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洗礼

受験勉強の都合で更新日を火・金・日の3日に絞りたいと思います。すみません。

一段、また一段と上ってゆく度にプレッシャーは増していく。


身体中から汗が噴き出している。


まるで重力を5倍にでもされたように体が重い。


残り3段、圧力が跳ね上がり立つのが辛い。


押しつぶされないように集中する。


あと2段、今すぐにでも踵を返し階段を駆け下りたくなってきた。


挫けそうな心をプライドで押さえ込み足に力を入れる。


ここまで来て引き返してなるものか!


その一心で板に張り付いたかのような右足を無理矢理持ち上げる。


最後の一段、全力で二階の絨毯を踏みつける。


◆◆◆


二階にたどり着いた瞬間にかかっていた圧力は霧散した。


「はぁはぁはぁ」


「『クァァ(回復術式)』」


疲れが取れてく。あぁノゾミか。マジ助かる。


ノゾミも結構疲れてたらしく俺の頭の上でグタァっとし始めた。


「ようこそこちら側へ」


「ようこそ」


声をかけてきたのは濃い緑色の髪を持つ細身の男性と艶のある朱色の髪を肩胛骨辺りまで流している女性。


「どういうつ――」


「僕たちじゃないですよ」


「え?」


「階段上ってると途中から潰されそうになったでしょ。あれわね、一種の洗礼よ」


「洗礼・・・・・・」


「各国の首都にあるギルド全てに存在しています。まぁそれぞれ形は違いますが」


「当然私も受けたわよ。死ぬかと思ったわ」


じゃあ誰がやったんだ?二階にはこの二人以外人影がない。


「探しても多分見つからないと思いますよ。僕も探しましたが全然見つかりませんでした」


「私もよ。あ、私はアルトっていうのよ」


「自己紹介してませんでした。僕はエルフェルドと申します」


「え、あ、俺はサトーです」


「まぁこちらに座って下さい」


敵じゃないと分かったし友好的でもあるので取り敢えず二人の囲んでいるテーブルの近くの椅子に座る。


「では、改めて、初めまして」


「よろしくねぇ」


「よろしくお願いします。お二人は固定でやってるんですか?」


「違いますよ。というか昨日会ったばっかりですね」


「そうね」


多分、エルフェルドさんが後衛職でアルトさんが前衛職だとおもう。


「お二人は武器を所持していないんですね」


「いや、もっていますよ。隠しているだけです」


「私は収納してるだけ」


「へぇ」


まぁ高ランカーにもなると出来るだけ自分の手は見せないようにするんだろう。


「それにしても黒髪黒目とは珍しいですね。まるで勇者のようで」


「あはは、そうですよね。よく言われます。でも勇者じゃありませんよ」


嘘は言ってない。実際、勇者と間違われたことあるし。


「まぁ勇者は聖武器隠そうともしないしね」


「サトーさん、親睦会代わりに一緒に依頼を受けてくれませんか」


「えっと」


今だに抜けきらない“ノーといえない日本人”の性質。真面目に頼まれたらちょっと断りにくい。


「エルフェルド、話が飛んでるわよ」


「あぁそうでした」


エルフェルドさんは、しまったしまった、とでも言うように頭をかいた。


「あのいまいち話が見えないんですけど」


いまいちどころか全く見えないけどね。


「見たところサトーさんは斥候職をお持ちかと」


“見たところ”、まさか魔眼か?いやでも、看破はクリスだったし鑑定は優斗。魔眼の能力が被ることはないからそれ以外。


人のステータスが見られそうな能力は・・・・・・だめだ思いつかない。


「あ、僕魔眼持ちじゃありませんから」


あ、雰囲気がって言う話ね


「さすがですね。正解です。エルフェルドさんは魔弓士ですか」


魔弓士ってのはあれだ。魔剣士の弓バージョン。


「ははは、おおむね正解。一応後衛職だよ」


む、魔弓士ではないようだ。だとすると何だ。・・・・・・ダメだ。俺の頭の中に入ってる後衛職だけが全てではない。あぁまた勉強でもするか。


「私は魔法剣術士と魔剣士どっちもよ」


「どっちも同じに聞こえるんですか」


「全然違うわよ。」


「えっと、どう違うのか分からないんですけど」


「魔剣士は魔剣を使う人、魔法剣術士は魔法と剣術を併用する人のことよ」


へぇ初めて知った。じゃあエルフェルドさんは魔弓士じゃないとしたら魔法弓術士?


「ははは、僕が魔法弓術士じゃないか?とか思っている顔だね。正解。僕は魔法弓術士だよ」


クリスといいアルトさんといい、結構こだわりある人多いな


「やっぱり間違ったら怒ります?」


「僕はそれほどでも」


「怒る人は怒るわね」


あ、はい。気をつけマース。


「俺は支援職を殆ど網羅してるんですけど逆に戦闘スキルが全然なくて」


「おぉ心強い。階段を上がりきった時回復魔法、いや回復術式かな、かけてたけどそっちもいけるの?」


「それはノゾミ、俺の従魔なんです」


ノゾミの喉元をなでる。喉を鳴らして返してくるのがなんとも愛らしい。


「回復術式使える従魔なんて初めて見たわ。ぜひ欲しいわね」


何!お前敵だったのか!


「どこで捕まえたの?」


いや、敵ではなさそうだ。


「あ、これジャナス迷宮に一番近い街分かります?そこで卵を買って孵化させたんですよ」


「あーえっと~なんだっけあの街の名前。迷宮が有名すぎて忘れたわ」


「え?あの街はジェナスではないのですか?」


え、まじで!?あそこジェナスって言うの?


エルフェルドさんの当然じゃね?みたいな顔の横に初めて聞いたわ、とでも言いたげなアルトさんの顔。


そしてある程度の期間あそこにいて全く知らなかった俺の驚いてる顔。


端から見たら完全にアホ面を晒していた。


「コホンッ、それで依頼の話ですが」


「あ、待って下さい。取り敢えず何狩るんです?」


「アグアドエルマータよ」


え!?い、今何を?


「え?」


「だからアグアドエルマータだってば」


あなたたち俺に俺の嫌いな物NO.2、黒キモ生物Gを狩れと!?

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