小牧・長久手の戦い I
天正12年(1584年)、羽柴秀吉様は清洲の織田信雄様に
「超素敵な大坂城がお披露目できるから正月に見に来てね!」
と気さくに年賀の拝謁を要求し(=お前格下俺の手下ね。)
「なんじゃあ!思ったより領地も増えずせっかく建てた松ヶ島城まで取り上げられて清州城の改修もままならないこの織田信雄をバカにしているのかぁ!」
と信雄様はブチ切れ、天正壬午の乱の賠償1万貫を猶予した事で北条とすっかり関係を改善して実質的に同盟を結んでいた徳川家康様に泣きついた。家康様は
「いや信雄様、ここは一旦落ち着いたほうが。」
とむしろ宥められたとのことだったが、信雄様は
「聞かぬ聞かぬ。引かぬ媚びぬ省みぬ。帝王には前進しかないのだ。昔は『茶筅さまご機嫌麗しゅう』とか言ってへりくだっていた秀吉めにどちらが織田の帝王か思い知らせてやるのだ。」
と譲らず、家康様は
「やるからには勝ちに行きましょう。」
とついに戦いを決意されたのだという。小牧・長久手の戦いの始まりだ。ここは俺にとってまた重要なポイントである。早速兼山城で出撃準備をしている森長可殿の所に急ぎ向かった。
「長可様!」
「おお、石田殿ではないか、いかがなされた。」
「筆頭御家老の各務元正殿は?」
「今回は留守居のつもりだが。」
「なりませぬ!絶対に各務殿も連れて行ってください!」
「お、おう。」
「それと兵に鉄砲隊の割合が少なめなようですが…」
「最近いつも鉄砲隊ばかり活躍しているからたまには他のものにも活躍させようかと…」
「なりませぬ!!!後でいくらでも出番ありますから今回は最強最大の編成で!!!」
「ど、どうしたそんなに切羽詰まって。」
「相手は織田信雄、じゃなくて徳川家康ですよ、と、く、が、わ。最近海道一の弓取りとか言われてるあの。ちなみに今回は徳川家でも最強の本多忠勝や榊原康政が出てくるのは間違いなく、それよりも警戒しなければならないのはひこにゃんと狂戦士水野勝成です!」
「なんじゃそのひこにゃん、というのは?」
「真っ赤な猫の装束をした赤備え、井伊直政です!若いのですが自ら先頭に立って突撃してきてそれは強い。」
「それはむしろこの名槍、人間無骨で勝負してみたいところだな。」
「なりませぬ!」
「それは俺が弱い、ということか?」
「違います!井伊だけなら森様なら勝てると思います、しかし一緒にあの水野勝成が出てくる危険性が高すぎる。この二人の名前は絶―――対覚えてください。」
「水野は聞かんな?」
「水野勝成もまだ初陣から間もないですが、聞いたでしょ?甲斐で北条数万に一人で突っ込んで300討ち取って相手を壊乱に追いこんだすごいの。それが井伊と組んできたら危険すぎるのです。」
「本多や榊原より?」
「その辺は尋常じゃなく強い、絶対強い、たしかに強いですがまだ戦闘中も人格がまともなのです…ですので…」
そして俺はありゃこれや書きまくった書を渡してその内容を森長可殿によーーーく説明した。
「ううぅ。出陣する前に頭から煙がでそうだ…とにかく相わかった。三成殿のいう通りに心がける。戦というものは虚しいものだな…」
「とにかく虚しくしないでください!!」
「だから相わかった、と言っているではないか。」
そう言って森長可殿はからからと豪快に笑った。
「ところで石田殿、貴殿はどちらに?」
「私は別にやることがありまして。とにかく森様、お願いしますよ!」
と言い残して俺は一旦佐和山に戻ったのであった。
森長可は兼山から尾張に入り、羽黒山に布陣した。
「ふむ、ここで厳重に鉄砲で防御陣を組め、と三成殿は言っていたが…」
と陣を整えていると、酒井忠次、奥平信昌の率いる5000が襲いかかってきた。
「おお、確かに襲撃された!しかも確かに手強い!しかしこれなら我が人間無骨の錆としてくれるわ!」
と撃退する。すると松平家忠が鉄砲隊を率いて側面から攻撃してくる。
「うほっ。鉄砲も言われたとおり出てきたか。しかし鉄砲なら負けぬ。」
と待ち構えさせていた鉄砲隊で散々に反撃し、近づかせない。しかしそちらに対応しているすきに酒井忠次が後面に回り込もうと機動してしるのを認め、
「なにもかも三成殿のいう通りか!さすが酒井忠次、長篠の鳶巣峠攻めのように退路を断とうと言うのか。敵は増える一方だ。各務元正に伝えよ!手筈通り後面の敵を蹴散らして酒井を進路に入れるな!引くぞ。」
そして後方に配置していた各務元正率いる最精鋭鉄砲隊が退路に割り込もうとする酒井忠次に猛然と射撃を始めた。
「何だこの鉄砲の数は!あらかじめ臥せておいたというのか!」
酒井忠次は驚愕した。しかし流石に名将酒井忠次である。先鋒が若干損害を受けたものの無理には攻めず、被害を抑えて一歩後退した。
そしてそのすきを縫って森長可隊は脱出に成功したのであった。
「確かに徳川勢は攻めかかってきたな…」
「しかし備えていたお陰でお味方の被害はほとんどありませんでした。」
と無事に脱出して一息ついた各務元正が返す。
「うむ。恐るべし石田三成殿の鬼謀。『この先の話』も真摯に受け止めねばならんな。」
森長可は心から胸に誓ったのであった。




