出したら地の果てまで追われるだろう。
また、余計なスキルカードをもらってしまえば、探索協会からの印象は悪くなる。足下を見られた怨みは忘れない。今回はよくても、次回以降はもっとキツい条件を出してくるはず。
強欲は身を滅ぼす。
要は、目の前に財宝を置いた状態で、どのような判断をするのか試されているのだ。
正人はそんなことも承知したうえで、自分たちの安全と今後の未来を考えながら結論を出した。
「本当に必要なスキルカードを譲っていただけるのであれば、依頼を受けましょう」
正人の決断に、里香達から異論は上がらなかった。
都内には春や烈火も住んでいて、彼らのクラスメイトもいる。
これほどの条件を提示してもらったのであれば、アイアンアントの巣を攻略しよう。そういった気持ちは正人だけでなく、里香達にも芽生えていた。






