朱楽隊
上都を中心に万里の長城以北を制した徳川家康公率いる関東軍は、北京北方の長城に迫りつつあった。その一方、遼東半島を制圧した小西行長、宇喜多秀家率いる朝鮮方面軍は戦列艦を繰り出し、山海関の沖から艦砲射撃を繰り返した。蒲生氏郷率いる南軍も寧波を制圧。現在の上海付近まで版図を広げ、南京を窺う勢いとなり、明軍はどこか一つに軍勢を集中させることができずに戦力を分散させる事となった。
「これが万里の長城か!石造りの堅固な建物。明も銃や砲は装備しておるようですな。」
遠眼鏡で確認しつつ徳川家康様がいう。
「まともに相手をすれば大変ですね。まともに相手をすれば。」
「すなわちまともに相手はしない、と。」
「はい。」
そしてこちらは多数の速射砲を並べ、数日間に渡り飽和砲撃を繰り広げた。三日三晩降り注いだ砲弾の雨の後、万里の長城はわずかに盛り上がる丘程度になっており、周囲には無数の穴が空いていた。第一次世界大戦の要塞攻略の再現である。
「…これはひき肉よりひどい残骸のような状態ですな…」
「砲撃の威力がこれほどまでとは、とヌルハチ殿が言っています。」
通詞が伝えてくる。
「もはや組織的に残っている敵はありませんでしょうが、気をつけて前進しましょう!」
「…石田殿、俺は大将は後ろに控えていて出番がないほうが良いと思っているが…こうあまりにも出番がないと微妙な気分になるな。」
と本多忠勝様がいう。
「いやいや、まだ明も兵力は残しておりますし後で本多様の出番もきっとありますよ!ないほうが楽でいいのですが。」
と俺は応え、軍を前進させた。
猛砲撃の被害と恐怖で長城を守る明の防衛線は崩壊していた。明の皇帝、万暦帝は北京を放棄して南京へ向かおうとしたが、南京にも日本軍が迫っている、との報を受け、鄴に立て籠もった。
「鄴ですか…これまた古い都に。三国志の世界ですな。」
竹中半兵衛様が言う。その時忍びが入ってきた。
「報告します!明は大量の弾薬・糧食を烏巣に集積して反攻の機会を狙っております!」
「烏巣ですか…ますます三国志ですな。」
と黒田官兵衛様がニヤリと笑う。
「烏巣を守備するのは朱楽隊と称する明の精鋭部隊です!」
…烏巣、ウッソだけに守備するのが朱楽隊かよ。
「まさか朱楽隊は女人だけで編成されているわけではなかろうな?」
と俺が聞くと
「いえ、全てが女人というわけではありませんが…容姿も武具も見栄えの良い端麗な精鋭部隊とのことです。」
「隊長は?」
中国だからまさかオリファーではあるまい、と思ったところ
「可精忠なる女将軍だそうです。」
と言われなんかホッとした。
「ともあれ烏巣を落とす!精鋭の部隊を編成して急戦直行だ!」
号令一下、最精鋭軍が編成され、騎乗の上で烏巣に急行した。そして夜半に烏巣に到着するとそのまま強襲したのである。
「一番槍はおれのものだぁ!死ね死ね死ね死ね!」
水野勝成が砦の門を突き破って突入する。水野勝成の槍の前に明の兵は弓矢や銃撃する間もなく次々と討たれていく。
「なに?敵の夜襲か、撃てっ!撃てっ!何故当たらん!」
「正しいから死なない。お前ら覚悟が足りん。」
と反撃する兵をまたたく間に打ち取る本多忠勝。名槍蜻蛉切を振るって自らには傷一つ付くことなく敵兵の屍の山を築いていった。
「お前らもっと弾持ってこい!急襲は尾山城攻めを思い出すぜ!」
と機関銃を乱射する佐久間盛政。これだけ機関銃の出番があるならセーラー服を着た美少女でも連れてくればよかった。
「ジョーダンが太閤殿下の茶のお相手をしていなかったら爆弾投げたかっただろうな!」
と言いつつ散弾銃で敵兵を討ち取っていく森長可。
「違いない!ははははは。」
と佐久間盛政は楽しそうに応えた。
突如乱入してきた日本勢の前に壊乱状態となった明軍は
「逃げろ、逃げろ!」
と算を乱して逃げ出した。その明の兵の前に立ちふさがったのは。
「土屋昌恒。ここは行き止まりだ。」
片手ではなかったが千人に迫る勢いで斬り捨てていく。明軍はさらなる大混乱に陥り、そちらこちらで火の手が上がりはじめた。
「何が起きた!敵襲か!うろたえるな!」
と指示を出す可誠忠(明兵は中国語話していてお互い意味は分かってないと思ってください。為念。)の前に現れたのは。
「大将首だ!お前大将首だろ!?なあ大将首だろおまえ。首おいてけ。なあ!」
島津豊久であった。
「何だお前は!どけ!」
と可誠忠は剣を抜くも
「日本語喋れねぇんなら、死ねよ。」
と一刀のもとに首を切り落とされたのであった。
しかし、勢いが良すぎて首が遠くに飛んだところを
「可将軍の仇!」
と多くの明兵が襲いかかったために、その場を脱することはできたもの、可誠忠の首は明軍に奪われてしまったのであった。
そのころ、
「もーえろよもえろーよ。ほのおよもーえーろ。」
燃え上がる明軍の糧食を前に歌っているのは竹中半兵衛。
「いやあ、石田くんから教えてもらったこの歌、実に炎に合いますねぇ。これだけの糧食が燃えているのを見たら長束くんは悲しむでしょうけど目的は達しました。」
こうして烏巣の明軍は全滅し、膨大な弾薬や糧食も失われたのであった。
その後烏巣から生き残った明兵が万暦帝の前に報告に参上した。
「…それほどまでの大敗であったか。こうなっては近々の反撃は難しい…日本・後金軍とはにらみ合いを続ける他ないか。ところでそのお前が持っている兜は何だ?」
「…これ…可さんです…」




