二台も? 兄さん大丈夫?
買い物の約束をした火曜日が来た。
学校から帰ってきた春と烈火を連れて、正人は近くのショッピングモールに来ている。
車から降りた三人は、洋服や靴など欲しくても買えなかった物をついでに買っていく。もう一年近くは新品を買っていなかったので、ボロボロだったのだ。人目につかない下着なんかは穴が空いているほどだ。
多感な時期の高校生には辛い状況だったこともあり、新しい服を買えた弟の二人は非常に喜んでいた。
二階に上がると家電屋に入る。携帯電話の売り場を通り抜けてパソコンが展示されているエリアに入った。
神宮家はそれぞれ個室を持っているが、パソコンはリビングで使うルールがある。デスクトップ型だと来客の際に邪魔になることもあり、ノートパソコンを選んでいた。
「なーなー! この銀色のやつがいいんじゃね?」
烈火が指さしたのは、リンゴのマークがついたノートパソコンだった。値段は二十五万円と高いが、スペックは申し分ない。レポートの作成や情報収集だけでなく画像や動画の編集まで出来るほどだ。
「ちょっとオーバースペックじゃない? もっと安いのでいいと思うけど」
春は値段が高いと否定的だ。生活が楽になったとはいえ油断は出来ない。今は貯蓄するために、少しでも節約するべきだと考えているのだ。近くにあった、インターネットをするだけに特化した格安のパソコンを触る。
「ほら、僕たちってネットと文章作成ぐらいしかしないから、このぐらいが丁度いいんじゃない?」
「えー。もうカクカク動くパソコンを使うの嫌だー! スペックがいいのにしたい!」
眉間にシワを寄せて抗議する烈火を見て、春はしょうがないなといった諦めに近い表情をした。
こういったワガママは珍しくないのだ。末っ子ということもあり、正人と春は他人に迷惑を欠けない限り烈火を甘やかしてしまう傾向にある。
どうしよう?
春は、そんな気持ちを込めた視線を正人に向けた。
「どうしようかねぇ」
腕を組んだ正人は烈火の熱い視線を感じながら、悩んでいた。
二十五万円のノートパソコンを買うのは問題ない。これから購入する予定の短槍に比べれば安い物だ。それに台風など外に出るのが困難な場合は、オンライン授業も行われるようになった。授業をスムーズに受けられることを考えれば、金額分の価値はあるだろう。
「これを二台で五十万円。買えなくはない、か……」
オンライン授業までを想定するなら、二人分が必要だ。学業を優先して頑張っている二人へのご褒美と思えば、スペックの低い物を買う必要は無いだろう。正人はそんな考えをしており、高い方のノートパソコンを買う方に気持ちは傾いていた。
「二台も? 兄さん大丈夫?」
「もちろんだ。それだけ稼いでいるからな」
少し前までなら考えられない発言だった。それほどまで急速に神宮家の家計は改善されている。
一般家庭と比べて劣らないどころか、平均よりも上の収入があるだろう。もちろん、会社員とは違って探索業は不安定だ。明日、死ぬかもしれないので安心は出来る状態ではないが、未来は明るいと信じられる程度には心に余裕がある状況だった。
「さ、買おうか」
購入しようとして、正人は周囲を見て店員を探す。
「あれは……」
知り合いを見つけた。一人は腰まで伸びた長い髪の女性、薄い緑色で花のあしらいがあるワンピースを着ている。もう一人はショートカットの髪型に合うTシャツとハーフパンツと言った活発な服装をした女性――冷夏とヒナタだった。
「七瀬さんたちだ」
思わぬところで知り合いを見つけた正人が言葉を漏らす。
一緒にいた春と烈火も二人を見つける。
「ほんとだ。こんな所で出会うなんて珍しいね」
街中で知り合いを見つけても声をかけられない正人と違って、春は積極的にコミュニケーションを取る方だ。自然と足は動いて、二人に近づく。
「やあ、久しぶり」
声をかけられた二人はぴったりと同じタイミングで首を動かして春を見た。
一瞬、ナンパされたかと怪訝な顔を浮かべていた冷夏であったが、目の前にいるのが春だと気づいて表情が和らぐ。さらに、その後ろには正人の姿が見えたので、二人は安堵すると同時に早くこの場を立ち去りたいと思い、僅かに表情がこわばる。
話しかけた春は様子がおかしいことを感じ取ったが、鈍い正人は気づけなかった。二人の前の前に立つと、話しかけてしまう。
「こんなところで出会えるなんて奇遇だね」
「は、はい。ビックリしちゃいました」
頬を引きつらせながら笑顔で返事をした冷夏は立ち去ろうとするが、正人は構わず会話を続ける。
「私たちはパソコンが壊れたから新しいのを買おうと思っているんだ。冷夏さんたちは、何を買いに来たの?」
「え、私たちは……」
周囲をキョロキョロと見ながら不自然な動きをする冷夏。いつも元気なヒナタは姉の服を引っ張って、どこかに行こうと合図を送っていた。しかし、双子が思っていた以上に早く、あわせたくない人物が来てしまう。
「あら、そこの男性は知り合い?」
「あッ……」
かすれた声が聞こえた。若くはない。歳を取った人間が出すような声だ。
双子に声をかけた女性は、白髪が交じった髪を後ろで縛った老婆といった見た目だが、足腰はしっかりしている。服装はカジュアルで薄いピンクのカットソーと黒いジーンズという組み合わせだ。
カツカツとヒールの音を立てながら冷夏とヒナタと合流した。
「あなたは?」
老婆は腕を組み、警戒するような態度をしている。値踏みをするような視線を向けられて正人は不快感を覚えたが、冷夏やヒナタの知り合いとなればむげに出来ない。営業用の笑顔を浮かべて挨拶をする。
「初めまして。私は神宮正人、探索者です。七瀬冷夏さん、ヒナタさんとは同じパーティーを組んで活動させてもらっています」
自己紹介を聞いた老婆は、先ほどとは一転して口が裂け手しまうほどの笑みを浮かべている。獲物を狙う鋭い目をしていた。






