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その6


 試験最終日、午前中で終わったのでジェシーとカフェに来ていた。


 悩みに悩んで選んだ旬のフルーツタルトを一口食べ、頬に手を添えてじっくり味わっているとジェシーが突然聞いてきた。


「ねえ、スコット様って二人の時はどんな感じなの?」


「えっ? どんなって?」


「スコット様、学園ではザ・王子様だけど、二人の時はオレ様だったりしないの?」


 魔王様です。


「普段と変わらないよ?」


「そうなの?」


「ロバート様はどうなの?」


「ふふっ、ロバートは甘々系なの。『こんなに人を好きになったことはない』とか『君がいれば何もいらない』とか」


「へっ、へえー」


 ロバート様そうなんだ……意外。


「ねえ、スコット様はキスも王子様な感じなの?」


「ぶほっ」


 紅茶が変なとこに入った。

 王子様な感じのキスって何よ。


「やだもう、何してるのよ」


「だってジェシーが変なこと言うから」


「別にキスぐらいなら変なことではないでしょ?」


 そうなの? 貴族の令嬢が前世の女子高生みたいなノリでいいの?


 あっ、そっか、乙女ゲームの世界だから設定が緩いのか。

 それなら「アイドル」や「推し」も通じて欲しかった。


「えっ? もしかしてまだとか言わないわよね?」


 だって形だけの婚約者だもん。とは言えないけど。


「えっ!? まさか本当に?」


 とても可哀想なものを見る目を向けられ居た堪れなくなり、下を向いてタルトを口に運んだ。


「たっ、多分、きっと、クレアのことを大切に思っているのよ……ここは私が奢るから。ケーキもう一個頼む?」


 なんかすごく同情された。




*****




 次のお休みの日も魔王様は来てくれた。


 監視のためとは言え、まめに家に来てくれる。

 いつも並んで本を読んでいるか、私が一方的に話しかけているだけなのだけど。


 今日も私の部屋で資料を読んでいる。


 でも実をいうと、先ほどからずっとジェシーの話が頭をぐるぐる回っていて私は読書どころではない。


 とっくに諦めて本を置き、膝の上のノッテを撫でていた。


「……どうした? もう読み終わったのか?」


「いえ、まだです……」


「どうした?」


「今回の試験、魔王様が教えてくださったお陰でかなり出来が良かったです」


「そうか」


「その、もし5位以内ならご褒美が欲しいな~、なんて」


「俺が教えたお陰なのに、俺が褒美を与えるのか?」


「そこは深く考えずに」


「なんだそれは……何が欲しいんだ?」


 聞いてくれるんだ!

 やっぱり魔王様って良い人! 


「その、とっ、友だちは婚約者から会うたびに愛の言葉を囁かれているそうです」


「……俺たちは形だけなのだが?」


「でもちゃんと婚約者らしくしていないと疑われてしまいますよ?」


「誰に?」


「えっと、ジェシーとか、」


「もういい」


 バッサリ切られた。


 魔王様は盛大にため息をついた。


「それで? お前の友だちは婚約者に何と言われているんだ?」


「『こんなに人を好きになったことはない』とか『君がいれば何もいらない』とか」


 魔王様は「魔王」のイメージに似合わず比較的表情豊かではあるけど、本当に本当に嫌そうな顔をした。


「物語の読み過ぎではないのか? 現実で毎回そんなことを言う奴はナルシストか詐欺師のどちらかだろう」


「えぇっ!? その二択?」


「間違いない」


「そうですか……」


 言い切られてしまった。


「流石に愛の言葉は無理だと思ってましたけど、褒め言葉とか、長所を上げてくれたりとかすると嬉しいな〜なんて……」


「あれば言う」


 あれ? 私って一応ヒロインだったよね?

 ヒロインって甘い言葉を囁かれるものじゃなかったっけ?


 もちろん、魔王様との婚約は形だけだし、私のことを憎んでいるのはわかっている。

 でも小説とかだと、これだけ一緒にいたら絆されたりしていたと思うんだけど……


 ヒロインの魅力に絆されるという、ゲームの強制力は働かないの?

 余計なところで働かなくていいから、こういう時に働いてよー。


 まあ、単に私の魅力がないだけだよね。

 それならしょうがないよね。


「少し早いですけど休憩にしますか?」


「ああ」


 ちょっと嬉しそうな顔をした魔王様に私は紅茶を出した。

 そしてノッテには茹でたささみを出した。


「……」


「ノッテ美味しい? まだあるからいっぱい食べていいよ〜」


 にゃ〜ん。


 美味しそうに食べるノッテを撫でた。


「……」


「なんですか?」


「いや……」


 魔王様が戸惑っている。


 いつも軽食を一緒に出しているのに、今日は紅茶だけだからね。


「私には取り柄とか長所がないですもんね」


「……」


 するとしばしの沈黙の後、魔王様はため息をついて絞り出すように言った。


「お前の作る料理は美味い」


 やっぱりうちに来ていたのは食べ物が目的か!

 わかってはいたけど、わかってはいたけれどっっ!

 思わず睨んでしまった。


「うっ……お前は面白い」


「面白い」が女性に対する褒め言葉だと思っているの?


 さらに睨んだ。


「うっ……ちっ……」


 えっ? 舌打ち?


「はー……予想外の言動ばかりで正直疲れるが、一緒にいると……楽しい……気がする」


「……ふふっ」


「!?」


「しょうがないですね。せっかく作ったのに日の目を見ないと、食べ物自身が可哀想だから特別に持ってきますね」


 きっとジェシーには「それぐらいのことで?」って言われるだろう。


 でも、ループの元凶である私。

 何かあれば息の根を止めるとまで言わしめるほど憎んでいる私に魔王様は


「一緒にいると楽しい」と言ってくれた。(「気がする」なんてものは聞こえなかった)


 今の私にはとても嬉しい言葉だった。



 メイドのセシリアに頼んでお代わりの紅茶と一緒に持ってきてもらった。

 今日はピザトーストを作った。


 魔王様は今日も完食して帰った。



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― 新着の感想 ―
[一言] まだ途中ですがー、 そうか~胃袋捕まれたか魔王様。
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