15 質問
部屋に戻り、久志はぎょっと驚いた。
自分の机にいきなり父親が座っていたからだ。入り口に背中を向けて、全開に開けた窓から外の夜空をじっと眺めている。
「……なにやってるのさ、父さん。電気もつけないで」
久志がスイッチを入れると、父親はすっと振り返った。
「あ、それ――」
なぜか父親は例の仮面を被っていた。だが《怪人》にはなっていない。椅子から立ち上がると、いとも簡単に仮面を外してみせた。
「やっぱり父さんにはもう被れないみたいだ。彼の声も聞こえなくなっていたよ」
「……どうして被れなくなったの?」
「さてね――」
懐かしそうに笑うだけで、それ以上はなにも答えなかった。窓とカーテンを閉めると、父親は仮面を久志に返した。
「それで久志君。《怪人》になった気分はどうだったかな?」
その問いかけに久志は正直に答えた。
「……悪くはなかったかな」
「そうか。父さんもそんな感じだったよ」
それだけ言い残して、父親はあっけなく部屋を去っていった。
(いったい、なんだったんだろ――)
疑問を浮かべながら久志はベッドに仰向けに寝転んだ。そして枕元の棚に隠していた加藤京子の下着の写真を覗きこんだ。そうして、半時間はゆうに過ぎた。
すると、それまで黙っていた仮面が静かに尋ねた。
《十世よ。勉強をしなくて良いのか?》
「うん……。窓際族はもういいかなってね」
ちょうど階下から自分を呼ぶ声が聞こえる。夕飯だろう。写真をゴミ箱に破り捨てると、久志は真っ直ぐリビングへと向かった。
終わりです。




