徳川秀忠
天正17年(1589年)、我が石田家、大坂城下の屋敷。今日はなんと徳川家康様がお客様にいらしたのだ。
「ほら、秀忠!お前の甥っ子だぞ。可愛いのう。きっとわしに似て逞しい武将となるだろうよ!じいやだぞ、ばぁぁ。」
家康様は督姫様と俺の子を見にいらしたのだ。デロデロです。今回、家康様は嫡男の秀忠様を伴っていらっしゃった。史実では来年上洛して元服し、秀忠、と名乗られるはずなのだが、豊臣秀俊様の元服が早まったのと同様、早めの上洛となったのだろう
「赤子は実に癒やされるものですね。おじさんだよ!」
と遊んでいただいている。秀忠様は何度も関ケ原の後ご尊顔を拝しているが、はやり家康様よりも知性を感じさせる広い額と子供にしては鋭い目をしている。そして体格は11歳という年齢の割には大きく、その身体はムキムキだ。後で聞いたら四天王(本多忠勝たち)に稽古をつけてもらっているらしい。
「三成、督姫、良い子を得たな。義父としても喜ばしいぞ。さて、この子が成人した時の名乗りだが、家康の偏諱から家重か家成でどうだろうか?」
家康様、気が早すぎ。
「あいや待て!それではわしからの偏諱が入らないではないか!」
と振り向くと豊臣秀吉様。いえ、天下人なんですからアポ無しは止めましょうよ。
「お、殿下もいらっしゃいましたか。殿下の偏諱を入れていただきますと、うーむ、
『秀家』になりますな。」
「うーむ。それではどっかの備前中納言と同じだな。」
「いっそのこと『家秀』では?」
「家康ぅお主やはりわしをいつか超える気か?」
「いえ、冗談でございます。滅相もない。」
「さすれば格が下がるのは無念だが…『吉康』だな…」
「わしもそうなると思います…」
「よかったな!吉康!大きくなったら我らのために励めよ!」
と俺が全く口を挟むこともできず、我が子の将来の諱は『吉康』に決まったのだ。
「ところで三成、小倉で蒸気船なるものを作っているとか。」
「まだちゃんとできなくて爆発してますけどね!」
「それは一体新手の爆裂弾かなにかなのか…」
「後数年あれば動くと思うのですが…そういえば徳川様にお願いしたい事が。遠江の相良にある油田の採掘をさせていただきたく。正当な対価は払いますゆえ。」
「今度は何を作るのだ?」
「蒸気機関では船は動かせますが、どうしても内燃機関と言うもので作りたいものが…」
家康様に快諾頂き油田ゲット。やはり日本で技術チートするにはここ必須なのよね。サンキュードクターストーン。
家康様はもちろん大阪に孫と遊びに来ただけではなく、本題は秀忠様の元服と任官であった。秀忠様はひとまず侍従に任官された後、すぐに中納言に上げられた。(これも史実より早い。本来なら江戸に移ってから。)家康様は大納言に任じられ、駿河大納言と呼ばれている。
豊臣秀俊様を付け狙っていた京の闇に蠢く魑魅魍魎たちは今度は徳川秀忠様に狙いをつけた。(秀忠様を残して家康様は一旦駿府にお戻りになったのだ。)そして怪しい宴にまんまと秀忠様を呼び出したのである。
「さあ、秀忠様!これが大人の世界でございます。」
と酒を注ぎ、女を侍らせる怪しげな公卿と商人たち。
「つまらぬ。」
「つ、つまらん、とは?」
「『つまらぬ』、だ。俺は天下の駿河大納言、徳川家康公の嫡男、徳川秀忠なるぞ。酒や女に逃げるようでは天下の差配は務まらん。」
「何をこのガキが!しこたま酒を飲ませて女を抱かせりゃ気も変わるだろうぜ!ふん縛って無理やり飲ませろ。」
「ふんっ!」
秀忠を抑えようとしたどう見ても悪漢の商人の手下がふっ飛ばされる。
「峰打ちじゃ。」
「何だこのガキ!構わん!捕まえて言うことを聞かせろ!」
「オラオラオラオラオラオラオラオラァ!」
素手で秀忠は襲いかかってくる者共を殴り倒していく。
「こいつ…強いぞ!」
「囲め!囲め!こうなったら『初めての酒で不慮の死』をしてもらう他ねぇ!」
「弓と鉄砲を持ってこい!…どうした!来ねえじゃねえか。弓と鉄砲だ!」
その時、襖がバタンっと大きな音を立てて倒れ、そこに一人の侍が佇んでいた。
「表の者共ならすでに討ち取ったぞ…天、不正を為せばそれを斬る! 悪に上下の隔てはない!天下ご免!松平長七郎!」
「桃太郎侍じゃないのかよ!」
「今回は長七郎でいいのかよ!」
「やれ!やっちまえ!」
「止むを得ん、生涯勝手の長七郎、天に代わって貴様達を斬る!」
秀忠と長七郎の手であっという間に邪悪な公卿と悪漢は討ち果たされた。
「峰打ちじゃ!」
「秀忠様…峰打ちではありますが、秀忠様の膂力で首が折れ、頭を割られて皆討ち取られてございます…」
物陰でサポートしていた土屋昌恒と一緒に俺、石田三成が進み出て声をかけた。
「ならばよし!」
まるで蒼天航路の若き日の曹操様の様なお姿であった。
「そこの女性、お主は小奴らに金で買われただけであろう、どこへでも去るが良い。ただし今宵のことを話せば…分かっておるな。」
と秀忠様に声をかけられ、コクコク、と激しくうなずいて女性たちは去っていった。
「秀忠様!」
と長七郎が声をかける。
「長七郎殿!貴殿に来ていただいて私は死中を脱することができた!心から感謝いたす!」
なにこのイケメン。見てたけど多分長七郎が出てこなくても『暴れん坊上様』レベルで勝利できていたと思うわ。
「秀忠様!なにかありましたらいつでもこのお兄ちゃんを頼ってくだされ!」
…長七郎こと松平信康様、思いっきり『お兄ちゃん』って名乗ってますがな。別れたの秀忠様が5ヶ月のときだから面識はないはずだが。
「これからも『お兄様がわり』として頼りにさせていただきます!」
おお、『がわりとして』を付けて公的には長七郎さんの身分をバラさないように気を使ったよ。末恐ろしいわ、秀忠様。
それからは秀俊様の時同様、マイケル(英国ではミカエルをこう呼ぶ、やっぱマイケルだよねー。と一度言ってしまったらジョーダンがすっかりノリノリでそっちになってしまった。)の焼夷作戦で証拠は隠滅し、秀吉様に
「悪漢共は火遊びをして自滅したようでございます。」
としれっと報告。
「うむ。京の街が平和になって良いことよ。」
とまた事後承諾を頂いたのであった。
その後秀忠様はちょくちょく『お兄様』に会いに来るようになり、そこで武術の修行に来ていた豊臣秀俊様と出会った。
「豊臣秀俊です。」
「徳川秀忠です。同じ中納言同士、仲良くいたしましょう。」
「「筋肉はぁ、裏切らない!」」
なんか声が揃ってます。秀俊様もいつの間にか鍛え上げられた身体をしていて二人で上半身をはだけると刃牙かゴルゴか、という感じです。
「お手合わせを。」
「おお。」
と打ち合う二人の姿を見て疋田文五郎様が
「おお、これなら我が師、剣聖上泉信綱様とも勝負になるのではないだろうか。
善きにございます。」
と言い出す始末。『それは悪しゅうござる。』ではないのか。
そして修行(?)戦い(?)を繰り広げた若い二人には強敵の様な友情が芽生えたようなのであった。少年ジャンプかお前たち。




