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北条氏政

 そうこうしている内に北条氏政殿が上洛してきた。聚楽第での諸将との挨拶はつつがなく終わった。


「氏政殿、小田原からはるばるご足労いただき大儀であった!」


 豊臣秀吉様が声をかける。


「氏政殿には中納言の官位を与え、『相模中納言』と呼ばせていただこう。将来氏直殿にも同様の待遇とする。」

「ありがたきことにございます。」


 氏政殿はかしこまって応えた。


「さらに先の天正壬午の乱の際の北条家から当家への支払いは、これを停止とする。」

「関白殿下の慈悲には平伏するばかりであります。」


 こうして北条氏政は中納言に任官され、北条氏直も将来上洛した際に相応の官位を与える約束がされた。それから大坂城に場を移し、北条氏政・氏規をもてなす宴が開かれた。


「北条殿とはこれからも仲良くしていきたいものだな!」

「北条も殿下のため尽くして天下泰平の礎となりたいものです。」

「うむ。」

「ぜひ今後とも関東は北条にお任せいただければ。」

「ん?相模伊豆武蔵は任せたぞ。それだけでもそこに居る徳川家康殿の領地よりも大きいぐらいだな。」

「相模伊豆武蔵はもちろんでございます。それと我が北条が庇護している古河公方が治める下総、上総や下野も…」

「おう、そうだな、下総や下野で北条殿に従っているところはそのまま北条殿が取次をなされよ。」

「更に…」

「まだあるのか?」


 豊臣秀吉様が眉をひそめた。


「上野は我が北条が父祖の台から上杉家を打倒して獲得を目指した念願の地であります。どうか上野は我が北条の自由にさせていただけましたら。」

「上野は沼田のみ真田に与えてその南の大半は北条のものではないか!まだそれ以上いるというのか。ならばそこの真田の寄親である軍務尚書の石田に戦を挑むというのか?ならば天正壬午の際の賠償を石田に耳を揃えて払ってからではないのか?」


 と殿下は声を荒げる。


「いえ、ここで戦となってはわざわざ京くんだりまで下向してくることはありませんでしたから…」


 引き下がりつつも北条氏政は上方に下向、と言って暗に相手を見下した。


「ならば上野は今のままでよいな。」

「御意。この話はここまでとさせていただけましたら。

さてこの大坂城は素晴らしい城ですな。」

「そうであろう、そうであろう。」


 秀吉様は相好を崩され、嬉しそうに言った。


「欧州は墺太利おーすとりあ神聖羅馬ろーま帝国帝都、『びえんな』の街を元に軍務尚書が当家の英才共と知恵を絞って作った大城塞じゃ。20万の軍勢でも容易に跳ね返すことができるぞ。」

「僭越ながら…」


 と北条氏政が不敵に続けた。


「この様な大げさな土塁を用いて20万ですか。我が小田原城は総構えができる前に、そこに座っている上杉景勝殿の義父、軍神と言われ殿下が手取川で逃げ出したあの上杉謙信が率いる11万の軍勢を、郭の一つも落とされず退けましたぞ。」


 群臣が色めき立つ。


「なに、謙信公の件は聞き間違いと思い許そう。しかしこの大坂城が貴殿の小田原城よりも劣るというのか。」

「劣るも何も、謙信めが尻尾を巻いて逃げ出したのは『惣構ができる前』でございます。今は総構えが完成し、謙信抜きのへっぽこ武将どもなら20万いようが30万いようが相手にならないでしょうな。関東は我が北条のモノ!殿下は口を挟まず我らのいう通りにしておけばよいのです!」

「言わせておけば!ならばそのご自慢の小田原城、我が軍勢で落とせるか試してやろうか!」

「おやりなさいおやりなさい、ただし攻略失敗の暁には殿下の権威は地に落ちるでしょうな。」

「皆のもの!今の戯言しかと聞いたな!そこの者を捕らえよ!磔にして陣頭に掲げて小田原に向かってやるわ!」

「そうはいきませんぞ。小太郎!甚内!行くぞ!」


 というと同時に氏政に近侍していた二人の大男が立ち上がり、焙烙のようなものを投げる!広間にはもくもくと煙が立ち込め、視野がなくなった!


「伊賀者!何をしている!追え!」

「三成さま、殿下を狙うものがあり、そちらの守りを固めますゆえ追うことが困難に!」

「そのようなものが…奥の御殿に仕える者共か?」

「草として入り込まれていたようです!」


「ははははは。以前小田原で三成殿の配下のマイケル・ジョーダンに『伊賀と風魔の力比べをさせましょうか?』と言われた意趣返しよ!我が名は風魔小太郎!」


 と声が聞こえると同時に氏政主従の姿はかき消えている。


「門だ、門を全て閉じよ!」


 素早く伝令が飛ぶもその姿は大阪のどこにも見当たらず、どうやら脱出に成功されてしまったようであった。


「……」


 取り残された北条氏規は呆然としている。


「微塵も省みず取り残された所から見て、氏規殿は全く預かり知らぬようだな…」

「殿下のご厚情を無にする我が兄の所業、ひたすら遺憾の意を表するばかりであります…」

「北条殿、こうなっては致し方なかろう…」


 徳川家康様が声をかける。


「よろしい、ならば戦争だ。」


 殿下が言った。


「氏規殿にこの書状を届けさせ、宣戦布告とする。諸君、小田原攻めだ。」


 こうして小田原征伐が始まった。忍城で失敗厳禁だ。頑張れ俺。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 忍城は水攻めじゃなくて 大筒でハチの巣にすると良いと思うの 圧倒的な鉄と火の集中砲火で消し飛ばすのが良いの 甲斐姫? 生け捕る甲斐もなく……
[気になる点] 因縁のエンドレス切腹でのプロローグ襲来か?楽しみにしております!
[一言] 史実の忍城攻略は三成の戦としては成功なんだが… ケチが付いた理由は秀吉が自分の技術力を見せつけるために水攻めをやれと言った 忍城以外でやろうとしたら他が降伏した 成田氏の善政で地域の民が言…
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