隼人ッッ!!!
逆上した道明寺隼人は、いきなり正人を殴りつけてきた。
スキルを使用した拳は触れるだけで体を凍結させる。頭部に直撃すれば即死だろう。体に触れても内臓の機能が著しく低下して動けなくなる。殺傷性が高く、対人戦で使ってよいものではない。
そんな危険なスキルをレベル四もある道明寺隼人が使うのだ。普段であれば数秒も持たなかったかもしれないが、怒りに我を忘れて大雑把な動きになっているため、今の正人であれば回避はたやすい。
身体能力強化のスキルを使いながら、格上でもある道明寺隼人の攻撃をいなしていく。
「ちょこまかと動きやがってッ!!」
思っていたより強い。
その焦りが道明寺隼人の攻撃を単調にさせていく。
右ストレートを回避した正人は、腕を掴んで道明寺隼人を投げ捨てると、回転して足から着地。
道明寺隼人は正人を睨んだ。
「手加減してやってるのに調子に乗りやがって! ぶっ殺してやる」
トップの探索者になって、誰もが道明寺隼人の機嫌を取るようになった。あの探索協会であっても表だって逆らうような人間はおらず、プライドは肥大化していったのだ。
それは自信にもつながり、東京ダンジョンの最下層到達記録を更新続ける原動力にもなっていた。
だが、物事はよい面ばかりではない。
思い通りにいかないと、子供のような癇癪を起こすようになってしまったのだ。
「隼人! これ以上はダメ!」
「らしくない。落ち着いて!」
宮沢愛と羽月が二人の間に入った。
無意味な戦いを止めるためだ。
普段であれば仲間の声で冷静になるが、今は格下と思っていた探索者に馬鹿にされてしまい、頭に血が上っている。
声は届かなかった。
「うるさい。どけッ!」
仲間を押しのけると、道明寺隼人は別のスキルを使う。
――身体能力強化。
――高速思考。
肉体が強化され、さらに思考が高速で働くようになって、正人の動きが予測しやすくなる。先ほどまで対等の戦いをしていたが、能力が大きく向上した道明寺隼人が、一方的に攻撃する展開になった。
拳を避ける余裕はない。
正人の顔に拳が当たりそうになる。
――自動浮遊盾。
半透明の盾が数枚浮かぶと、即座に拳の前にすべりこみ道明寺隼人の攻撃を防いだ。
反撃する隙は見当たらないため、日本最強の本気を感じた正人は大きく後ろに下がる。が、道明寺隼人はしつこく食いついてきた。
「逃がさねぇ!!」
目にも負えないほどの激しいラッシュが正人を襲う!
自動浮遊盾がすべて防いでいるので無事で済んでいるが、拳が当たる度にヒビが入る。戦闘が長引いてしまえば半透明の盾は突破されてしまい、攻撃は正人の体にまで届いてしまうだろう。
その後は、凍結からの死である。
これ以上は無理だ。
短距離瞬間移動で逃げるしかない。
スキルを発動させる寸前で、先ほど無視された宮沢愛が道明寺隼人に飛びかかった。
「隼人ッッ!!!」
横に振るわれた槍の柄が道明寺隼人の横っ腹に直撃。不意を突かれて衝撃を緩和させることもできずに吹き飛んでしまった。
木に直撃すると頭を打ってしまい、数秒ほど意識を失ってしまう。目が覚めたときには真っ白な羽が目に入った。
「少しは落ち着いた?」
宮沢に抱きかかえられていた。
魔の前には羽月が立っており、彼女の持つ剣の切っ先が、道明寺隼人の額に当たっている。
動きたくても動けない。
状況を整理する余裕ができた。
「なぜ止める?」
「今回の仕事に、探索者と戦うことは含まれてない」
羽月はタダ働きしたくないと言いのけたのだ。
正義感や仲間だからといって助けたわけではない。必要であれば正人を殺すことも厭わないだろう。
道明寺隼人だけでなく羽月と呼ばれる女性もクセがあり、人格が破綻しているようにも見える。
社会的な一般常識を持っているのは、宮沢愛と小鳥遊優の二人ぐらいだろう。
「だが、獲物を横取りされて馬鹿にされたんだぞ!?」
「戦った事実があれば依頼料は振り込まれる。問題はない。馬鹿にされたのは隼人であって、わたしじゃないから気にしない」
「お前ッ!」
理不尽な言葉に道明寺隼人が噛みつこうとしたが、羽月に冷たい目で見られていることに気づいて、止まる。
「それとも私たちにサービス残業をさせるつもり?」
腕を組みながら宮沢愛が言った。
仲間の二人に詰め寄られてしまい、さすがに道明寺隼人も怒りを収めなければと考え直す。
仲間という存在が、最後に残った道明寺隼人のコントロール方法である。
「いや、依頼に含まれない労働はしない」
立ち上がると、道明寺隼人は山を下りるために歩き出す。
謝罪ぐらいしろよと思った正人であるが、口には出さなかった。
宮沢愛や羽月から余計なことを言うなと睨みつけられているからだ。
もう一度戦いになったら、次は二人まで敵に回りそうである。
三人を同時に相手にしたら一分も持たないだろう確信があり、見送ることにしたのだ。
正人は軽く頭を下げると、羽月は小さく手を振り、宮沢は羽を消して道明寺隼人の後を追う。
「ふぅ……大変だった」
三人の姿が見えなくなり、緊張から一気に解放された正人は仰向けに倒れた。
木々の隙間から青い空が見える。
土臭いが、生きている時間を感じられるので、嫌な気持ちではない。
道明寺隼人との戦いはアラクネより死を身近に感じたが、大きな収穫はあった。
触れた相手を凍結させるスキルと羽を生やすスキル。二つの魔力の動きを覚えたからだ。
スキル昇華は地上では使えない。ダンジョンが閉鎖されている今、すぐにスキルは覚えられないだろうが、次回以降の探索には使えるだろう。
「私なら頑張れる。もっと先に行ける」
もっと強くなれる。それこそ、道明寺隼人を超える日も遠くはない。そんな自信と、生き残った充足感が正人の心に広がっていた。






