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いいご身分だな、俺にくれよ  作者: nama
第十七章 王位簒奪編 十八歳~十九歳

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491 十八歳 王の矜持

 近衛騎士達は二手に別れた。


 副団長が率いる部隊は、ミルズのもとへ。

 そして一隊は、エリアスのもとへ。


 さすがに子供まで手をかけるのに抵抗があったのか、ミルズのもとへ向かうのを嫌がる者が多かった。

 そのため、副団長が自ら始末をつけると決めた。

 今は汚れ仕事を嫌っている場合ではないからだ。

 少しでも生き残る確率を高めるため、誰よりも強い覚悟を決めていた。


 ジェイソン派の近衛騎士は、速やかに行動する。

 日頃の訓練の賜物だろう。

 披露する相手が王族というのが皮肉なものだった。


「……なにをしにきた?」


 突然、現れた近衛騎士達に、ミルズが問いかける。

 この時、彼は「面会の予約もなしにくるとは無礼者め!」と言えなかった。

 近衛騎士達が訪れた理由に心当たりがあったせいだ。

 その弱気の姿勢が、近衛騎士達に「アイザックに協力していたのは事実だった」という確信を持たせる。


「それは殿下ご自身が、よくおわかりなのでは?」

「さて、どのような事かわからぬな」


 ミルズは、すっ呆ける。

 だが、内心では焦っていた。


(もしや、エンフィールド公との密談が気付かれたのか? しかし、裏切り者などいない様子だったが……。まずは様子を見るべきだな)


「いきなり険しい顔をした者達がきたせいで、子供達が怯えてしまっているではないか。警備は……、近衛か」


「警備はどうした?」と言おうとしたところで、ミルズはそれが無駄だと悟った。

 王族の護衛に付いているのは近衛騎士である。

 彼らは近衛騎士団の副団長の命令に逆らえない。

 姿が見えないので、離れておくようにでも命じられているのだろう。

 怯えている使用人しかいないので、助けは期待できない。


「殿下、すべてわかっているのですよ。エンフィールド公と共謀し、国家を転覆せしめんとする企てを謀ったという事はね」

「何の事かわからないな」

「ブランダー伯から誰が裏切っているのかを聞いておりますので、とぼけても無駄です」

「ブランダー伯が!」


 当初はとぼけていたが、ブランダー伯爵の名前を出されると、ミルズは反応してしまった。

 それが答えそのものだった。

 副団長達は、エメラルドレイクで戦闘が始まったという情報が事実だと確信する。


「王族であろうとも、王家への反逆は許されません。ご家族と共に身柄を拘束致します」

「王家への反逆だと? それは貴様らの方であろう! ジェイソンと共謀し、兄上を牢に押し込めるなど言語道断! 兄上を救おうとした私が罪に問われるいわれはない!」


 これはミルズの、せめてもの抵抗だった。

 アイザック達との密談は、家族や使用人達には話していない。

 エリアス救出のために動いていたと明らかにする事で、使用人の誰かがエリアス派の貴族に助けを求めにいってくれる事を期待していた。


「その件は私達にではなく、ジェイソン陛下に申し開きしていただく事になるでしょう。手荒な真似はしたくありません。大人しく同行していただきたい。これからは先王陛下とゆっくりとした時間を楽しめるはずです」

「本気で私達まで幽閉しようというのか……。今、降るならば兄上やエンフィールド公に口利きしてやってもいい。これ以上罪を重ねるな」

「もう後戻りはできないのですよ。さて、どうなさいますか?」

「……わかった、いこう」


 せめてもの抵抗としてミルズは説得しようとするが、副団長は軽く受け流した。

 これ以上の抵抗は無理だと判断し、ミルズは同行を認める。


「ご理解いただき、感謝しております」


 副団長の言葉は本心からのものだ。

 直接、子供を手にかけるのはさすがに避けたかった。

 暴れずに付いてきてくれるのは、正直なところ助かる思いだった。



 ----------



「おや? 面会の予定は聞いていなかったのだがな。家族とのディナーを楽しめとでもいうのか?」


 エリアスが、ミルズに話しかける。

 今日は夫婦だけの夕食ではなく、弟一家が招かれていた。

 珍しい計らいに、軽口も出る。

 だが、ミルズの方は軽口を返すどころではなかった。


「私達もこの監獄塔で暮らす事になりそうです」

「……そうか」


 エリアスも「弟一家とディナー」という計らいを、近衛騎士団がしてくれたとは本気で思ってはいない。

 ミルズ達の怯えた表情を見て、せめて雰囲気だけでも明るくしようと思ったが効果はなかったようだ。

 しかし、ミルズは少しでもエリアスを勇気づけようとする。


「ですが、そう長くはならないでしょう。ジェイソンは、エメラルドレイク周辺におびき出されました。今頃、エンフィールド公が王国中の貴族を率いて戦っているはずです」

「ほう! やはり、エンフィールド公か!」

「まぁ、それは頼もしい」


 こうなっては隠す必要はない。

 ミルズは、エリアスとジェシカに状況を伝えた。


 彼らは状況を素直に喜び――


「やはり、ジェイソンとエンフィールド公が争う事になったか……」


 ――そして、悲しんだ。


 手を取り合って協力関係になるはずだった二人が争うところは想像もしたくない。

 しかし「助けてくれるとすればアイザックだ」という予想はしていたので、こうなる事は心のどこかでわかっていた。


「ですが、どうやらブランダー伯が裏切ったようです。彼のせいで情報が漏れてしまい、エンフィールド公に協力していた私は、こうして拘束されてしまいました」

「ブランダー伯がか……。だが、それも仕方ない。ここにいても、マイケルが外務大臣に任じられたという大きな話は耳に入ってくる。息子可愛さに寝返ったのだろう。それではエンフィールド公も厳しいのではないか?」

「いえ、そうではないでしょう。王国軍が出陣したのは二週間程前の事。これまで私を捕らえようとしていなかったので、ジェイソンはエンフィールド公を信じ切っていたはずです」

「ほう、それはそれは吉報だな」


 エリアスが嬉しそうに目を輝かせる。

 そして、近衛騎士達を一瞥した。


「今頃になってミルズを拘束するという事は、エンフィールド公の計画が成功して、ジェイソンの形勢が不利になったという証明だ。ブランダー伯が裏切ったというのに、実際に裏切られるまで彼の言葉に耳を貸さなかったという証拠だな。どうだ? 大人しく降伏するなら、処罰に手心を加える事を考えてやってもいいぞ」


「今ならば家族にまでは手を出さない」という事を匂わせたが、誰も話に乗ってこなかった。

 エリアスは、つまらなそうに鼻を鳴らす。

 しかし、すぐに気を取り直した。


「こうして我らの話を止めずにいるという事は……。こやつらもこれから先、どう立ち回るかを迷っているという事でもある。焦る必要はない。エンフィールド公が迎えにきてくれる時まで、ゆっくりと家族団欒の時間を楽しもうではないか」


 エリアスは余裕の笑みを見せる。

 それは虚勢であった。

 ジェイソンがアイザックの追撃を振り切って、戻ってくる可能性もある。

「降伏した」という知らせが入るまでは、まだ安心できなかった。

 それでも、余裕を見せねばならない時もある。


「ネッド、アニー。突然近衛騎士がきて怖かっただろう。だが、もうじきエンフィールド公が悪い奴らを倒してくれる。しばらくの辛抱だ」


 ――甥と姪を怖がらせないため。


 二人とも王族だけあって、危険とは縁のない日々を送っていた。

 この異常事態に、幼いながらも恐怖を感じている。

 伯父である自分が安心させねばならないという使命感から、笑顔を見せていた。

 しかし、彼らは怯えたままだった。

 まだ一歳のアニーの方は、乳母に抱き着いて顔を見せようともしない。

 二人とも泣いていないのが不思議なくらいだった。

 ジェシカがクスクスと笑う。


「ネッドは逞しい男の子に育ちそうですね。ジェイソンは、その年頃だと夜の暗闇でさえ怖がっていたのに」

「あぁ、きっと立派な若者になってくれるだろう。将来が楽しみだ」


 エリアスも、ジェシカの言葉で昔の事を思い出した。

 幼い頃のジェイソンは、臆病なところがあった。

 それが今では、親に歯向かい、国を乗っ取るほどにまでなった。

 立派になったと喜べる事ではないが、成長はしているのだろう。

 ジェイソンが親の手を離れて、とても遠いところに行ってしまったような気がしていた。

 それも望まぬ形で。


「食事の用意ができていますので、ご家族でお楽しみください。これからはゆっくりと話す事もできるでしょう」


 雑談を遮るように、副団長が食事を勧める。

 侍女達が食事を運び、テーブルに並べていく。

 アニー用に離乳食もちゃんと用意されていた。

 だが、彼女達の顔色は悪い。

 それが、この状況によるものなのかは、エリアスにはわからなかった。

 しかし、違和感を覚えていた。


(なぜ、こやつらはまだ残っているのだ?)


 ミルズ一家を連行するために大勢いたのはまだわかる。

 だが、彼らの連行が終わり、夕食を食べ始めるのを見守る理由がわからない。

 いや、見守るというよりも、見張っているという様子である。

 つまり、見張らなければならない理由があるという事だ。

 エリアスは、運び込まれた料理に視線を向ける。


「……禅譲させられたとはいえ、私がジェイソンの父であり、王族であるという事に代わりはない。諸君らに毒見をしてもらおうか」


 エリアスは、軽くかまをかけてみた。

 すると、近衛騎士達の顔色が変わる。


「その必要はありません」

「ほう、なぜ必要ないと言い切れるのだ? ここにはジェイソン以外の直系の王族が集まっている。なにかあっては――」


 そこまで言葉にして、エリアスがハッと気付く。


「貴様ら、私達を殺す気だな!」

「な、なにをおっしゃるのですか?」


 エリアスの指摘に、隊長クラスは動揺を見せなかったが、部下達は違った。

 明らかに狼狽している。

 エリアスは、自分の考えが正しいと悟った。


「直系の王族がジェイソンだけになれば、王位から引きずり下ろすのが難しくなる。私が王位に返り咲くよりも、その方がお前達も助かる光明が見えるというところか」

「ちっ」


 一人の近衛騎士がエリアスを黙らせようと動く。

 だが、侍女が彼に抱き着き、動きを止める。

 脅されていたが、最後の最後で思い直し、エリアスを助けようとしていた。


「食事には毒が仕込まれております! 絶対に手を付けないでください!」

「ええい、邪魔をするな!」


 近衛騎士が侍女の首を折り、邪魔者を排除する。

 侍女に気を取られた隙を、ジェシカは見逃さなかった。

 彼女は近衛騎士が侍女に気を取られている間に立ち上がっており、上段回し蹴りを側頭部に叩きこむ。

 そして、よろけた近衛騎士の目に、エリアスがナイフを深く突き刺した。


「なるほど、お前の言う通りだったな。食事用のナイフでも、目の奥深くに突き刺せば命を奪えるらしい」


 エリアスは、トドメを刺した近衛騎士相手に呟く。

 だが、いつまでも彼に構ってはいられない。

 さらに一本のナイフを手に取った。

 ミルズも慌ててナイフを手に取り、子供達を庇うように立ちあがった。


 彼らの姿を見て、副団長は深い溜息を吐く。

 その表情は、心底残念そうだった。


「せめて苦しまずに逝けるようにという配慮だったのですがね。さすがに直接手にかけるのは避けたかったのですが……、残念です」

「ジェイソンのために、そこまでやるのか? いくらなんでも、このような暴挙をジェイソンは許しはせんぞ」

「いいえ、これはジェイソン陛下の命令ですよ」

「戯言を!」

「事実ですよ。でなければ、我らの独断でできるような事ではありません」


 エリアスは絶望に満ちた顔を見せる。

 今のジェイソンならあり得る。

 だが、絶望したのは「ジェイソンが、そんな命令を出すはずがない」という考えよりも「今のジェイソンならあり得る」と真っ先に考えてしまった事に対してだった。


 ――息子が親殺しを命じる。


 その事を否定できない現状に、何よりも絶望していた。

 しかし、一方的にやられるつもりはなかった。

 勇気を振り絞り、近衛騎士を睨みつける。


「エリアス・リードの首、決して安くはないぞ! 死にたいものから前へ出るがよい! リード王国国王が自ら手打ちにしてくれる!」

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― 新着の感想 ―
エリアスめっちゃ面白いキャラだったな。小心な王でありながら一人の父親でもあったし……というかこの小説全体として親心がとても大事にされている印象がありますね。 ちょうどこの話を読んでいるときに粉雪という…
[一言] あぁ、エリアス。 感慨深い
[良い点] エリアス……ここまで来たら流石にアウトかな……。裏切る前提だったとはいえ今までアイザックを重用してたからそれほどヘイトはないし……空を飛べなかったのは残念だけどあの世で体験出来ることを祈る…
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