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05 帰宅
「あら、おかえり」
帰宅すると玄関で母親が革靴を磨いていた。ブロンドの長髪に青い瞳。加えて端整な外人の顔立ちをした恐ろしいくらいの小顔。その美女がすっと立ち上がると、随分と高いところから久志を見下ろした。その美麗な立ち姿を久志がじっと観察していると、母親はきょとんとして尋ねた。
「お母さんの顔、なにかついてる?」
「いいや。あいかわらず綺麗なもんだなって」
「久志ったら。いっとくけどお小遣いなんて増やしてあげないわよ」
流暢な日本語である。彼女はすっかりと日本の暮らしに馴染んでいる。見た目だけならまだしも、その所帯じみた様子からは、とても貴族令嬢には思えない。やはり、作り話だろうと久志はほくそ笑んだ。
「じゃあ、これから勉強するから。夕飯まで声かけないでね」
「帰ってくるなり、本当に真面目ね。たまにはテレビでも見れば良いのに」
「今年は受験だから、そんなことしてられないよ」
そうして久志は真っ直ぐに自室へと戻った。




