賎ヶ岳 I
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清洲会議の翌天正11年(1583年)、越前の柴田勝家様が挙兵した。清洲会議が終わってそれほど時間のたってない頃から勝家様は『猿の専横がすぎる。』とか『猿ばかり領地が増えて簒奪の兆しあり。』とか怪文書をばら撒いていた上、岐阜の織田信孝様があまりにも『岐阜の周りは皆敵だ。誰も言うことを聞いてくれない。』と勝家様に泣きついたため、一度は和議を結んだのだけどついに年が明けて近江に進軍してきたのだ。
ついでにいうと岐阜の信孝様も立て籠もりを開始しており、あの『攻めるも滝川、退くも滝川』の名将、滝川一益は所領の北伊勢近辺の城を荒らし回っていた。
柴田勝家様の率いる兵は総勢3万、以前から仲良くさせていただいている前田利家様と佐久間盛政様を経由して相当な数の管打銃を装備しており、ある程度は大筒も配備されているなど、決して質的には侮れない兵力だ。それを活かして柴田様はあちらこちらの山に砦や陣城を構築し、塹壕を掘り、北近江一隊を占拠して睨みを効かせる作戦に出た。
当方羽柴方も秀吉様の弟小一郎秀長様を中心に柴田方に相対するように陣城を築き、両者は睨み合って動かないようになった。
そんな時、岐阜城に立て籠もっていた織田信孝様がついに城から打って出た、という報が入った。岐阜で取り囲まれているよりも一旦北伊勢の滝川一益様の所に逃げ延びよう、としているらしい。正直バカだなぁ、とは思った。だって北伊勢の滝川に対抗しているのってあの蒲生氏郷様だもの。滝川勢がじり貧になるのって目に見えているのだけど。
とはいえこれ以上信孝様にウロウロされるのも困るので、秀吉様は隷下の兵を率いて岐阜に向かった。
「佐吉、いつもの準備を頼む!」
と秀吉様。はいはい。中国大返しでやった完璧な街道整備ね。と思いきや。
「うむ。そのとおりだが今回はそれだけではなくてな…」
とヒソヒソしてくる。さすが秀吉様。超世の英傑だわ。
秀吉様直属の数万の兵が抜けたことをとってみて、佐久間盛政様が柴田勝家様にこう具申したそうだ。
「叔父御、今こそ好機、秀吉やその直属兵は美濃に向かったそうだぞ。この悪天候なら美濃に貼り付いて帰ってこられまい。ここで俺が押し出して突破口を作るからその瞬間に全軍を突入させて羽柴秀長の首を取るのだ。秀長が討たれれば川中島で上杉謙信に武田信繁が討たれたときのように、羽柴もこちらを攻めきることはできなくなるだろう。」
「盛政よ、挑発するために攻撃するのは良いが、その後は速やかに自陣に戻るのだ。攻撃されて激昂し、攻め寄せる寄せ手をこの構築した陣城群で包囲、殲滅するのだ。陣地から攻撃していれば相手に一方的に被害を出すことができる。」
「違う!叔父御!それでは秀吉の本隊が戻ってきたら数の差で押しつぶされるだけだ!俺が穴を開けたらそこから雪崩込んで秀吉が戻る前に羽柴勢を崩壊させるのだ!」
「勝家様、この前田利家も佐久間様が攻撃に成功した後、勝家様の本陣が前進すればそれに続きましょう。」
「ぬうぅ。ひとまず盛政に攻撃は許す。しかし無理はするなよ。」
こうして佐久間盛政殿は払曉に大岩山の羽柴側中川清秀・高山右近を攻め、中川清秀は奮戦するも戦死、高山右近は脱出した。さらに侵攻しようとしていた盛政殿だったが、向かった賤ヶ岳で立ちふさがったのは坂本から泳いで参った丹羽長秀様だった。(実際は船。どっかの中納言ではないから泳いでない。)
「ふはははは。盛政ぁ!家康様と佐吉に直してもらって今俺の腹は絶好調!織田家の金蔵管理もしないで頭痛も皆無!すなわち俺は今、生涯最高の全盛期を迎えているのだ。」
「なにを分からんことを。調子が良いのはわかったがそこをどけ!」
賎ヶ岳が丹羽長秀に押さえられたとはいえ、佐久間盛政が羽柴の陣に大穴を開けたことには間違いがなかった。
「叔父御に使いを送れ、今こそ押し出して丹羽勢を撃破し、羽柴秀長を討つべし!と。」
しかし柴田勝家は動こうとしなかった。
「なぜだ!これだけ相手の陣形を崩しているのだ!今叔父御の本隊が出撃すれば相手は崩壊するのだぞ!ここは丹羽勢を切り崩して更に場を整えるしかないか…」
しかし賎ヶ岳に素早く陣を敷いた丹羽長秀を佐久間盛政は落とすことができない。
「なぜだ!新式鉄砲の使いこなしなら俺も負けてないはず!」
「ははははは。俺は佐吉の作る新兵器を片っ端から側で眺めていたのだぞ。奴が金を使う言い訳に武器の用途や使い方をいつも長々と説明していたのをいつも聞いていたのだ!」
激しい銃撃戦が両者の間で繰り広げられるが、双方とも今一歩決め手を欠く状況であった。
それを眺めていた前田利家は呟いた。
「ここで親父様(柴田勝家)が押し出せば丹羽長秀様をもってしても後退せざるを得ないだろう…今が好機と見るが…」
「叔父御!わしだけで丹羽勢は破れない!今こそ前進して羽柴秀長を討つのだ!秀吉が戻れば『奴ら』が来てしまう!今ならまだ間に合う!」
と言った時、美濃方面の街道に一斉に火が灯った。
「盛政様!あれは羽柴筑前守秀吉の直属軍!旗印は千成瓢箪!」
「まさか、なぜこんなに早く。わしは中国大返しの時の事例から後1日はかかると計算していたのだ!」
佐久間盛政は絶叫した。




