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小田原征伐 IV

 小田原城の包囲を整えた豊臣秀吉様の軍勢は、小田原城を見下ろす山に石垣山城を建設した。俗に一夜城と言われるが、完成時に森を切り落としてよく見えるようにしたためで、城そのものは五層天守も備える本格的なものであった。秀吉様は石垣山城に本陣を置きつつ、城下町のようなものすら建設して諸将が長期退陣でも倦まないようにしたのである。その補給を支えている長束正家はマジ天才。

 さて石垣山城、せっかく小田原を見下ろせる位置にあるので、攻城砲も用意して、小田原に打ち込ませることにした。あたらなくてもいいから、と特に夜間砲撃するのは小田原の籠城勢にストレスを与えるには効果的だったが、


「うるさくて寝られない。」


 と秀吉様に呼びつけられた淀の方様や甲斐姫様に抗議されたので、主に昼に砲撃することになった。


「巣ごもりを続ける北条ですが、そろそろなんとかしたい頃ですね。」

「うむ。」

「俺が早川口から攻め込んでみましょうか。」


 と先の活躍が認められ、陣借り牢人、というよりは普通に武将のように参加している仙石秀久様。


「よし、権兵衛、やってみよ。」


 とお許しをいただき、仙石隊は早川口から小田原城に攻め込むことになった。


「…というわけで早川を夜間渡河し、虎口に攻め入るのが目標だ!皆のもの!奮励努力せよ!」

「…別に倒してしまってもよいのだろう?」


 と言い出したのは仙石隊お手伝いのはずの佐久間玄蕃盛政。ちなみに流石に秀忠様は家康様の陣にお帰りいただいた。


「さすがに無理だと思うが…とにかく命あっての物種、無理はしないでな。」


 夜の内に早川を渡った仙石隊は夜明けとともに虎口に襲いかかった。


「敵襲だ!」


 北条方が気づいて反撃する。


「援護射撃、撃て。」


 対岸から大砲隊で堀秀政殿が援護射撃を開始した。その勢いに怯んだ北条勢につけ込んで、仙石隊が突入する。


「佐久間殿、その大きな帯がぶら下がった3人がかりで運んでいる鉄砲は…?」

「ふっふっふ。もうちょっとしたらこいつの出番よ。」


 虎口の内側に入り、待ち伏せした北条の兵に対して佐久間が指示する。


「機関砲!設置!射撃開始、弾足りなくなるし熱さで痛むから少しずつだけ撃て!」


 …そう、佐久間盛政が持ち込んだのは小倉で完成した秘密兵器、機関砲だったのである。砲とは言っているが厳密には小さめの機関銃であるが、台座に設置して斉射し猛威をふるう。


「引け、引け!みな死んでしまうぞ!」


 北条の兵が我先に逃げ出す。


「よし、者共!進むぞ!」

「え?虎口を落としたら戻るのでは…」


 ちょっと焦る仙石秀久。


「第二陣、対岸から到着しました!」

「よし!弾薬と鉄条網が着いたな!スコップ隊!虎口から突入したら塹壕掘るぞ!鉄条網隊、広げて防御陣地構築!機関銃座作って拠点防衛するぞ!」


 とテキパキと指示を出す佐久間盛政。


 見る見る間に早川口の内側に鉄条網が巻かれ、塹壕が掘られ、陣地が作られてしまった。

…ちなみに土塁沿いに陣地を潰そうと進んできた兵は。


「狭いところなら俺に任せろ。」


 と土屋昌恒が斬り捨ててしまった。


 早川口を守護していた松田憲秀はその南側にいた北条氏照に援軍を要請した。


「秀吉の家来共が総構えの内側に入り込んできておる!助けてくだされ!」


 『よし。』と向かった北条氏照であったが、


「…あれはなんだ?」


 と立ち上がって機関銃陣地を眺めたところで、ダダダダダッ!と斉射を受け、

蜂の巣となってしまった。

「氏照さま!」

「まさか、あんな距離から!」


氏照を救おうとした兵も次々と打ち倒されていく。


「氏照様を撃った者を許すな!」


と果敢に攻め込んでくる兵も多かったが、皆等しく機関銃の餌食となり、屍を重ねるばかりとなった。


「お、あれ、大将首でね?」


斉射を避けるために引きずられていく北条氏照の遺体をみて、島津豊久はつぶやいた。


「しかしあんなに遠くちゃ首を取りにも行けないな…

新しい戦というのはどこか味気ないものよな。」


「よし、堀殿に伝令!どんどん渡ってこい!総構えはまとめて押しつぶすぞ!」


 佐久間盛政から伝令が飛び、それを受けた堀勢が渡河をはじめた。北条勢にそれを押し止める兵力はすでになく、堀勢に続いて次々と豊臣の諸将が総構えの中に侵入をはじめたのである。



「…氏照が討ち死にしただと?」


 小田原城の本陣で飯に汁をかけようとしていた北条氏政は汁を取り落した。


「豊臣勢は総構えの内側に陣を築き、そこを拠点として対岸から次々と渡ってまいります!」

「まだ本来の小田原城内には侵入を許しておりませんが、総構えはもう、豊臣の兵で溢れています!」

「そこから次々と大砲が・・・あがっ!」

「これは…うわっ!!」


 その時、本陣に大砲が降り注ぎ、話していた伝令は砲弾に押しつぶされて死んでしまった。御殿の中もめちゃくちゃになり、櫓はひしゃげて登ることすらできなくなっていた。

氏政の姿も見当たらない。


「まさか、まさかこの小田原が落ちる事などあり得ぬ!」


北条氏直はそれでも気丈に叫ぶがそれに答える者はいない。


「氏直様!総構えに侵入した徳川勢が次々と建物などを取り壊して投げ込み堀を埋めております!」

「氏直様!…ここに至りましては…」

「氏政様も見つからず、残るは氏直様のみにございます!

下知を!」

「思えば秀吉、というよりは石田三成にいいようにされ続ける人生だったな…」


氏直は一人呟いた。


「やむをえん。降伏しよう。」


 こうして小田原北条五代氏直は豊臣秀吉に降伏し、その関東支配の歴史を閉じることとなったのであった。

今日はこの1話だけです。すみません。明日の更新も朝はお休みします。午後以降の再開になります。よろしくお願いします。明日からは小田原の戦後処理です。

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― 新着の感想 ―
[良い点] こう、飯に汁をぶっかけると凶兆になるのは 後北条氏の宿命なのかね? というか、彼らはぶっかけ大好き一族か何かかね? エロイ!
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