柴田勝家

　敗走する柴田勢を追って羽柴秀吉様は進軍を開始した。

「秀吉様！」

「おお、佐吉か。お主が鍛えてくれた『騎兵隊』実に見事な戦いであったな。」

「ありがたきお言葉にございます。が、活躍できたのはひとえに虎ノ助（加藤清正）や市松（福島正則）達の努力の賜物かと。」

「うむ、奴ら『俺達にもできるぞ！』などと言って大喜びで猛訓練をしていたからな。あの機動力、あの射程、これからの戦が変わるだろうな。これからも励めよ。」

「はっ。ところでお願いしたい儀が。」

「ふふふ。今の時点でお前の『お願い』となれば敗軍の将の助命であろう。

しかし又左（前田利家）はやらんぞ。投降すれば普通に俺の家臣になってもらうつもりだ。」

「はいっ、前田様は秀吉様に従ってくれると思いますのでそちらは全く問題ないかと。」

「となれば柴田勝家か？それはちょっと悩ましいな…」

「柴田様はお誘いしようかとは思っていますがそれはやっぱり難しいかと…」

「となると。」

「「佐久間盛政。」」

　俺たち主従の声が揃った。

「佐久間玄蕃はわしも欲しいが、わしが苦手だし勝家に義理立てするだろうしな…普通に誘っても斬るしかなくなるだろうな…まぁ玄蕃ならよかろう、試してみよ。」

「はっ！」

　そして俺は部隊を急行させると、逃亡者が相次いでボロボロになっていた佐久間玄蕃様の部隊に追いついた。

「玄蕃様！」

「おお、三成殿か。ひさしゅうな。」

　玄蕃様表情が晴れ晴れとしています。ヤバい。覚悟を決めてそう。覚悟完了しないでください。

「佐久間様、私に投降していただけませんか。」

「ならん。俺は秀吉が苦手だ。しかし負けたことは確かだから秀吉の顔を立てて派手にズバッと斬られようかと思っている。その時は『切腹御免状』の三成殿に手伝ってもらえたらなによりだ。」

「いえ、佐久間盛政様には生きていただきたく。」

「だから秀吉のところには仕えん、と。」

「ですから私の所に。竹中様が織田信長公に仕えるのを避けて秀吉様に仕えたように。」

　脇で、うんうん、と頷く竹中様。岐阜城からここまで来るの早すぎ。

「竹中殿だけじゃないぞ。」

　とバック・ジョーさんも出てくる。

「ジョーさんや私のように家臣でなく居候でいいのでは？」

　と松平長七郎さん。

「…三成殿お主の所訳ありが多すぎるな…」

「えへへ。」

　と照れて俺は頭をかいた。

「うーむ。『秀吉には』仕えない、ということで良いか。」

「でも頭も下げないとそのうち処されますよ・・・」

「三成殿、それは心配しすぎだ。」

　と言って佐久間盛政様は笑った。

「秀吉に下げるのではなく、三成殿のために頭を下げる、と思えば腹も立たん。」

　こうして猛将、佐久間玄蕃盛政殿が我が家臣に加わった。

　そのまま石田隊は柴田勝家の居城、北ノ庄城に向かった。どうやら前田利家様の投降を受け入れていた羽柴秀吉様の本隊よりは先行できたようである。

「柴田勝家様！石田三成でございます！」

　北之庄城は抵抗することもなく、俺を中に入れてくれた。

「おお、三成か。ご覧の通り儂は負けてしまったぞ！ははは。」

「戦の勝敗は時の運でございますから…」

「世辞は良い。あの銃騎兵には我が軍勢では太刀打ちできぬ。」

「ところで柴田様…」

「うむ。分かっておる。お市の方の三人の娘は無事だ。連れて行くがよい。」

「そのお市の方様は…」

「『私は羽柴秀吉の軍勢に二度も負けて落城することになった。これ以上羽柴に負け続けて生きていくのは恥辱。』とおっしゃってな…先程身罷られた。」

　と言って寂しそうに肩を落とす勝家様。

「勝家様、勝家様は降っていただけますか？秀吉様には私が話をつけますゆえ。」

「いや、断る。」

「と申しますと？」

「市とは短い間だが幸せな夫婦であったのだ。市を一人で逝かせるには忍びなくてな。

せめて、貴殿に切腹をごしどういただけないだろうか？」

「勝家様の言い分、ごもっともであります。お市の方様も幸せでありましょう。」

　そして白装束に着替えた俺は、『切腹御免状』を認め、勝家様に差し上げた。

それから俺たちは入念に準備をして、後は勝家様に任せて城を退いた。

秀吉様の本隊が到着すると、柴田勝家様は天守の最上階に上がり

「我が死に様とくと見届けよ！この身体！市に捧げる！！」

　と叫ぶと十文字斬りに切腹し、さらにその外側をハート型に斬り裂いた。それを見届けると介錯の者は見事に一刀で首を落とした。その瞬間、北ノ庄城の天守の下層から順に火花が立ち上がり、背景に大きな花火が打ち上がった。天守は下層から順に爆発し、そして最上段に到達すると一層大きな爆発が起きた。

　そして最上段はまるで天空を飛ぶかのように空に打ち上がり、その頂点で大爆発を起こして粉微塵と消え去ったのであった。

「見事なものだな…」

　それを見ていた羽柴秀吉様が言った。そしてこちらを振り返ると、

「あの見事な爆発、バック・ジョー・ダンの仕業だな。」

　と言ってニヤリと笑った。そして、

「柴田勝家殿とはこうして戦うことになったが、長いこと織田信長公の家臣として苦楽をともにしてきたものであった…」

としみじみと呟かれたのであった。