02 中根
翌日、中学校の昼休みのトイレにて。
父親の警告も虚しいことに、杉森家の秘話はあっという間に露呈されていた。口止めされた張本人の久志によって。
「怪人だって?」
そういって久志の親友の中根は驚いてみせた。黒髪に眼鏡、中肉中背の至って平凡な外見が目を見開いている。
「笑えるだろ。母さんも盗んできたなんて冗談にしてもありえないよな」
「杉森の母さんって、例のミス八代フォーエバーだよな」
「そうそう」
「おまえも母親にちゃんと似れば、美味しい青春送れたのにな」
トイレの鏡面台に久志の顔が映っている。青い瞳をした紛れもない混血の顔――とはいえ、瞳の色を除けば、鼻梁も口元も明らかに平均的日本人顔である。残念なことに、久志は美女の遺伝子を完全に継承し損なっていた。
「……自分でもそう思うよ」
久志は深くため息をついた。
「まあ美人の母親を持てた幸運だけでも喜べって」
「昔は泥棒だったなんて妄想する馬鹿な父親を持った不幸はどう扱えばいい?」
真顔で聞き返すと、中根はにやりと笑った。
「おいおい、お前は馬鹿にしてるけどさ。その話はまるっきり嘘ってわけじゃないんだぞ」
「へ?」
予想だにしない中根の言葉に、久志はきょとんとした。
中根はいきなり周囲の様子をきょろきょろと窺うと、ひそひそ声で提案した。
「あまり誰かに聞かれたい話じゃないんだ。続きは別の場所でしよう」
「まあ、いいけど。ここは長く滞在したい場所でもないし」
鼻につくような悪臭に、ところどころのタイルか欠けた壁。お世辞にも学校のトイレは清潔ではない。
「じゃあ屋上でも行く?」
「いや、屋上は最近、横田達がたむろしているらしいから危ないだろう」
横田とは学校で最も悪名高い不良のことだ。よく先生たちと揉めている。
「そうなんだ。だったら、後は裏庭か」
「まあ、そうなるわな」
二人は合意して校舎裏の庭へと向かった。
続く。




