106 十歳 ランドルフとメリンダの関係
異種族との交流は子供には良い体験だったようだ。
ただの雑談でも、ポールとレイモンドは楽しそうに話をしていた。
エルフ達も「何か思惑があるのかも?」と心配しなければならない大人相手とは違い、子供相手なら気楽に話せるので、彼らにとっても良い気分転換になっていた。
子供の無邪気な視線で見られると、気の良い者はついサービスをしてしまう。
手の上に火を出したりするなど魔法を使って、ポールとレイモンドを楽しませていた。
エルフ達との雑談が終わると、二人は名残惜しむように家へ帰っていった。
挨拶に向かったクロードが戻ってきたのは、二時間ほどしてからだった。
「どうしたの、クロード。遅かったじゃない」
エルフの女が、挨拶の割に帰りの遅かったクロードに質問をする。
「ああ、ちょっとな。アイザック、ランドルフ殿が会いたいそうだ。行ってこい」
「えぇっ! いったい何を話したらそうなるの!」
今までアイザックも、ランドルフに何もしなかったわけではない。
ちょっとした手紙を添えて花束を贈ったりはしていた。
しかし「ありがとう」の一言が書かれた手紙だけで、会った事はなかった。
どうして急に心変わりしたのかが不思議で仕方がなかった。
「俺は妻を亡くして子供もいない。お前はすぐ傍にいるじゃないか。話さなくてどうするって感じかな」
確かに妻と子が殺された事はショックだろう。
だが、アイザックも自分の子だ。
すれ違いがあったのなら、その分じっくり話し合えばいい。
わざわざ接触を絶つなどという事は、クロードには理解できなかった。
だから、つい「アイザックと話した方がいい」とランドルフに言ってしまっていた。
ランドルフも「父」になれなかったクロードの言葉を聞いて、思うところがあったのだろう。
アイザックと向き合おうと決心したようだ。
問題があるとすればアイザックの方だ。
今まで会ったら話そうと思っていた色々な事が、突然の事で頭から抜けてしまっている。
まだ心の準備ができていないのだ。
しかし、それでもせっかくの機会。
これを逃せば次はいつになるかわからない。
行くだけ行ってみようと腹を決める。
「わかりました。行ってきます。ありがとうございます。皆さんもゆっくりしていってください。勝手ながら失礼致します」
アイザックはエルフ達に一言告げると、父の部屋へと向かっていった。
「事情は知らないが、人間にやけに入れ込むじゃないか」
エルフの一人がクロードに茶化すような声で話しかけた。
「俺はこの家で世話になっている。それに、傍で見ていてもどかしい思いもあった。そのせいか、挨拶した時にちょっと話し込んでしまったんだ」
「へー。……お前もそろそろ再婚してもいい頃なんじゃないか?」
「子供は欲しいと思うが……。いい相手がいればだな」
「お前はいつもそれだ」
クロードも新しい人生を歩もうとしている。
だが、亡くなった妻を忘れさせてくれるような相手が見つかっていない。
ランドルフは愛する妻と子を失ったが、悲しみを癒してくれるもう一組の妻子がいる。
そのせいで、ランドルフと会った時につい肩入れしてしまっていた。
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アイザックはランドルフの部屋のドアをノックする。
「アイザックです」
「ああ、……入ってくれ」
ドアの向こうから、久方振りの父の声が聞こえる。
(どんな顔をして会えばいいんだ……)
ここに来て、アイザックはランドルフと会う事をためらい始めた。
会いたいとは思っていたが、どんな顔をして会えばいいのかわからない。
(いや、とりあえず会おう。それから考えよう)
アイザックは思い切ってドアを開いた。
顔を合わせれば、どうにかなるだろうと思ったからだ。
父が一歩踏み込んできてくれた。
その機会を逃さず、受け止めようとアイザックも一歩進む事に決めた。
ドアを開けると、ランドルフがソファーに座っていた。
一瞬アイザックと目を合わせると、気まずそうに視線を外した。
彼も約一年振りに会う息子と、どう顔を合わせたものか困っている。
気持ちはお互いに同じだった。
「お父様、お久し振りです。お元気そうで何よりです」
「ああ、アイザックもな」
ランドルフは少し頬がこけたような印象を受けるが、体は元気そうだ。
(それもそうか。下半身は元気だったもんな)
精神的な病であって、肉体的な病ではなかった。
だから、ケンドラをルシアに生ませる事も可能だったのだ。
そう思うと、少しムカつきを覚えてしまう。
(いやいや、こうして会おうと思ってくれた事を喜ぶべきだろう。そう、親父が元気になって良かった)
アイザックは、そのように考え直した。
あと五歳、年を取っていれば下半身をネタにして嫌味の一つや二つ言っていたところだ。
しかし、今はまだ十歳。
あまりそういうネタに触れるのは控えようと思ったからだった。
「そこに座れ」
ランドルフが指差したのは、自分の対面にあるソファー。
その隅だった。
アイザックは大人しくそこに座る。
すると、ランドルフはアイザックと反対側の隅に座った。
センターテーブルを挟んで、二人は対角線上に座っている形になる。
その事をアイザックが不思議に思っていると、ランドルフが説明した。
「万が一のためだ。感情が高ぶって、お前を殴ったりしたくはない……」
「そうですか……」
やはり、まだ完調というわけではないようだ。
それでも、アイザックのために配慮ができる程度には治っているらしい。
(クロードが突然用意した状況だもんな。お互いに心の用意をして話し合おうってなったわけじゃない。でも、こういう機会でもないと話すきっかけがなかったし……)
父との関係をなんとかしたい。
しかし、そのきっかけがなかった。
どういう結果になろうと、クロードには感謝しておくべきだろうとアイザックは考えていた。
「お父様とは色々と話したかったです。ですが、何から話せばいいのか。頭の中から飛んでしまっていて……。メリンダ夫人や兄上を殺してしまって、申し訳ございませんでした」
アイザックの謝罪を受けて、ランドルフは悲しそうな顔をする。
「それに関しては私にも責任が……ある。すまなかった」
その事を認めるまでに、どれだけの葛藤があったのだろうか。
事件直後とは違い、アイザックを責める様子はなかった。
父の様子を見て、アイザックは一歩踏み込んだ質問をする事にした。
「責任といえば……。なぜメリンダ夫人と結婚したのですか? お母様の事が好きだったのなら、二人目は必要なかったのではありませんか? そのせいで家庭内に問題の火種ができてしまいました」
「あ、あぁ……。それはだな、話せば長くなる」
「構いません。聞かせてください」
この事は非常に重要だ。
内容次第で、親子関係に決定的な亀裂をもたらす可能性がある。
だが、アイザックも納得できるような内容であれば、歩み寄る事ができるかもしれない。
多少話が長くなろうとも、話し合う時間はいくらでも作れる。
話し合う時間を惜しんで、これから先の長い時間を無駄にはしたくなかった。
ランドルフは迷っていた。
子供にどこまで話していいのかを。
しかし、話さなければ何も変わらないとも思っていた。
意を決して口を開く。
「メリンダは……、初恋の人だったんだ」
「はぁ!?」
ランドルフの思いがけぬ告白にアイザックは驚きの声を上げる。
その反応を見て、ランドルフは説明を続ける。
「別にお前のように、一目惚れをしたわけじゃなかったんだ。最初は……、今の状況で言うならお前とウォリック侯爵家のアマンダのような関係だった」
「どういう事ですか?」
「婚約者ではない。けど、周囲からはお似合いじゃないかと思われる関係だ」
「あぁ……」
アイザックには婚約者がいない。
それは婚約を破棄されたアマンダも一緒だ。
同じ侯爵家同士、二人が婚約してもおかしくないと思われているのは、アイザックも理解している。
モーガンもアイザックとの約束が無ければ“アマンダとの婚約自体は悪くない”と思っている。
ウォリック侯爵もそうだ。
同格であるウェルロッド侯爵家に「アマンダをどうだ?」と売り込んでいた。
当事者たちがそう考えているのだ。
周囲も同じように思っているはずだった。
しかし、その事が初恋とどう関係するのかがアイザックにはわからなかった。
黙っていると、ランドルフが話を続けた。
「お爺様が政略結婚の相手を探していたので、私は婚約者がいなかった。それはメリンダもそうだ。彼女はウィルメンテ侯爵によって、私の婚約者が決まらなかった時のために婚約者を決められずにいた。私はメリンダを、メリンダは私を、有力な婚約者候補として意識していった。それから、異性として意識し始めたんだ」
ランドルフはメリンダの事を思い出してか、両目から一筋の涙を流す。
アイザックがパメラに感じたような衝撃的な出会い方ではない。
時間を掛けて、ゆっくりと相手を意識していった。
それだけに、愛も深かったのだろう。
「ですが、お父様。僕はメリンダ夫人が外国の王族に嫁ぐ予定だったと聞いています。そのような相手を意識してたんですか?」
アイザックはランドルフに疑問をぶつける。
この疑問は自分に返ってくるものでもあった。
アイザック自身が「自国の王子に嫁ぐ予定のパメラを意識している」のだから、人の事は言えない。
だが、それでも聞かずにいられなかった。
「メリンダは元々婚約者は決まっていなかった。ロックウェル王国のギャレット王子との婚約が決まったのは戦争が終わってからだ。お爺様が亡くなった戦いの事は知っているか?」
「東のファーティル王国が、さらに東のロックウェル王国に攻められた戦いで亡くなったという事は知っています」
ロックウェル王国とファーティル王国は元々一つの国だった。
だが、二百年前の戦争で二つの国に分かれた。
そのせいで歪な関係となっている。
ロックウェル王国は、鉄鉱石などの地下資源が豊富な国。
しかし、食料生産が少ない。
国全体がウォリック侯爵領のように、鉄などの地下資源を売る事で食料を輸入に頼っている部分が大きい。
ファーティル王国は、地下資源が少ないが肥沃な大地を持った食料生産量の多い国だった。
元々一つの国だった時代は良かったが、二つに分かれた事で極端な特徴を持つ国となってしまった。
国が分かれて以来、ロックウェル王国は食料の安定供給を求めてファーティル王国に度々攻め込んでいた。
ジュードが戦死したのは、十五年ほど前の戦争を仲裁しにいった時だった。
「その時、国の上層部はかなり混乱したそうだ。お爺様は色々と凄い人だったからな。いきなり居なくなって困っていたようだ。そこで誰かがロックウェル王国と講和するだけではなく、友好的な関係を築くためにメリンダをギャレット王子の婚約者として送り出す事を考えた」
「普通は王女とかではないのですか?」
なぜメリンダが選ばれたのかわからないアイザックが尋ねる。
有力な侯爵家の娘とはいえ、しょせんは家臣の娘。
王族とは比べ物にならない。
「メリンダの母方の祖母は王女だったからだ。知らなかったのか? いや、教えてなかったか……」
ランドルフも自分で考えたのか。
それとも、モーガンかマーガレットに言われたからか。
我が子に様々な事を教え忘れている事に気付いていた。
アイザックにわかりやすいよう、説明を始める。
「基本的に親族と呼べるのは三代までというのは知っているか?」
「はい。それは本で読んだ事があります」
ウェルロッド侯爵家も、五代前には王女を迎え入れている。
だが、王族の血を引いているとは言わない。
すでに三代以上経っているからだ。
貴族社会は広いようで狭い。
五百年も経てば、貴族社会では誰もが遠縁の親戚となる。
いつの頃からかは明記されていなかったが、三代ほど経てば親戚と呼ばなくなる風潮ができていた。
侯爵家であるはずのウェルロッド家に親族が少ないのも、そのせいだった。
もちろん、仲が良い場合は友人として家同士の付き合いを続ける場合もある。
ウェルロッド侯爵家の場合は、ジュードが全て壊してしまったので、そういう家は特になかった。
「年頃の娘で婚約者のいない王族の血を引く娘。その条件に合うのはメリンダしかいなかった。だから、彼女はロックウェル王国に講和と友好の証として送られた……。その後だったよ。ルシアと出会ったのは」
静かに語るランドルフ。
当然、アイザックも真剣な面持ちで聞き逃すまいと耳を傾ける。
だが、両親の馴れ初めを聞くのは「ちょっと聞きたくないな」という恥ずかしい気持ちもあった。
「メリンダがいなくなって、最初は寂しかった。もしかすると、自分が結婚するかもしれないと思っていた相手がいなくなったんだからね。でも、メリンダが居なくなって周囲に目を向けると、素敵な女性がいた。それがルシアだ。こんな女性もいたんだと思うと、すぐに心が惹かれていったよ。今ではルシアを一番愛している。その事に嘘偽りはない」
(ほら、やっぱり……)
これが友達であれば、まだ良かった。
自分の親の出会いなど、聞いていて恥ずかしい気持ちで一杯になってしまう。
「そういう事は先に言ってくれ」と、心の中でアイザックは願っていた。
「私には婚約者がいなかった。侯爵家の跡取りとしては異例の事だ。身分の釣り合う相手は子供の頃から婚約者ができていた。特に私の場合、メリンダが有力視されていたから伯爵家以上の家には年の近い娘が残っていなかった。だから、父上もルシアとの結婚を認めてくれた。その時は、メリンダが帰ってくるなんて思っていなかったんだ」
「怒りを買って婚約破棄されて送り返されたと聞きましたが……。よくメリンダ夫人を引き取ろうと思いましたね」
――アマンダと婚約しないか?
ウォリック侯爵からそのような申し出があった時、モーガンは「婚約を破棄されたばかりの娘を婚約者にするのは世間体が悪い」という事を断った理由の一つとして挙げていた。
友好のために他国に送られて、送り返された娘など世間体が悪すぎるのではないかという疑問がアイザックにはあった。
「元々、ギャレット王子には婚約者がいた。王子と婚約者の間にメリンダが割って入った事で、色々と問題が起きたらしい。王子が一方的にメリンダに対して婚約の破棄を叩きつけたそうだ。これは条件を受け入れたあちらも悪いと思ったのか、ロックウェルの国王からは抗議の言葉は送られてこなかったらしい。……ロックウェル王国の学院を卒業後、リード王国に帰ってきたメリンダは本当に辛そうだったよ」
ランドルフは当時を思い出しているのか、目を閉じ天を仰ぐ。
アイザックも少しだけメリンダの状況に同情した。
自分が結婚すると思っていた相手から遠く離れた国に移り住み、婚約者の手によってリード王国に送り返された。
しかも、帰ってきたらすでにランドルフはルシアと結婚していた。
「なんでこんな目に」と思って、落ち込むのも当然だろう。
「ウィルメンテ侯爵も気を落としているメリンダを心配して、私にメリンダを娶らないか持ち掛けてきた。元々、婚約者としてお互いに意識していた。初恋の人でもある。気が付けば引き受けていたよ。それに……」
「それに?」
「妻が増えれば家族も増える。家族が欲しかったんだ」
(……何言ってるんだ、こいつ?)
アイザックは父親だという事を忘れて、心の中で「こいつ」呼ばわりをしてしまう。
しかし、それは仕方が無い事。
(嫁が増えれば、そりゃあ家族は増えるだろうさ)
アイザックには“綺麗な女の子に囲まれてハーレムを作りたかった”と言われた方が、まだ納得できる。
「家族が増える」という理由には納得がいかなかった。
しかし、それはランドルフの話の続きを聞いて理解する事ができた。
「父上は私に構ってくれなかった。母上は色々と構ってくれたが、お爺様のようにどこか得体の知れないところがあって怖い。だから、みんなで笑って暮らせるような家庭を作りたかったんだ……。ただ、それだけなんだ……」
ランドルフは泣き始める。
どこでボタンを掛け違えたのか。
彼の望むような家庭は作れなかった。
(それは俺が……。……悪くないよな?)
一瞬、アイザックは反省仕掛けたが、父の責任が重い事に気付いて反省をやめた。
「僕を先に生んでくれていれば、大体の問題は解決していたように思うのですが……」
さすがに色々と思うところがあったマーガレットも、ルシアが先に男児を産んでいれば、全力を挙げてルシアに侯爵家の妻としての教育を施していたはずだ。
長子継承が基本の貴族にとって、長男の母という立場はそれだけ強い。
子供を産ませる順番というのは、もっとも気を付けるべき事だったはずだ。
「だって……、結婚したのにメリンダだけのけ者にするなんて可哀想じゃないか……」
その言葉を聞いて、アイザックは少し思うところがあった。
(あぁ、そうか。男の貴族としての教育を受けていないっていうのはこういう事だったんだ)
父は優しい。
人としては尊敬してもいいと思っている。
日本でなら、詐欺師に気を付ければ幸せな生活を送れていただろう。
だが、ここは日本ではない。
権謀術数渦巻く貴族社会のある世界。
しかも、侯爵家という事もあって、陰謀の中心となる事もある。
能力の有無よりも、貴族としての覚悟の有無の差が大きいように感じられた。
メリンダを妻に迎えるところまでは良しとしよう。
その場合、可哀想だからと同情でルシアと同じ扱いをするのではなく「亭主は俺だ」と亭主関白なところを見せて、ハッキリと妻の序列を教えるべきだったのだ。
――ルシアを優先するとハッキリする。
――子供もルシアに先に生ませる。
――夫婦間の事を「自分には自分の考えがある」と言って親に介入させない。
そういう事をしっかりできていれば、状況も変わっていたはずだ。
マーガレットの後押しがあっても、メリンダは「ネイサンを後継者に」などと思わず、ランドルフを愛する事に専念していたかもしれない。
厳しさが足りなかったせいで、ルシアがメリンダに勝つ事もできず、マーガレットの介入を許した。
(でも、親父の責任は100%じゃないんだよな)
元を辿ればランドルフに教育をしなかったモーガンの責任であり、モーガンに子供との接触を怯えさせたジュードの責任である。
ランドルフの責任は重いが、どこまで責任を追及していいのかの判断が難しい。
「僕もメリンダ夫人や兄上を殺したくはありませんでした。ですが、命や後継者の地位を奪われそうになっては、やり返すしかありません。その事はわかっていただきたいです」
アイザックは嘘を言っていない。
野心の邪魔にならなければ、殺す必要はなかった。
「邪魔だったから自分の命を狙うように仕向け、正当性を作り上げて殺害した」という事を言っていないだけだ。
「わかっている。わかっているさ。私が不甲斐なかったせいで二人を死なせてしまった。お前に手を汚させてしまったんだ」
そう言うと、ランドルフは号泣し始めた。
アイザックと話し、自分の不甲斐なさを見つめ直した。
この一年泣き続けたが、今でもまだ二人の死を乗り越えられていない。
(俺には親父の悲しみがわからないんだよなぁ……)
アイザックはまだ身近な者が誰も死んでいない。
前世でも両親より先に死んでしまった。
悲しむよりも、悲しませた側だ。
ランドルフの悲しみの深さにイマイチ共感できなかった。
それでも、親は親だ。
ジュードのような親だったら黙って部屋を出ていったが、ランドルフは違う。
アイザックは立ち上がり、父の隣に座った。
ランドルフはアイザックが隣に座った事に気付き、立ち上がって離れようとする。
感情的になって、アイザックに暴力を振るったりしないためだ。
だが、アイザックはランドルフの手を取った。
「悲しい時、辛い時に誰か傍にいてくれるだけで、少しは気が楽になるんですよ。僕はリサお姉ちゃんにその事を教わりました。お母様の方がいいでしょうけど、今は僕で我慢してください」
「我慢なんて……」
ランドルフは座り直し、アイザックを強く抱き締める。
「お父様とはまだまだ話したい事があります。とりあえず、これからは食事だけでも一緒に食べませんか?」
「そうだな。すまない、すまない……」
ランドルフはアイザックを抱き締め、泣きながら何度も謝り続けた。
不甲斐ない父親で、我が子を苦労させてしまっていた。
メリンダやネイサンの事は忘れはしない。
だが、アイザックも可愛い子供だ。
遠ざけてしまっていた事を反省している。
反省しているのはアイザックの方もだ。
(なんていうか……、普通の子じゃなくてごめん)
アイザックが普通の子供であれば、順当にネイサンが後継者になっていたはずだ。
前世の知識がある生まれ変わりでなければ……。
野心を持った子供でなければ、こんな状況にはなっていなかった。
やはり自分が“この世界の異物なのだ”という思いが強くなってしまう。
(小難しい事はそのうち考えよう。今は目の前の事でいっぱいいっぱいだ)
アイザックは父の体を抱き締め返す。
今できる事はこれが精一杯だった。






