その1
2話までは短編と同じ内容です。
なんだろう?
この景色見たことある。
濃紅の髪にルビーのような瞳の美しいお方はアデル様ね。
そしてそのアデル様に睨まれている私は……
髪を一掴み、目の前に掲げてみる。
おぉ、ピンク。
……なんだ夢か。
昨日ゲームしながら寝落ちしちゃったからね。
まあ、せっかくの夢なんだし好きなように動いてみようかな?
私はボーッとする頭をひと振りすると噴水の縁に手をかけて立ち上がり、睨んでいるアデル様に向かって一歩近づいた。
「なっ、なんですの?わっ、私は間違っておりませんわよ」
挑んでくるような態度を取るとは思っていなかったんだろう。めっちゃ怯んでる。かわいい。
「アデル様、誤解です!」
「えっ?誤解?」
「はい、誤解です。私にとって殿下はアイドルと同じです!」
「えっ?あいどるとは何ですの?」
えっ?アイドル通じないの?夢なのに融通利かないな。
「アイドルというのは憧れです。アデル様『ドラゴンと魔法の杖』のフレディがお好きですよね?」
「なっ、なぜそれを!?」
公式サイトの「制作者裏話」に書いてありました。
「だからと言って、本気でフレディとお付き合いしたいとか抱きしめて欲しいとか思うわけではないですよね?」
「もっ、もちろんですわ!架空と現実の違いぐらいわかっておりますわよ」
「ですよね?アデル様にとってフレディは憧れで、本当に好きな人はエリック殿下ですよね?」
「なっ、何をおっしゃるんですの!?」
「違うんですか?殿下のことお好きなんですよね?」
私はさらに一歩近づいた。
「そっ、そうですけれども……」
思わず、といったようにアデル様は答えた。
「それと同じです。私にとって殿下は憧れで、私の推しは別の方です!」
「おし?」
えっ?推しも通じないの?設定守りすぎじゃない?夢なのに。
「私が好きな人は別の方です」
「でっ、でもクレア様はいつも殿下と一緒にいるではありませんか!」
「確かに、憧れの方にお会いした嬉しさからちょっと近づき過ぎてしまいました。そのせいでアデル様に不快な思いをさせてしまってごめんなさい!今後は気をつけます」
「うっ、わっ、わかればよろしいのです」
「アデル様は本当に殿下のことがお好きなんですね。そのことをちゃんとご本人にも伝えていますか?」
「なっ何をおっしゃるの!?そんなことするわけないじゃない」
「どうしてですか?言わないと伝わらないですよ?」
「私がそんなことを言っても殿下は喜びません!」
「どうしてですか?」
「殿下は私のことなど、勝手に決められた婚約者としか、思っていませんもの……」
どんどん声が小さくなるアデル様。かわいい。
「そうなんですか?殿下」
私がアデル様の後ろに視線を送って言うと、アデル様はすごい勢いで振り向いた。
「でっ、殿下!?」
後退ろうとするアデル様の背を押さえて
「逃げても解決しませんよ?どうせ全部聞かれているんですから、この際素直に伝えた方がいいですよ!」
そう言ってアデル様の背中を思い切り押し出した。
「きゃっ!」
たたらを踏んだアデル様を殿下が支え、そしてそのまま抱きしめた。
おぉ〜、殿下やりますね!
「でっ、殿下!?」
「ごめん。君にそう思わせてしまったのは俺の力不足だ。王妃教育でどんどん立派になっていく君に相応しくなろうと冷静な男を演じ過ぎてしまったようだ」
「そっ、そんなこと……」
「俺は初めて会ったときから君に恋している」
「殿下!?」
「今さら遅いだろうか?」
「そっ、そんなことございません!わっ、私も、殿下のことを、その……お慕いしております……」
おお〜。
私が拍手をすると、いつの間にか集まっていた周りの方々も拍手を始めた。
うんうんと頷くと私はそっとその輪から離れた。
良かった良かった。
夢ってすごいわね!
どうせならこの調子で推しに告白できたらいいのに。
普通なら会えるわけないんだけど、せっかくの夢なんだし……さすがに無理かな?
そう思いつつも屋上に向かった。
このゲームの攻略対象は5人
エリック殿下はザ・王子様
次期宰相候補アレックス様はオレ様
魔術の天才ケヴィン様はかわいい系
護衛騎士のフランク様は甘々系
隠れキャラで帝国の第二王子で留学生のニコラス様はヤンデレ
アレックス様は唯一婚約者がいないので良心が痛むことがない。だから全ルート攻略後はアレックス様ルートばかりプレイしていた。
でも私の推しキャラは……あっ、鍵が開いてる。
屋上の扉を開けて外に出た途端、なぜかクラッとして座り込んでしまった。
なんだろう?
「やっと来たな」
声の方に顔を向けると、男の人が立っていた。
思わず目を見張り息を飲んだ。
本当のことを言うと、途中から夢ではなく転生したんじゃないのかな?と思っていた。噴水の縁でぶつけた頭も痛いし。
でも、目の前の男の人の顔を見て「あっ、やっぱり夢だ」と思った。
だって普通ならあり得ない、この場にいるはずのない人だったから。
「魔王様……」
私の拙い文章をお読みいただきありがとうございます。
いつも誤字報告ありがとうございます。
助かっております。




