3-22 雑用が足手纏い…嘘だろ?
【この作品にあらすじはありません】
「これは…やはりそうか」
手に持った剣を左右に振り払い、感触を確かめるようにして鞘に戻す。
足元にはたった今切り捨て、いつもより鈍い傷が残った、狼型魔物の体が転がっている。
これだけ倒しておけば、依頼分には十分だろう。
「あいつはこのパーティには……」
声にいら立ちが混ざる。
へらへらと笑う顔を思い出してしまい、いつにもまして心が荒れているのを感じる。
「ねー、ユーリ、もう充分確かめたでしょ? 早くかえろーよ」
「……ああ、そうだな。俺もミシャに賛成だ。今日のことでよくわかったよ」
「私もお二人に賛成です。それに、魔力も心もとなくなってきていますし…ハイトさんはどうですか?」
「儂もだ、マナミア」
一緒に討伐に来ていた仲間の三人からもそう言われ、頷く。
少し早いものの、依頼の魔物討伐を切り上げた。
★
「え、四人だけで依頼行ってきたんですか!?」
その日の夜、酒場。
昼間の四人にポーターのバッグを加えた五人で、テーブルを囲んでいた。
「なんでってお前、昨日の事が原因で寝込んでたじゃねーか。足手まといを連れて行けるわけないだろ」
「ほんとほんと。足引っ張るってわかってるのに、一緒に行っても迷惑にしかならないしー」
続いたミシャの言葉に頷く。
ハイトとマナミアも頷きこそしないものの、意見は同じらしい。反対もせず、黙り込んでいる。
「そっか、そうですよね…。ボクなんかいなくてもみなさんなら依頼ぐらい楽勝ですよね」
「えーなになに? バッグ君が役立たずって話? そんなの分かりきってるじゃーん」
((そんなわけないだろ!!))
(そんなわけないじゃん!!)
(そんなことありません!!)
思わず手に持ったコップを強めに叩きつけてしまう。
そうしてバッグ以外の四人が、同時に彼の反対側へと回り込み、額を突き合せた。
「え、えぇっと、みなさん…?」
後ろでバッグの不安そうな声が聞こえてくるが今は無視だ。
「ねぇどうすんの? バッグ君まだあんなこと言ってるんだけど!?」
「う、うるさいな。大体ミシャがあんな勘違いされそうなこと言うから…」
「だってだって。『役に立ちまくってる』事ぐらい、分かりきってるでしょ!? それにそもそもユーリが、バッグ君抜きで討伐依頼受けようなんて言い出すから!」
「ぐ…。でも、昨日ケガしたやつを連れていけるわけないだろ! 第一、確かめたいことがあったからで」
「おちつけ、二人とも」
早口になりすぎていた俺達二人に、ハイトが割って入る。
「儂らで言い争っても仕方ないだろう。それでユーリ、確かめられたのか?」
「ああもちろん。あいつがいないだけで、依頼がかなりし辛かった」
「やはりか。気が付いただけでも三度、お前がやられそうになってひやりとしたぞ」
「まったくだ。索敵に罠解除に装備点検…。むしろ、あいつにできない事を数えたほうが早いんじゃないか?」
「言えてる。だってバッグ君、低ランクとはいえ魔法まで使えるんだよ」
「ええ。真面目ですし、主への信仰も厚いです」
「だよなぁ」
頷きながら、バッグの自己評価の低さに、またも頭に血が上り始めてくる。
「でも確かに僕なんかじゃハイトさんみたいに、魔物を倒すこともできませんし…」
俺達がなかなか戻らないからか、バッグがそんなことを口にする。
「そういえば、ハイトは結構、脳筋なところあるよな。お前から見たあいつはどうだ?」
「『どう』というのは仲間としてどうか、と言うことか? それこそ言うまでもない」
ぐっと、拳を握りこむとハイトが手にしていた木の実が砕け散る。本来ならナイフか何かでこじ開けて食べる代物だったはずだが…。
「儂のこの自慢の筋力。男なら力で敵を打ちのめしてこそとすら思っている。それに対してあいつはどうだ。この儂の力を強化までしてくれるんだぞ」
「……」
「なんだ、その顔は」
「いや驚いたなって。お前のことだからてっきり、『鍛え方が足りん』とか言いそうだったからさ……」
「ふん、確かに儂はそういう考え方もする。だが、考えてもみろ。儂の成長もそろそろ限界が見えている。バッグが強化してくれた領域まで、自力で上がろうとすると軽く十年はかかる。十年だぞ。それを無駄だと切り捨てるほど、考えなしではない」
「ほんとそれ。私だって強化貰ってなきゃ魔法の威力もっと低いしね」
「聞くところによると、強化魔法の類はかけられる本人の能力によって聞き具合も変わってくるという。つまりは儂らがもっと鍛えれば鍛えるほど、強化魔法の効果も高まり、さらに力が出せるというわけだ。攻撃力自慢として、これほどうれしいことはなかろう」
うんうん、と深くうなずくハイト。確かに今日のハイトの攻撃はいつもより大人しめだった気もする。かくいう俺も、攻撃の威力は明らかに落ちていた。
そのせいで攻撃も、数回多く打ち込む必要があり、どうしても手間だった。
そこまで確認し合い、俺達はようやく元の位置に、バッグの方へ顔を向けなおした。
「でも僕だって、皆さんのお役に立ちたくて…。買い出しぐらいなら済ませてますから!」
と、今度はそんなことをバッグが口走る。
って、待て待て待て。
「ウロチョロすんじゃねぇよ! 『今のお前』に動かれても邪魔なだけだって」
魔法でケガや傷そのものは治っても、体力そのものはすぐに回復する物でもない。そのあたりは体を休めるしかないってのに、こいつは……。
「ぐ、すみません。勝手なことして」
「お前はもう戻れ」
手をひらひらとふり、バッグを宿に追い返す。怪我明けの奴に、これ以上動かれて悪化されても困る。
ただでさえ、いろんなことで役に立ちまくってるんだから、こんな時ぐらいちゃんと休んでほしいものだ。
「分かり…ました」
これ以上食い下がるのは無駄だと理解したのか、バッグが足を宿に向ける。
その肩が落ち切っているのを見て、ようやく言い方が悪かったことを自覚した。いつもの悪い癖だ。
「ちょ、ちょっと!! 私にあんなこと言いながら、ユーリだって言葉キツイじゃん!」
バッグの姿が酒場を出ると同時、隣に座っていたミシャが食い掛って来た。
うるさいな、そんなこと俺だってわかってる。
「あら、これは」
そんな俺達を横目に、マナミアがバッグの席で何かを見つける。
見ると、小さな袋がいくつか置いたままになっていた。確か、さっき帰る前に机の上に出していたっけか。
その瞬間、詰め寄っていたミシャが袋の元まで一瞬で駆け寄る。
「え、マジ!? それってバッグ君が作ったおやつ!?」
「でしょうね。買い出しの他にこんなこともしていたなんて」
袋の中身を出してみるとクッキーのようなものがいくつか入っていた。
手先が器用なのと、初級の錬金術まで使えるので時たまこうしておやつを用意してくれる。
魔物討伐や依頼をこなす中で、その小さな幸せがとてもありがたい。
しかも、錬金術で素材の成分をうまく抽出するからか、市販されているものより安価で味も良い。
「まったく、バッグ君ったら仕方ないんだから~」
口では呆れながらも、ミシャが素早くクッキーを掴み口に放り込む。
「ちょ、ずるいぞミシャ」
「もう、だめですよ。これは明日の分なんですから」
そのまま放っておくと全部持っていきそうだったが、二個目に伸ばした手をマナミアにはたかれる。
ナイスだ、マナミア。
まったく……今日のように一日ぐらいなら大丈夫でも、バッグ抜きじゃ冒険者なんてできないな。
だが、俺達のそんな評価とは裏腹に、他所ではバッグのような裏方は鬱陶しがられることが多いらしい。バッグが卑屈なのも、その辺の理由が大きかったりもするんだが……。
「よぉよぉ、みなさん」
そんな俺達の話を聞きかじっていたのか、横合いから声がかかった。
見ると、いかにも盗賊然とした風貌の男が立っていた。
「俺を仲間に入れてくれねぇっすか? あんな役立たずの裏方なんて追い出してさ」
「……は?」
思わず、声が冷たくなる。
ついさっき、悪い癖が出ていることを自覚したのに、またこれだ。
だが、その言葉は今の俺達の神経をなにより逆撫でした。
「みなさんだってうんざりしてるでしょ? あんな役立たずがパーティにいたら邪魔でしょうがないって顔ですもんね。あ、でも雑用やらせるのにはちょうどいいですかね。それなら納得っす。そんなら俺にもおこぼれにあずからせてくださいよぉ。ねぇ旦那」
俺達が返事をしないのをいいことに、盗賊はしゃべり続ける。その間にも聞くに堪えない言葉に、ミシャは三度も舌打ちをしていた。
ハイトとマナミアも黙ってはいるが……かなり頭にきているらしい。特にマナミアの張り付いた笑顔が怖い。
「言いたいことはそれだけか」
「…はい? それは……ちっ」
詰め寄ると、ようやく俺達の空気に気が付いたのか、最後に舌打ちをして盗賊は背を向けた。
「はぁ、こんなんじゃ仮にバッグが俺達から離れる、なんてことになっても安心して送り出せねぇっての」
俺達はキレたが、世間一般での裏方の評価はなぜかあんな感じだ。
そんな世界にバッグを放り出せば、こき使われるのは目に見えている。
手放せないし、手放したくない。
故に彼らは団結して事にあたる。
その心は一つ――
(快適な冒険者ライフのために…!)
(おいしいおやつのために…!)
(気持ちよく敵をなぎ倒す、爽快感ために…!)
(私たちのこれからの活躍と、世界の平和のために…!)
心は一つだった。





