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その9


 彼のいない日常は全てが色褪せて見えた。


 なんの感動もなく、ただ繰り返される毎日。


 そして3年の冬になりゲーム通りに魔王討伐の要請がきた。


 私は丁重にお断りした。


 皆は驚き考えを改めるよう諭してきたが変えるつもりはなかった。



 なのに……



 昼間にもかかわらず突然辺り一面が真っ暗になった。


 風が吹き荒れ、稲妻が閃き、雷鳴が轟いた。


 慌てて外を見ると、青黒い炎に包まれた魔王様が空に浮いていた。


 なんで?

 私、引き受けていないのに。


「魔王だ!」

「みんな避難しろ!」


 いけない。このままではまた繰り返される。


「やめて!」


「クレア嬢!? なぜだ?」


「そうだよ。なんでそんなこと言うんだ?」


 みんな怪訝な表情で口々に言った。


「魔には聖魔法しか効きません。私が対応しますから皆様は手を出さないでください」


「しかし……」


「お願いします! 皆様はほかの生徒たちの避難誘導をお願いします」


 そう言うと返事も待たずに私は屋上に向かって走り出した。


 もう二度と繰り返させない。

 同じ苦しみを彼に与えたくない。


 屋上にたどり着くと魔王様がこちらを見た。


「私、討伐要請をお断りしたのよ。なのに……」


 すると彼は近づいてきて屋上に降り立った。


「俺が自分の意志で来た」


 心臓が跳ねる。


「……なんで?」


 熱を帯びた紫の瞳に見つめられる。


「お前に会いたくて……」


 体が勝手に動いていた。


 魔王様に抱きつくと、彼も抱きしめ返してくれた。

 存在を確かめるように強く。


「お願い! 私を連れて行って」


「……それはできない」


「どうして!?」


「魔界は陽の光がない。人間は長くは生きられない」


「貴方のいない世界で長生きしても意味がない!」


「お前の好きな食べ物も娯楽も何もないところだ」


「貴方がいればいい!」


「俺はお前を傷つけたんだぞ?」


「でも、こうして会いに来てくれた! 私に会いたいって思ってくれたんでしょ?」


「……ああ、会いたかった。クレア」


「!!……やっと、やっと名前を……私も会いたか──」


 最後まで言わせてもらえなかった。


 長い長いキスの途中で体が浮遊感に包まれた。



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