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いいご身分だな、俺にくれよ  作者: nama
第十八章 新王アイザック編 十九歳~

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547 十九歳 予期せぬ爆弾

 夜にはギャレット一行を歓迎する晩餐会が開かれた。

 これまでロックウェルの王族が来訪した事はあっても、両国の間にファーティル王国があった。

 そのため、国王自ら足を運んだのは、この二百年で初めての事である。

 とはいえ王都にいる全貴族を集めたわけではなく、4Wを中心として大臣などを中心に出席させていた。

 話をするには、落ち着いた雰囲気が必要だったのだ。

 双方の出席者の紹介をしたあと、アイザックはギャレットに話しかける。


「しかし、意外でした。てっきり私はシルヴェスター殿下とビュイック侯の首が送り届けられると思っていたのですが……。もっとも、ロックウェル王国の内情を知った今では、ギャレット陛下の決断も理解できますが」


「ギャレットの決断が理解できる」と思ってしまうほど、ロックウェル王国の内情は酷いものだった。

 まず命綱である鉱山のほとんどが、ファラガット共和国からの借款の担保となっていた。

 しかもその返済が滞っている。


 にもかかわらず、ファラガット共和国側は差し押さえしていない。

 差し押さえてしまえば、その鉱山の運営を自分達が行なわねばならないからだ。

 彼らは責任を負う事なく、甘い汁だけを吸い続ける事を選んでいた。

 かつてギャレットが言った「賠償が欲しければロックウェル王国を占領してみろ」というのは「占領して現状から解放してくれ」という魂の叫びだったのかもしれない。


 鉱山収入は国家予算の半分近くを占める。

 そのほとんどを他国に握られている状況は生きた心地がしないはずだ。

 現状を打破するきっかけを待ち望んでいたに違いない。


「持ち込まれた書類は、こちらで把握している情報と精査しているところですが、概ね大きな差はないようですので書類を信じてもいいでしょう。だからこそ正式な交渉の前に、あえて問わせていただきましょう。打開策は何か考えておられますか?」


 ――ただリード王国の金にたかろうとしているだけならば許さない。


 アイザックは、そういう意思を込めた視線でギャレットを見つめる。

 一瞬、ギャレットはアイザックの視線にたじろいだ。

 見た目は迫力のない優男ではあるが、その中身を知っていれば、視線に込められた脅威を十二分に感じ取る事ができたからだ。

 下手な冗談や誤魔化しは効かないという事を悟っていた。


「打開策は用意しております。ただ、ロックウェル王国単独では不可能なものばかりですので、貴国の威光にすがる事になるでしょう」

「ほう、威光ですか」


 アイザックは微笑む。


(よかった。もし「金を立て替えてくれ」と言うだけだったら断っていたところだったよ)


 争う事なく一国が手に入るメリットよりも、王国内部を腐らせるデメリットのほうが大きいと、アイザックは考えていた。

 そんな寄生虫のような者など受け入れるようなつもりはなかった。

 だから、威光にすがる(・・・・・・)と言ってきた事に満足していた。

 アイザックが考えたロックウェル王国を救う方法も、やはりリード王国の力を利用したものだったからだ。


「私もロックウェル王国のすべてを知っているわけではありませんが、行き詰った現状を打破する方法をいくつか思いついています。もしかすると、ギャレット陛下の打開策と同じものかもしれませんね」

「わずか半日で思いつかれたのですか!?」

「まだ貴国について詳しく知らないからこそ、簡単に出せたという事もあるでしょう。実際に提案をしてみれば、その案は論外だったという事になるかもしれません。それは正規の交渉の席でお話させていただきましょう」

「今からその打開策を伺うのが楽しみです」


 国を救うチャンスが訪れたのだ。

 ギャレットは上機嫌になっていた。


「私の代でロックウェル王国の歴史が終わる事に、祖先には申し訳なく思っています。ですが、国民を明日の見えない苦痛から解放できるのは喜ばしい事だと思っています。アイザック陛下、よしなにお取り計らいくださいませ」

「了承した……と返事をしたいところですが、まだ正式な交渉も始まっていません。気が早いですよ」


 アイザックの返事を聞いて、ギャレットはキョトンとした。


「ヘクター陛下から『パメラ殿下が男児を産み、ロックウェル王国の脅威が取り除かれれば、ロレッタ殿下との結婚を認める』という話を聞いております。そこまで話が進んでいて、まさかここで反故にしたりはしないでしょう。そのような事になれば、ファーティル王国との関係が悪化するのではありませんか?」

「それは結婚する前提条件です。他の条件や状況を考えて、ロックウェル王国を受け入れるべきではないと判断する場合もあるでしょう。ヘクター陛下からどのような話を聞いたのかは存じませんが、選択権はこちらにあるという事はお忘れなきように」

「そ、それは……」


 ギャレットは、ギョッとした表情を見せた。

 なんだかんだ言っても、アイザックとロレッタの結婚は決まっているようなものだと思っていたからだ。


(もしや、正直に国の現状を教えすぎたせいか? いや、打開策が思い浮かんでいると言っているのだ。立ち直ったロックウェル王国を無血で手にできるというのに、本当に断るつもりか? これは自分の思い通りにいくと思うなという脅しか? 国が助かると思って、調子に乗るなという警告か?)


 ギャレットは動揺していた。

 しかし「失敗した時に落胆しすぎぬよう、釘を刺されているだけではないか?」とも考える。

 少し浮かれてしまっていた自分を戒める。


「失礼しました。確かにアイザック陛下に決定権がございます。国民を救う事ができると思い、先走ってしまったようです。申し訳ございません」

「いえ、民を思いやるその心は立派なものだと思います。上手く話を進めるために交渉をするのですから、気長にいきましょう」


 もしギャレットが「国を明け渡すから自分だけでもいい暮らしをさせてくれ」と頼んでくるような人物であれば、アイザックもこんな言葉をかけずに突き放していただろう。

 かつては敵ではあったが、国民のために何かをしたいという考えは尊敬できるものである。

 だから、アイザックの対応も多少は甘くもなる。

 彼の事を後先考えずにメリンダを追い出した浅はかな人物だと思っていた。

 だが、年を取ると共に成長していったのだろう。


「そういえばサンダース子爵と話をしましたが、話をすればするほど、トムを討ち取ったとは思えないほど温厚な方だという印象を受けましたね」


 ギャレットが話を変えようと、ランドルフの話を持ち出した。

 これにはランドルフ本人も苦笑いを浮かべるしかない。


「それは話させていただいたように、ドワーフ製の槍を持っていたからですよ。たまたま当たり所がよく、討ち取れただけです」

「いやいや、謙遜はよくない。トムを討ち取ったと堂々と誇ってくれたほうが、我が国の武官達も納得できるだろう。あぁ、ところでアイザック陛下にお聞かせしておきたい事がございます」


 ――そう、ランドルフがドワーフ製の話をしていた事はすでに知っていた。


 だから、ギャレットはこの話題を振ったのだった。


「比較的確度の高い情報ではありますが、書類には記載していない情報があるのですよ」

「どのようなものですか?」

「ファラガット共和国が、ウォーデンという街に奴隷にしたドワーフを集めているそうなのですよ」

「ドワーフを奴隷に!?」


 この情報は、アイザックも知らなかった。

 モーガンやランカスター伯爵に視線を向けるが、彼らも知らない様子だった。

 もしくは、噂に聞いていても報告できるだけの情報の精度がなかったのかもしれない。

 アイザックは、ドワーフと良好な関係を築いている。

 ファラガット共和国のドワーフの存在を無視できないはずだ。

 彼らの反応を見て、ギャレットは勝利を確信した。


「種族間戦争で捕虜にしたドワーフの子孫がいるそうです。もっとも数は少なく、冶金技術もノイアイゼンとは比べ物にならぬほど粗末で、我らと同じ素材で精巧なものを作っているだけとの事。実際にただの人間とは思えないほど凄腕の職人を多く抱え込んでいるようです」

「それをノイアイゼンのドワーフが聞けば、助け出したいと言い出しかねないですね。できれば彼らを争いには巻き込みたくはないのですが……」


(マジかよ、やったぜ!)


 言葉とは裏腹に、アイザックは喜んでいた。

 ロックウェル王国を併合するにあたり、ファラガット共和国やグリッドレイ公国の存在は目の上のたんこぶであった。

 実質的に彼らの奴隷のような扱いを受けているロックウェル王国を解放すれば、彼らに恨まれる事になる。

 ザックが即位する前に火種を片付けておけば、リード王国の安定に繋がるはずだ。

 戦争の口実が一つできた事に感謝していた。


 それにアイザックがエルフやドワーフを戦場に連れていきたくなかったのは、リード王国の支配(・・・・・・・・)のためである。

 異種族の力を借りて王になってしまっては「自分だけでは王になる力がない」と思われて、貴族の支持を得にくいと考えていたからだ。

 だが、他国との戦争は違う。

 エルフやドワーフの力を借りても、それは「王に力がない」のではなく「異種族の力を利用できる力がある王だ」とアピールする事ができる。

 ファラガット共和国相手には、ドワーフの援軍を招き入れ、そのままノイアイゼンをリード王国の衛星国にするチャンスが生まれるかもしれなかった。


「大陸各地で戦争が起きていたのです。同族の集まる地に移り住む前に捕虜になった者がいてもおかしくありませんね」


 アイザックは喜びを隠し、沈痛な面持ちを浮かべていた。


「ノイアイゼン産の道具を見た時、私はリード王国に武具を輸出された場合は脅威になると考えました。それに比べて、ファラガット共和国産の武具は多少品質が良い程度だったので脅威には思っておらず、ドワーフがいるという情報は無視しておりましたが、アイザック陛下は気になる情報でしょう?」

「ええ、無視できる話ではないですね」


 アイザックは、ギャレットに一本取られたと思っていた。

 この話を聞いて、何も手を打たないわけにはいかない。

 ドワーフ達への手前、ファラガット共和国に密偵を送るくらいはしないといけないだろう。

 それが事実だった場合、ロックウェル王国はファラガット共和国への進撃路として重要になる。

 多少の問題ならば飲み込んで、受け入れてやらねばならなくなった。


「これに関して事実が確認されるまではないものとし、ロックウェル王国との交渉には影響を与えないとしましょう。ただし、外務大臣であるウェルロッド侯には、今後は噂の真偽を確認していただきますがね」

「ええ、裏付けもなしに行動するのはありえませんから」


 ギャレットは、アイザックの意見を尊重しながらも、内心では「くさびを打ち込めた」と満足していた。

 ロックウェル王国の事を考えるにせよ、どうしてもドワーフの事が頭にチラつくはず。

 併合のハードルが、かなり下がるはずだ。

 この情報を早い段階で伝える事ができた時点で、ロックウェル王国が有利になった。

 問題があるとすれば一つ。


 ――ドワーフの存在を聞かなかった事にして見捨てるという選択を取られた場合だ。


 さすがにギャレットも、ノイアイゼンのドワーフに告げ口をして、アイザックを敵に回すつもりはない。

 ただ、そういう噂がある(・・・・・・・・)と言っただけだ。

 それをどこまで問題と捉えるかはアイザック次第である。


 ――願わくは、深刻な問題として捉えてほしい。


 弱気な気分になった彼は、グラスのワインと共に弱音を飲み干した。

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― 新着の感想 ―
[良い点] たぶん初出のクリッドレイ公国に世界観の拡がりを感じます。続きが読める幸せに感謝。
[気になる点] 鉱山のこととか昔のやつで思い出したんですが マイケルの親父が反乱に加担したことで取り潰されたはずの家の領土とか鉱山ってどうなったのです? マイケルの孫の代まで利益がランカスター家に入る…
[良い点] ファラガット共和国に攻め込む大義にして口実が出来ましたw [気になる点] この時代に共和制の国って、王侯貴族にとっては相容れない宿敵のようなものですからね。現代の民主主義国家のようなもので…
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