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その4


 その日以来、本当に魔王様は毎日送り迎えしてくれるようになった。


 初めて会った日に夢だと思い込もうとして前世の話を結構しちゃったので、その話に興味を持った魔王様に色々と聞かれた。


 転生のこと、攻略対象者のこと、ゲームの強制力のことなど正直に話した。


 ちなみに、二人きりのときは「魔王様」呼びを続けている。偽名だとわかっていて「スコット」と呼ぶのはなんかムズムズするから。


 魔王様は食べ物の話に興味津々だった。

 魔界のお食事はイマイチらしい。

 学食の食事に夢中になっていた。


 今度何か作ってあげようかな?


 最初は緊張であまり話せなかったけど、徐々に話せるようになってきたある日。

 私は魔王様に提案してみた。


「婚約者らしくないとみんなから疑われているので、デートしてみませんか?」


「みんなというのはどの程度のことを言っている?」


「えっ!? えっと、ジェシーとか、ジェシカとか、え〜っと、リッチモンド伯爵令嬢とか」


「全部同じ人だな」


「でもでも! 今までしたことのない事をたくさんした方が、より一層ループから一番遠いルートを選んでいる事になったりするかも……しれない……ですよ?」


「……」


「……ダメですよね。すみません」


 すると魔王様はため息をつきながら


「わかった。しかし俺はこの国のことはわからないから行き先などはお前に任せるぞ」


「えっ? いいんですか?」


「まあ、この国の偵察も兼ねると思えば」


「ありがとうございます! 嬉しいです!」


 というやり取りがあり、今日は魔王様と初めてのお出かけだ。


 気合いの入った私はメイドのセシリアに


「可愛さの中にも色気があり、知的かつ儚さのある、少女から大人へ──」

「はいはい、前を向いてください」


 注文の途中でばっさり切られた。


 でもセシリアは私の望み通りに仕上げてくれた。ありがとう!


 約束の時間通りに魔王様が迎えに来てくれて、彼のエスコートで馬車に乗り込む。


「とても似合っている。と言えばいいのか?」


 魔王様は涼しい顔でそう言った。


 ループ阻止を失敗して魔王様に息の根を止められるよりも、ドキドキして心臓発作で息の根を止められる方が早いかもしれない。


「魔王様も今日も最高に素敵です!」


 いつも言っているせいか、私の褒め言葉は「はいはい」みたいな感じでスルーされる。


 馬車の中でも魔王様はいつも静かに聞いているだけで、私が一方的に話している。


 馬車が着いた場所は王都で二番目に大きな街で、広場には露天や屋台が並んでいた。


 私は男爵令嬢だから深窓の令嬢ではないので何度か友だちと街に来たことはある。でも、同じはずの景色が今日は全く違って見える。


「何度も来たことがあるのに、今日は街全体がとてもキラキラして見えます! 好きな人と一緒だから?」


 そう言うと


「今日は天気がいいからな」


 魔王様は爽やかにスルーした。


 むうっ。


 ちょっと拗ねた私は魔王様の手を取った。


「なんだ?」


「デートでは手を繋ぐものですよ! そうすれば迷子になる心配もありませんし」


「迷子って、子どもか?」


「行きましょっ!」


「おい!……ったく」


 でも魔王様は手を振り払うことはしなかった。

 やっぱり優しい。


 まずは露天を見て回った。かわいいアクセサリーがたくさんある。


 前世で読んだ小説では、こういうところで男性が自分の髪や瞳の色とおなじ色のアクセサリーを買ってヒロインにプレゼントしたりするんだよね?


 チラッ。


 魔王様はよくわからない置物を手に取り、じっと見ていた。


 ですよねー。



 たくさん歩いて小腹が空いたので食べ物を扱っている屋台を見て回り、前世でいうホットドッグのようなものを買って魔王様に渡した。


 そして街の中央にある噴水の側のベンチに座った。


 手を合わせて


「いただきます」


「今のはなんだ?」


 あっ、魔王様の前だと前世の記憶があることを隠す必要がないせいか、つい前世のクセが出てしまった。


「前世の食事前の挨拶です。諸説ありますけど、色々なものへ感謝を示すんです」


「そうか」


 そう言うと魔王様も手を合わせた。


「いただきます」


 とても綺麗な所作に思わず見惚れてしまう。

 単なる「いただきます」のポーズなのに、魔王様がすると美し過ぎて何か重要な儀式に見えてしまう。


 推しが尊い。


「ありがとうございます」


 魔王様に向かって拝んだ。


「……俺を食べるのか?」


「ちっ、違いますよ! これは『いただきます』とは違って、推しを拝んでいるんです」


「おしをおがんでいる?」


「はい、この世に存在してくださってありがとうございます」


 そう言いながら私がもう一度魔王様を拝むと魔王様は固まってしまった。


「魔王様?」


「あっ、いや……食べるぞ」


 もしかして照れている、とか?

 それはないか。


 変わらず涼しげな顔の魔王様はホットドッグを一口食べると目を見開いた。


「美味い……」

 

 そんなに?

 たしかに美味しいけど。

 魔界の食事はイマイチというのは本当なのね。


 私も齧り付いた。うん、美味しい。

 魔王様と一緒だから余計に美味しい。


 ふと視線を感じて魔王様を見た。


「どうしたんですか?」


「いや、いつも美味しそうに食べるなと思って」


「えっ!? そんなに顔に出てました? ごめんなさい」


「いや、素直でいいと思う」


 褒められたんだよね? ね?


 魔王様は初めて食べたというホットドッグを大層気に入った様子で、作り方を聞かれたので教えた。


 この後、前世で読んだ小説のように破落戸に絡まれて魔王様が助けてくれたり、私が目を離した隙に魔王様がアクセサリーを買ってくれていたり、という事はもちろんなかった。



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