魔王side5
クレアのいない日々は全てが色褪せて見えた。
なんの感動もなく、ただ繰り返される毎日。
何度となくループしてきた。
いつ呼び出されるかもわかっていた。
今回もその日がやってきた。
なのに、いつまで経っても呼び出される気配がなかった。
クレアが討伐要請を拒否しているのだろうか?
これでループが終わるかもしれない。
俺はそれを願っていた。長い間、ずっとそれだけを願っていた、はずなのに……
「何を躊躇っていらっしゃるのですか?」
「ミトス、何の話だ?」
「さっさと迎えに行かれてはいかがですか?」
「何を言っている?」
「聖女の事が好きなのでしょう?」
「なっ、何を……クロードが何か言ったのか?」
「クロードは関係ありません。私がループとやらに気づいて10回目ですが、それでも腹立たしくて今すぐ聖女を切り裂いてやりたい程なのに、何十回とループしている魔王様が頑なに聖女を葬る事を拒否なさる理由など、好意を抱いている以外にないでしょう。クロードが人型になるのを禁じたのも単なる嫉妬でしょう?」
「そんな事は……今回は消すつもりで聖女の元に行った」
「それだって私に延々と諭されて仕方なく行ったのでしょう」
「いや、俺も、もうそうするしか方法はないと思った」
「ですが実際は聖女に会って好きになってしまったわけですよね。それならば聖女が覚醒する前に攫って来ればよろしかったのです」
「……しかし人間はこちらでは長くは生きられない。人間が楽しめる様な娯楽も何もない」
「だから嫌だと、聖女が言ったのですか?」
「そういうわけでは……」
「何故そんな大切な事を魔王様が勝手に決めるのですか? 彼女に決めさせるべきではないのですか?」
「……」
「言っておきますが、私は聖女の事が嫌いですよ。『ごめんなさい』のたったひと言で、魔王様の心を縛ってしまう彼女が憎くてしょうがないです。ですが、それでも魔王様は我が主です。主が欲しいと思うものは手に入れていただきたい」
「ミトス……」
「何をぐずぐずしているのです? さっさといってらっしゃいませ。みんなで魔王様の失恋を慰める会を準備しておきます」
普段は小言ばかりだが、一番俺の事をわかってくれていて、肝心な所でいつも助けられる。
「ありがとう」
感謝の言葉は素直に出た。
そして俺は人間界に向かった。
「私、討伐要請をお断りしたのよ。なのに……」
自分の立場が不利になるかもしれないのに、ループを止めるために断ってくれたんだな。
「俺が自分の意志で来た」
「……なんで?」
そんなこと決まっているだろ。
「お前に会いたくて……」
抱きついてきたクレアを思い切り抱きしめた。
離したくない。でも……
「お願い! 私を連れて行って」
「……それはできない」
「どうして!?」
「魔界は陽の光がない。人間は長く生きられない」
「貴方のいない世界で長生きしても意味がない!」
「お前の好きな食べ物も娯楽も何もないところだ」
「貴方がいればいい!」
「俺はお前を傷つけたんだぞ?」
「でも、こうして会いに来てくれた! 私に会いたいって思ってくれたんでしょ?」
「ああ、会いたかった。クレア」
「!! やっと、やっと名前で……私も会いた──」
クレアが全部言い終わるまで待てず口を塞いだ。
もう俺にクレアを手放すという選択肢はなかった。
そのままクレアを攫った。
そして今クレアは、初めて見る魔界に目を見開いて固まっている。
早速後悔しているのだろうか?
しかし彼女は俺の心配をよそに
「すごい! 想像通り!」
そう言うと俺を見て笑った。
「連れてきてくれて、一緒にいることを許してくれてありがとうございます!」
愛おしい。
俺が誰かにこんな気持ちを持つ日が来るとは。
そんな俺の気も知らず、クレアは俺の手を握り、満面の笑みを向けてきた。
愛おしい。
「ユリウス」
「ゆりうす?」
「ユリウス。俺の名前だ」
クレアは一瞬目を見開いた後、その大きな瞳を潤ませ、蕩けるような眩しい笑顔を見せた。
「……嬉しい……ユリウス。素敵な名ま──」
抱きしめて唇を奪った。
空を飛び、城までの道のりを見せるつもりだったが予定変更だ。
転移魔法で一気に俺の部屋へ移動した。
1分後、ユリウスの頬にクレアの手形が付いた。
二人で話し合い、お互いの希望の間を取って半年後に結婚した。
3年後、子どもにも恵まれた。
そして……
あれから十数年。
今日も魔王城にて、クレアを溺愛するユリウスの姿が目撃されている。
〜fin〜
最後までお読みいただきありがとうございました。
楽しんでいただけたなら幸いです。




