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その2


 誰がそう呼び始めたのかは知らないが、俺たち魔族と呼ばれる者は魔界と呼ばれる所で暮らしている。


 積極的に人間界に行こうとするものは殆どいない。


 人間が稀少な素材や魔石を奪うために結界を壊して魔界に侵入して来なければ、俺たちは人間を襲ったりはしない。


 なのに、人間は勝手に俺たちを「悪」とし、大義名分を掲げて襲いかかってくる。


 それどころか、最近では強制的に俺を呼び出すようになった。


「魔王だ!」

「みんな避難しろ!」


 また呼び出されてしまった……。


「クレア、無理はするな!」

「アレックス様がいれば何も怖くはありません」

「私が必ずお前を守る」


 何度も聞いたそのセリフ。

 一緒にいる相手は毎回違っていたのに、最近はずっとその男だな。やっと一人に絞ったのか?


「私たちは決して貴方に屈したりはしない!ディバインレイ!」


 屈するも何も、こちらは何もしていないのだが。 


 そして必ず最後に彼女は周りに聞こえないような小さな小さな声で呟く。


「魔王様、ごめんなさい……」


 苦しそうに。


 ……


 そしてまた巻き戻る。


 一方的に呼び出され、そして倒される度に時間が巻き戻る。

 何度も何度も。


 ただただ繰り返される。

 終わりがないという恐怖。


 頭がおかしくなりそうだった。


 色々と試してみたが結果は同じだった。


 苦しげな彼女の声を思い出すものの、もう彼女を消すしか方法はないと思った。


 そして彼女のいる学園に潜り込んだ。


 彼女が扉を開いた瞬間に、逃げられないよう、俺のことを彼女が一番好ましく思っている者として認識する魔法をかけた。


 俺が倒される時「アレックス」という者と一緒にいることが多かった。

 だから俺のことを「アレックス」と認識すると思っていた。


 俺を見た瞬間、恋焦がれたような熱を帯びた目と歓喜の表情をしたので、魔法が効いていると思った。


 なのに……



*****



「魔王様……」


「えっ!?」


「えっ!?」


 魔王様を魔王様と呼んだら驚かれてしまった。


「『アレックス』ではないのか?」


 ちょっと何言ってるかわからない。


 あっ!もしかして夢あるあるかな?

 知人の名前で呼んでいるのに全く知らない顔なの。でも話は普通に進んでいくっていう。


「あっ、そうですね。アレックス様でした。そうでした」


「お前、今適当に返事をしたな?」


「そっ、そんなことないですよ?艶やかな銀色の髪と見る角度や光源によって青や紫に色を変える宝石のような瞳のどう見ても見た目は魔王様ですけど、アレックス様です」


「おい、ちょっと待て!俺は魔王なのか?アレックスなのか?どっちだ?」


 本当に何言ってるかわからない。


「こちらが聞きたいですよ。見た目は魔王様なのに『アレックスではないのか?』っておっしゃるし。どっちなんですか?」


「本当なのか?俺が見えているのか?いや、その前になんで今のお前が俺の正体を知っているんだ?」


「えっ?だって見たことありますもん」


「どこで!?」


 夢だからいいよね?本当のこと言っちゃっても。


「ゲームの中で」


「ゲームだと?」


 えっ?ゲームが通じないの?この世界にもカジノとかあるんじゃないの?ポーカーゲームとか。魔王様が知らないだけ?


「え〜っと、ゲームというのは娯楽の一つなんですけど、魔王様が出てくるゲームは、選択肢や結末が幾つもある小説みたいなものです」


「ちょっとまて!色々言いたいことはあるが、まず結末がいくつもあるだと!?では俺が倒されない結末もあるのか!?」


「いえ、魔王様は絶対に倒されます」


「なんだとっ!!!???」


「魔王様を倒さないと国に平和が訪れないので……」


「なぜだ!?俺たちが侵略したわけでもないのに勝手に人を呼び出しておいて『平和が訪れないから』とはどういう了見だっ!」


「えっ?勝手に呼び出して?魔王様の方から来てるんですよね?」


「一度だって俺から人間界へ行ったことはない!!!」


 あれ?そうなの?

 魔族があちこちの結界を破って侵入して被害が拡大しているから討伐に行ってくれって国から言われて、了承した途端に魔王様が人間界に乗り込んでくるって話だったと思うんだけど?


 なんか話が違う。

 ……まあ夢だもんね。


「今回も呼び出されたんですか?」


「あっ、いや、今回は自分から来た」


「……」


「違うんだ!勝手に呼び出されて一方的に倒されるということをもう何十回と繰り返しているんだ。いい加減、頭がおかしくなる。だから、その状況を止めるために今回初めて自分から来たんだ」


 ループしているってこと?

 何十回って言うのはきっと私がプレイした回数よね?

 魔王様の悲痛な叫びに申し訳なくなる。


 実は私の推しは魔王様なのです。


 攻略対象でも隠れキャラでもなく、倒すしかないのは本当に心苦しかった。

 でも登場シーンのムービー見たさに何度もリピートしてしまいました。ごめんなさい。


 だからいつも魔王様が倒れる時に謝っていました。

 私の声が聞こえるわけがないから意味はないんだけど。


「本当に魔王様は侵略するつもりはないんですね?」


「ない!充分過ぎるほどの土地があるのに、こちらに手を出す必要がない。稀少な素材や魔石を奪うためにわざわざ結界を壊して侵入して来ているのはお前たちの方だ!」


 そうなんだ。

 どちらが本当のことを言っているのかはわからないけど、まあ夢だし、とりあえず安心させてあげた方がいいよね?


「わかりました。私、今年の冬に聖女の力が覚醒して、来年の冬に討伐命令がくだされる予定なんですけど、お断りするようにしますね」


「断れるのか?」


「今まではセリフも行動も決められた選択肢から選ぶしかなかったんですけど、今日はアデル様と殿下の仲を取り持ったり魔王様が乗り込んできたりと、今までと違う話になっているので可能性はあると思います」


「お前のその口振りだと、お前も人生を何度も繰り返しているのか?」


「いえ、私は単にゲームで遊んでただけなんです……けど……」


 魔王様の顔がみるみる険しくなった。


「遊んでいただけ、だと?そのせいで俺は何度も、何度も!」


「ごめんなさい!本当にごめんなさい!私、魔王様が好きなんですっ!」


 魔王様の怒りにとうとう白状してしまった。


「はっ?」


「一目惚れなんです!本当は魔王様と結ばれる結末があればいいんですけど、決められた人しか選べなくて。魔王様には倒すときしか会えなくて……本当は魔王様を倒したくなかったし、何度も繰り返して魔王様に迷惑をかけていたなんて知らなかったんです!だから、今回こそは討伐をお断りして、繰り返しを止めて見せます!」


 平謝りした。

 魔王様がループに苦しめられているなんて本当に知らなかったんだもの。


 返事がないので恐る恐る顔を上げて魔王様を見ると、何かに思い至った顔をしていた。


「……だからお前には俺の姿が見えていたんだな」


「魔王様の姿は見えないはずなんですか?」


「お前にはお前が一番好ましく思っている者として認識する魔法をかけた」


「えっ!?」


「まだ覚醒していないとは言え、聖女の卵だから魔法がかからずに俺の本当の姿が見えているのかと思っていたが、そうか、お前は俺が好きなのか」


 そう言うと魔王様が近づいてきた。


「えっと、あの〜」


 思わず後退る。


「ならば、俺のために今度こそ繰り返しを止めてくれるよな?」


 さらに近づいてきた。


「はっ、はい!」


 壁に追い詰められて、いわゆる壁ドン状態に。


 キャーッ!!夢みたい!夢だけど。

 このままキスとかされちゃうの?

 濃厚な口付けをされて言うこと聞かされちゃうとか?


「では側で監視させてもらう」


「えっ?」


 魔王様の顔が近づき、紫の瞳が妖しく煌めいた。


「もし変な方向に話が進みそうになったら……」


「なったら?」


「お前の息の根を……」


「ぜっ、善処します!精一杯頑張ります!」


 くっ、期待させといて!

 脅迫って!

 壁ドンの意味がないじゃない。



 その後、なぜか魔王様は私を転移魔法で家まで送ってくれた。

 物騒なことを言いつつも親切。


 もしかしたら本当に私たち人間が「悪」と決めつけているだけで、実はいい人なのかもしれない。


 それにしても今日は本当に盛りだくさんだった。

 興奮してなんだか眠れそうにない。


 夢だけど。



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