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その8


 冬のある日、魔獣が大量発生しその討伐隊に攻略対象と私が駆り出された。

 これはゲーム通り。でも今回は魔王様も参加していた。


 この時点で一番好感度の高い攻略対象と組んで魔獣を倒していくとイベントが発生して聖魔法が覚醒するのだけど、私は攻略対象ではない魔王様と組んでいるのでイベントは起きないはず。そう思っていた。


 順調に魔獣を倒していると、突然、本当に何の前触れもなく突然私の体が光った。

 誰かが怪我をしたとか、ピンチになったとかではなく、決まり事の様に、当然の様に……


 光が収まると真っ先に魔王様の姿を探したけれど、どこにもいなかった。


「この光は間違いない。聖女だ!」

「おぉっ!」

「クレア嬢は聖女だったのか!」


 みんなが口々に驚きの声を上げるけど、私はそれどころではなかった。


「まお、スコット様は?」


「誰だそれは?」


 私の問いかけに皆は首をかしげるばかり。

 魔王様の存在そのものがなかった事になっていた。


『お前が覚醒した途端にいつも魔法の効力が消えてしまう』


 魔王様の言葉を思い出して心臓が嫌な音を立てた。


 討伐が済み王都に戻っても教会に無理矢理連れて行かれ、属性確認をして聖女認定された。


 やっと開放されるとすぐに魔王様が拠点としていた「ドーセット伯爵邸」に向かったが、門が閉ざされており、元の「売りに出された商人のお屋敷」に戻っていた。


 もう会えないの?


 嫌な予感に体が震え、心臓が悲鳴を上げ、息苦しくて座り込んでしまった。


 にゃ〜


 鳴き声のする方に視線を向けるとノッテがいた。


「ノッテお願い! 魔王様に会わせて! お願い!」


 思わず叫んでいた。


 すると突然景色が歪み、気づくと学園の屋上にいて、魔王様がいた。


「クロード、お前どこに行っ!?……なんで……」


 魔王様はノッテの後ろに私を見つけて目を見開いた。


 クロード?


 ノッテは「にゃー」と鳴くと姿を消した。


「魔王様、どうして急にいなくなったんですか?」


「……以前にも言っただろ? お前が覚醒すると俺の魔法の効力が消える。そのままあの場に止まれば、見知らぬ者がいると騒ぎになるから去った」


「もう一度魔法をかける事はできないんですか?」


「無理だ。お前の力が強すぎる。俺はこちらでは力の半分も出せない」


「これから……どうするんですか?」


 嫌な予感に喉が詰まりそうになりながら言うと


「俺は国に帰る」


「どうして? 私を監視しなくていいんですか?」


「もう必要ない」


「どうして?」


「あんなに警戒していたのにお前が覚醒するのを止められなかった。『ゲームの強制力』とやらには敵わないようだ。ならば、結局お前は討伐要請を受けることになり、また俺は呼び出されるのだろう」


「そんなのわからないじゃないですか。ギリギリまで何か方法を考えましょうよ」


「……ニコラスが留学してきた日、本当は俺も案内に着いて行こうと思っていたんだ。だが放課後になると突然、何もない空間に閉じ込められた」


「えっ?」


「ゲームの強制力とやらなのか、よっぽど俺が邪魔なのだろう」


「どうやって出て来たんですか?」


「最大出力の魔法で空間を切り裂いた」


 そんな事が起きていたなんて……

 あまりの事実に声が出なかった。


「それに、そろそろお前から離れようと思っていたからいい機会だ」


「どうしてですか?」


「形だけの婚約者なのにお前は本気になってきているだろ?」


「そっ、それは……でも、魔王様も──」

「俺は繰り返しを止めるために監視していただけだ」


「それだけですか? 少しも、ほんの少しも、私のこと──」

「婚約者の設定を忠実に守っていただけだ。お前に対して何の感情もない」


 そう、はっきりと告げられた。


 抱きしめてくれたことも、つむじへのキスも、全部設定を守っただけ。


 少しでも私のことを……なんて自惚でしかなかった。


 違う、本当はわかっていた。だって、私はただの一度も名前で呼ばれたことがない。


「そう、ですよね。設定を守るためとは言え、好きでもない私に触れたり……気分の悪い思いをさせて、ごめんなさい」


 もう魔王様を苦しめたくない私は言葉を続けた。


「魔王様……私の息の根を止めてください」


「……何を言っている?」


「他にループを止める方法が思いつかないから……」


 何とか笑って見せた。


 魔王様は顔を歪めた。

 辛そうに。

 何度もループして苦しめている私にさえ手をかける事をためらう。


 本当に魔王様は優しすぎる……


「魔王様、もうループを止めちゃって──!?」


 何が起きたのかわからなかったけど、一瞬遅れて抱きしめられているのだと気づいた。


「……なん、で?」


「……」


「もう婚約者のふりは必要ないんですよ?」


「……」


「本気になられたら困るんでしょ?」


「……」


「どうして?」


「……」


「ねえ、なんで?」


「……」


「魔王様……」


「っっ、くそっ!」


 噛み付くように唇を奪われた。

 何度も何度も、深く深く、息もできなくなるほど……


 唇が離れても信じられなくて、ただ呆然と魔王様を見つめていると、ふと意識が遠のいた。



 気がつくと自室のベッドで横になっていた。

 もう彼はいないような気がした。




*****




 次の日学園に行くと 教室の一番後ろの入り口側、魔王様の席が消えていた。

 初めから何もなかったように。

 魔王様の存在自体もなかった事になっていた。


 以前、何度もループをする間に色々試した時、私が覚醒すると私の力が強すぎて魔王様の魔法の効力が消えたと言っていた。


 魔法が消えたら「今までずっと、知らない人が教室にいた。あれは誰だったんだ?」となって騒ぎになると思っていた。

 だけどそうではなく、魔王様の存在自体がなかったことになっているのは、ゲームの強制力によるものなんだろうか……?


 それなら私の記憶も気持ちも消してくれればいいのに。


 ゲームでは3年の冬に魔王様を倒しに魔界へ行くよう要請されて引き受ける。

 すると、魔王様が突然現れて戦闘シーンが始まる。


 恐らく、私が要請を引き受けることが、魔王様が現れるキーになっているのだと思う。


 私が引き受けなければ……


 彼が言っていたもの。


『人間が珍しい素材や魔石を奪うために結界を壊して魔界に侵攻して来なければ、俺たちは人間を襲ったりしない』


 彼を無限の苦しみから解放したい。

 だから、もう繰り返させない。



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