4-23 この魔法、昔と比べて弱いんですが……光る物があります!
エルディア魔導学院、それは【挑戦権】とよばれる生徒の決闘を推奨する制度が存在する学院。
そんな学院に入学した少年、島・長吉はある日。女生徒を助ける為に厄介事に首を突っ込んでしまう。
頼れる手段もないことから、噂で囁かれていた願いをかなえる魔法のランプを探し出すことに成功する。
そしてランプの精霊ならぬ、魔王を呼び出し。古く強い魔法を教えてくれと懇願したのだが。
教えてもらえる魔法は悉く学院で習う魔法より弱く意気消沈。返品をも考えた少年だったが。とある魔法に目をつけ。勝算を考えだす。
「つまり、全身に口を作って王子様を圧倒しよう。魔法でも技術でもぶちのめしてやる」
「優しい言い方じゃのう。蹂躙して尊厳破壊してやるぐらい言わんか、ご主人様よ」
この決闘で結果を出したことにより、彼とランプは次々と騒動に巻き込まれていく。
これは願いと暴力で道を開くファンタジー。
フワフワと人が浮かんでいる。僕が今擦ったランプから。
「我はランプの魔王! 我を呼び出したからにはお主がご主人様だ。では望みを三日に一回、できる範囲で叶えよう!」
学園寮の一室にランプの魔王が現れた。
口が乾く感覚がする。白い髪。青い肌、青い目。色々豊満な体躯。最低限の布地を纏った人型。たった今、彼女を僕がランプを擦って出したなんて信じられなく。
そして、彼女の美貌で性癖が捻じ曲がった瞬間だった。
〇
エルディア魔導学院という施設がある。
様々な国から生徒が集まり、魔法の研究・研鑽・探求が出来る素晴らしい学院。
僕。島・長吉は、東方の国家から入学してきて数週間。厄介ごとに首を突っ込み、その解決のため噂話を頼りにこの広大な学院を歩き回り、ようやく見つけ出したランプ。
学院の寮にある僕の自室で入念に準備を行い、ランプを噂通りに三回擦り。今に至る。
そんな状況で、僕の口はうまく回らず、ただつっかえそうになりながらも。彼女に願いを言う。
「この島・長吉に強い魔法を教えてください!!」
かつて魔王が振るったという災害のような叡智を教えてもらう為、絶対に勝つ為に探し回ったのだ。
最高の結果がまっているぞ!
「ふふん、ではシマよ。古き魔王の叡智を授ける。私の中で一番強い魔法、名を『ウィーク』。どれ、散らばる本をどかし、的になるものを用意せよ」
「あ、はい。じゃあ、このデカい石を使ってください」
「よろしい。竜の鱗を簡単に貫通できるようになる魔法じゃ」
超常存在である竜に通じる魔法を教授して頂けるとは。
未知に興奮する心を押さえつけ、床に散乱していた本たちを端においやり、スペースを作ることができた。
「さて、原理は後で説明する。手の動きと魔力の流れをよくみておけ」
「おお威力を上げるための詠唱もないとは、さすが古の魔法……!」
「エイショウ?よくわからんが見ておけ……『ウィーク』!」
魔王が軽く手を動かした後、魔力と呼ばれるエネルギーが特定の法則と属性を纏って石の真ん中に吸い込まれる。
未知の魔法に思わず身が乗り出す。はやる気持ちを抑えながら石を見る。表面上は変化がないが、中ではとんでもないエネルギーが渦巻いているんだろう。きっとそうに違いない!
ワクワクを抑えきれないでいると、威厳のある顔で魔王が動きだす。
魔法に必要な要素がまだあるのかと見守っていると。彼女は着弾した位置を軽く小突いた。
ボロボロと真ん中の表面だけ脆くなっていた。
は?
「どうじゃ。これが魔王の叡智……『ウィーク』じゃ!」
僕を誰が攻めることが出来ようか。御伽話に出る古の叡智はそれはそれは強いものだと普通なら思う。なんなら学園に通っている生徒に聞いて半数以上は同意してくれるだろう。
それぐらい衝撃だった。
胃が重い、動悸が激しい。この事実をよりにもよってこのランプの魔王に言わなければならないなんて。
「あの……僕たちが習ってる魔法より弱いのですが……」
原理はわかる。手の振りと杖の振り。そして魔法を起動させる法則が学園で習ってる基礎魔法『ウィークネス』とほぼ一緒だからだ。
ただ一点、威力は僕の時代のが強い。
「は……?んなわけなかろう。なら次じゃ『ムブ』!」
次は魔力を岩全体に付着し浮かんだ。
ただ、床からちょっとだけ浮いた程度。フワフワと数瞬動かした後。やり切ったような表情で魔王は顔を向けてきた。
「……嘘だろ?」
学校で教わる基礎魔法『ムーブ』だと、もっと高く浮かして素早く動かせる。圧倒的な人類の進歩をこんな形で体感するなんて。
解釈違いですお帰りくださいと発言できれば、どれくらい楽になるか。いやきっと僕が敗北するだけだ。あの憎たらしい王子様に。
とりあえず、心の平穏を保つために非常な現実を突きつけることにした。
「ランプの魔王さん、大変です。僕の魔法に負けてます。最低の威力です」
「……つまりどういうことじゃ」
「恐ろしい事に古の魔法は現代魔法に敗北してます。いまんとこ僕、ランプの精に勝てそう」
「はぁ!?なら次じゃ。ほら、刮目せよ!!あと我は精霊ではない、魔王じゃ!」
両手で顔を覆いたくなるのを必死に堪え、ランプの魔王が次々と繰り出す古の魔法を見る。
対象を弱くする魔法は一部分だけしか効果がなく。自分を加速する魔法は身体の一部分しか加速できず、魔力壁を作り出す防御魔法は僕の時代と比べると堅牢ではあるが、作る面積が小さい。
これら大半、学院で習う基礎魔法以下の性能であった。
「あの、魔王様……差し出がましいとは思いますが。強い魔法はこれで全部ですか……?」
ランプの返品を申し出る心と、魔王の人権が心の中で揺れている。例えるなら、拾ってしまった動物を元居た場所に戻すか悩む子供のように。それぐらい悲惨な結果だった。
やっぱり、返品しよっかな。
「『フーア』!……どうじゃ?勝てとるか?」
「炎の魔法ですけど……短すぎません? チカッとだけ現れただけでしたよ」
「我の現役時代はこれでよくてのう、近距離で『フーア』を出して視界を封じ、拳を急所に叩き込むのじゃ」
「猫だましじゃないですか……低燃費でよさそうですけど。うちの学校そこら辺読んでカウンターで魔法使われそうです」
今、魔王がだした魔法は、炎魔法。
通常、学園で習う炎魔法は『ファイア』。注ぎ込む魔力量によって炎を放射する。それに対し魔王様のは一瞬だけ勢いが強い炎 が揺らめき。消える。
使い道はあるが、強い魔法ではない。
世にある多数の魔導学院でも。ここは戦い慣れた生徒が多い関係上、失礼だが、なんの足しにもならない。
「【一杖一剣】の制度があるんで近距離戦での目くらましは、自身の獲物で迎撃か、一旦離れるかぐらいはするんで実用性が……」
【一杖一剣】とは常に武器と杖を一つずつ身に着けることが義務付けられている制度。僕の場合は杖と小太刀だ。
「……シマよ。なぜ強い魔法を求める?」
「なんですか、いきなり」
「我を探し出し、願った奇跡がこんな結果になっとるんじゃ。聞きたくなるわい。普通は王様の地位や金銀財宝を願うぞ」
現れた時より肩を縮ませて、鼻をすすりながらしょんぼり雰囲気の魔王様が聞いてきた。
「んー経緯が複雑なんですが……まずこの学校には【挑戦権】という決闘申告制度があります」
彼女が使っていた魔法の所感を紙に書き写しながら悩む。どこまで喋るか。
「それを使い。さる大国の王子様に挑みました。ただ敗色濃厚なので願いました。勝つ為に……以上です」
「勇気あるのう」
「……んなわけありません。女の子をただ助けたくなって、全力で死地へと赴いてしまっただけです。こうしてランプの魔王に教えを乞うている負け犬ですよ。今は遠吠えをどれぐらいの声量にしようか試行錯誤してます」
あの日の僕はどうかしていた。入学して数週間。他人が虐められても見て見ぬ振りをしていたのに、今回に限って。妙に見知った相手が虐められてて身体が勝手に動き。結果、必死に魔王様に縋っているこの状況。
後悔はしている。迷ってもいる。だが、勝ちたい。
話を聞き、悩まし気な表情で顎に手を当てるランプの魔王。
「意欲は良いがのう、あと何か出来そうな魔法じゃとこれぐらいしか……【イングリース】」
魔法が使用され、彼女の身体に魔力が纏わりつき。引き締まったお腹から突如手が生えた。
「これなんですかマジ無理ごめんめっちゃ怖い!?」
咄嗟にベッドに隠れた。
「身体の部位を生やす魔法じゃ。何個でも生やせるぞ、鼻でも手でも鼻でも足でも」
「なんで鼻を推すんですか」
「だって鼻単品ってなんかキモくない?精神的動揺を狙うのじゃ」
「おおぅ、ド偏見ですよそれ……いや。この魔法、口は生やせます?」
「いけるぞ」
ふと、考えが頭をよぎった。顎に手を当て考える。口が生やせるのなら、詠唱ができる。
「これって、口でそれぞれ別の魔法が唱えられたりしますか?」
「もちろん我直々教わればいける……なぜ聞く?戦に置いてこんなのは利点にならんじゃろ」
「……この学校。実は戦闘時に特殊ルールがあります」
「戦場にンなもんいらんじゃろ」
「学校限定ですのでまあ参考に……」
学園長が考案した【挑戦権】の校則には、学園戦闘全般で魔法の縛りが存在する。
それは基礎魔法を最低2つ。応用魔法を最低1つ。そしてこれらを合わせて5つまでの魔法しか使用してはならず、アクセサリーを1つだけしか身に着けることができない――というもの。
「こんな制度で魔法がかなり制限され、素早い魔法連携による立ち回りが基本です。ただその中でも安全に詠唱ができるとなれば話が変わる」
「……つうかなんじゃそのエイショウとやらは、イメージが全くできん」
「そうですね。罵倒をしながら戦闘はできますよね?」
「我の時代ではマナーじゃったな」
古の時代怖い。
「その罵倒が魔法を補助する感じです。さっきの魔法でも威力が上がります」
「おわ最新魔法の申し子こわ……もうちょっと肉体言語で語り合わん?」
口を生やし、同時に詠唱できるようになれば。あとは簡単な話だ。
「つまり、全身に口を作って王子様を圧倒しよう。魔法でも技術でもぶちのめしてやる」
「優しい言い方じゃのう。蹂躙して尊厳破壊してやる、ぐらい言わんかご主人様よ」
段々と腕に増え始めた口唇をみて、怪しく笑う二人がそこにいるの間違いない。





