3-21 Counter terrorism warfare 2030
大規模テロ攻撃の情報を掴んだCIA工作員がテロ組織に拘束された。アメリカ陸軍特殊部隊デルタフォース所属のクラーク大尉は、5人の部下を率いて工作員救出のためイエメンに潜入する。
軍事用強化外骨格・次世代アサルトライフル・光学迷彩・戦術ネットワーク、数々の最新ハイテク装備を駆使して敵を排除し、任務を遂行する精鋭たち。
未だ全貌の見えてこない最悪のテロ攻撃を彼らは阻止できるのか?
2030年の近未来を舞台に精鋭特殊部隊が死闘を繰り広げる本格ミリタリーアクション、ここに開幕!
2030年1月21日 1540時(現地時間)
中東 イエメン アルカイダ系テロ組織の拠点
アメリカ陸軍特殊部隊デルタフォース所属のクラーク大尉は、5人の部下と共に任務部隊を編成してテロ組織の拠点と化した村に潜入していた。
現地で活動中のCIA(中央情報局)工作員が『大規模テロ攻撃に関する重要な情報を入手した』との連絡を最後に行方不明となり、数日後にテロ組織に拘束されている事が判明したので、救出と情報回収を目的とした軍事作戦が立案されたからだ。
もちろん、これは他国における無許可の軍事行動になるので作戦は夜間に実施したかったのだが、この日の夕方には拘束中の工作員を別の場所に移動させるとの情報もあり、アメリカには時間がなかった。
そこで大尉は住民のいない村内の無人の建物群を巧みに使い、軍事用強化外骨格を装着した状態でも音を立てずに武装したテロリストの背後から忍び寄ると、まずは左手で敵の口を塞いだ。
そうして大声を出せないようにした上で、すぐさま右手に持ったタクティカルナイフで頸動脈ごと喉を深く切り裂く。
さらに、敵を石造りの建物内の暗がりに引きずり込む形で地面に引き倒し、肋骨の隙間から心臓にナイフを深々と突き刺して止めを刺した。
「こちらスカル1、ポイントGに到達。スカル4、目標の様子は?」
「スカル4よりスカル1。目標の建物正面に3人、屋上にも2人の敵を確認」
「スカル1よりスカル4。合図したら屋上の2人を始末しろ」
「スカル4、Copy」
その後、大尉は別行動中の隊員には咽喉マイクに繋がった通信機を使って小声で連絡を取り、自身の背後にいる隊員達に対してはハンドシグナルで指示を出した。
なお、別行動中の隊員が捕捉した敵の位置情報は戦術データリンクを介して作戦司令部と任務部隊の全隊員にも即座に共有され、各隊員の装備するバイザー状のHMDに表示された戦術マップに敵を示す赤いマーカーが追加される。
すると、大尉たち4人の隊員の姿が消えた。限られた条件下でのみ効果を発揮する代物だが、周囲の景色を自身に投影して視認を困難にする光学迷彩を作動させたからだ。
いま彼らのいる場所から目標の建物までは隠れられるような場所がないからで、HMDに表示される味方の青いマーカーを頼りに隊列を組み、光学迷彩の効果が消えないよう歩いて移動していく。
そして、目指していた場所に到達すると大尉は左腕に装着した小型の電子機器を素早く操作し、自分と2人の隊員それぞれに攻撃目標を割り振った。その結果、HMD上で攻撃を担う隊員と敵が1本のラインで結ばれ、誰がどの敵を攻撃するのかが一目でわかるようになる。
しかも、射線を確保して射撃準備が整うとHMD上のマーカーの形状も変化し、必要最小限の命令を発するだけで複数の敵を同時に射殺する事ができた。
「スカル1よりスカル4。Execute」
「スカル4、Copy」
クラーク大尉に命令されたレイエス軍曹は、『Mk25 Mod0』マークスマンライフル(選抜射手用ライフル)に搭載したレーザー距離計・弾道計算コンピューターとも連動した高倍率光学スコープを覗き、建物の屋上(3階部分)にいる武装した敵の1人に狙いを定めて静かにトリガーを引く。
しかも、銃口に装着されたサプレッサー(減音器)によって銃声の特徴的な高音域は抑えられ、敵は誰一人として銃声を耳にする事はなかった。
そして、発射された6.8mm×51共通弾は標的となった男の頭部を的確に貫通し、射出口から血と頭蓋骨と脳組織の一部をまき散らして死に至らしめる。
「おい、いまの音……」
屋上にいたもう1人の男が重たい物が落ちるような音を不審に思い、近くにいる仲間の方を振り向いて尋ねようとしたが、頭から血を流して倒れている仲間の姿を見て絶句する。
次の瞬間、同じように飛来した銃弾によってこの男も1発で頭を撃ち抜かれて絶命し、屋上にいた2人は何もできないまま排除された。
「スカル4よりスカル1。排除完了」
「スカル1、Copy」
レイエス軍曹からの無線報告を聞いた大尉は準備が整っている事を改めて確認すると、姿こそ見えないが近くにいる2人の部下に口頭で命令を下す。
「建物前の敵、3・2・1、Execute」
部下達に命じると共に大尉もサプレッサー付き『M5 MCX』アサルトライフルを発砲し、全員がヘッドショット(頭を撃つ)で自身に割り当てられた敵を射殺。結果、建物前にいた3人の武装した敵をほぼ同時に排除する事に成功した。
ちなみに、彼らの使用するアサルトライフルには低倍率光学スコープ・レーザー距離計・弾道計算コンピューターを一体化した『M157』射撃統制システムが搭載され、中距離での命中精度向上が図られている。
また、6.8mm×51共通弾は近年のテロリストでさえ着用するようになったボディアーマーの上からでも効果的にダメージを与えられた。
「目標へ接近する。スカル4、援護しろ」
「スカル4、Copy」
「お前たちは続け」
「「「Copy」」」
クラーク大尉はレイエス軍曹には無線で、近くにいる3人の隊員には直接命令を下す。そして、光学迷彩を展開したまま一列の隊列を組み、それぞれに分担して周囲を警戒しながら目標の建物の正面入口に向かって進んでいく。
彼らは敵と交戦せずに扉のない建物の入口に辿り着くと、その入口を挟む形で2人ずつ左右に分かれて壁際に立ち、建物内への突入態勢を取りつつ光学迷彩を解除した。
しかし、すぐには突入しない。大尉はハンドシグナルで指示を伝えると、腰のポーチからゴルフボールのような形状をした偵察機材を取り出し、入口から地面を転がして建物内へ投入する。
程なくして投入した偵察機材から内部の偵察情報が送られてきた。この情報も戦術データリンクによってリアルタイムで全員が共有しており、少なくとも建物1階には誰もいない事をHMD上の小画面で確認した大尉がハンドシグナルで突入を命令した。
すると、隊員の1人がアサルトライフルを構えて突入し、それに大尉も続く。石造りで窓が小さく数も少ない建物内は昼間でも暗いが、突入前にHMDの上から装着して電源を入れておいたNVG(暗視装置)が自動で光量を調節するので支障はなかった。
さらに、残り2人の隊員も順に突入して素早く正確に、しかし静かに内部を捜索していく。幸い、1階は広い部屋があったお陰で1分と掛からずに安全を確保できた。
続いて彼らは奥にある2階へと繋がる階段まで近付くと、隊員の1人が目線と銃口の向きを一致させて前方だけでなく上方も警戒しつつ踊り場まで階段を静かに上がり、そこで壁を背にして援護の態勢をとる。
それを見た大尉も同じように警戒しながら踊り場まで進むが、立ち止まらずに2階まで上がって廊下に敵がいない事を確認し、その情報をハンドシグナルで踊り場にいる隊員に伝えた。
それを受け、踊り場の隊員は残り2人の隊員に2階へ上がるようハンドシグナルで指示を出し、自身も彼らの後に続いて階段を上っていく。
2階には個室が3部屋あったが、いずれも扉がなくなっていた上に人が隠れられるようなスペースもない構造だったので中を確認するのは容易だった。そして、階段に近い方の2部屋は無人で、救出対象の工作員は2人の武装した見張りの監視下で最奥の部屋に拘束されていた。
大尉達は工作員の拘束されている部屋の外で突入態勢を整えると、彼からハンドシグナルで指示を受けた隊員の1人が目立たないよう低い位置から部屋の中央付近を狙って『M84』スタングレネードを投げ入れる。
「ん?」
ちょうど自身の足元に転がってきたスタングレネードに気付いた敵が疑問の声を上げた瞬間、信管が作動して強烈な閃光と大音響が発生し、不意討ちをくらった2人の敵は視覚と聴覚を一時的に奪われて動きが鈍くなった。
「Go,go,go!」
クラーク大尉はスタングレネードの起爆直後に命令と共に室内へ突入し、壁沿いに奥へと進みながら反応の遅れた敵に『M5 MCX』アサルトライフルの弾を倒れるまで浴びせて殺害する。もう1人の敵は、大尉に続いて突入した隊員が同じように倒れるまで銃弾を浴びせて殺していた。
「All clear!」
隊員の1人が室内の掃討完了を宣言する。それを受け、全員の緊張が僅かに緩む。そして、大尉が椅子に縛られている工作員に近付き、トラップが仕掛けられていないのを確認してから頭に被せられていた麻袋を外す。
「クソッ、遅かったか……」
手足には拷問を受けた時にできた生々しい傷跡が無数にあり、喉を切り裂かれて殺されていた工作員を見て彼が悪態を吐く。
「スカル1よりネスト。キャストは死亡。回収を頼む」
「ネスト、Copy.20分後に迎えを寄越す」
「スカル1、Copy」
それでも大尉は気持ちを切り替え、作戦司令部に無線で救出対象の死亡を報告した。同時に撤収のためのヘリが20分後に飛来する事を告げられる。
なので彼はレイエス軍曹たち2人に合流するよう伝え、自分たち4人はテロ攻撃阻止に役立ちそうな情報を求め、敵のスマホやメモ用紙といった物を可能な限りポケットやポーチに詰め込んだ。
「ネストよりスカル1。悪い報せだ。敵の大部隊が接近している」
「規模と到達までの猶予は?」
「重火器を積んだ車両を含む約50人、早ければ10分後だ」
その最中、作戦司令部から大尉に通信が入った。それによると、敵の猛攻を彼ら6人だけで最低5分は凌がなければならなかった。





