石田三成、天正壬午に乱入する IV
海津城に集結した俺達は小諸城に向けて進軍を開始した。真田昌幸だけは沼田城の奪取のため上野へ向かったが、まぁ、真田昌幸なら確実に沼田城を落としてさらに防衛できるだろう。代わりに真田一族では上杉に使えている真田信尹と、こちらに人質として来ている信繁が参加していた。
「しかし壮観な姿ですな!武田の旧臣と上杉家の面々が轡を並べて戦う時が来るとは!」
森長可殿の家老、各務元正殿が感慨深けに言った。各務元正は森家でも最強の武勇に優れた武将だ。そう、彼の言う通り石田家にいる馬場信春、土屋昌恒等武田旧臣出身の家臣と並んで、上杉景勝様が派遣してくれた本庄繁長、甘糟景継等の錚々たる武将がいたのである。
「兼続さんも来て大丈夫だったので?」
俺はしれっと混ざっている直江兼続さんに声をかけた。さん、呼びなのは越後にいる間に仲良くなったから。
「春日山城の広間いっぱいに書き置きを残してきました!お館様はそれを読めばとりあえず大丈夫なはず!」
『とりあえず』というのがちょっと引っかかるが大丈夫という事にしておこう。
越後を往還している間についにあれが届いた。
あれですよ、あれ。我が石田家が誇る三斤砲。
なんだかんだで1万5千も兵力が揃い、北条氏直はすでに甲斐に向けて4万と号令する本隊を出発させていたので小諸城には留守居の兵しか残っていなかった。
三斤砲でとりあえず砲撃した所、北条の留守居の兵は散り散りに逃げ出し、俺達は容易に小諸城を落とした。
小諸城で一息ついていた所、徳川家康殿に仕えている武田の旧臣、依田信蕃殿が諏訪を制圧してこちらにやってきた。
「五郎盛信様…ご無事だったので…」
依田信蕃は感涙に咽び、盛信と固く抱き合った。そして我が軍勢に加わってくれることを約束してくれたのであった。
俺たちは諏訪から伊那高遠城の鎮撫を依田信蕃にお願いし、甲斐に進軍を開始した。
この時点でほぼ信濃の全域と上野の北側を制圧し、上野と信濃を結ぶ碓氷峠も手中に収め、遮断した形になった。その北側の上杉は同盟国である。(正式な締結はまだだけど。)
そのため、信濃から甲斐に侵入した北条氏直率いる本隊は甲斐府中方向に進むにしても新府城に入った徳川家康15000と睨み合っていて動けなくなり、その手前にある若神子城で家康殿の軍勢と対峙していた。
ちょうど俺たちの軍はその後ろから、(家康殿がこちらの味方ならば)挟み討つような形になった。
そんな時、甲斐の東側、都留郡に侵入した北条氏忠が鳥居元忠・水野勝成と戦闘になり、300騎以上を討ち取られて逃げ帰り、都留、ひいては甲斐の東側が徳川勢に確保された、という一報が届いた。
いわゆる黒駒合戦だな。抜け駆けしようとする鳥居元忠に怒った水野勝成が単騎突入して5倍以上の兵力の北条方が壊乱状態になって逃亡した、という戦だ。さすが水野勝成。ファンタジー世界なら狂戦士名乗れるわ。
甲斐がほぼガッチリ徳川家康殿に押さえられた事を確認した時点で、俺は若神子城に兵を進め、降伏勧告を行った。
「北条の皆さん。降伏すれば命の保証と武蔵・相模への帰還は約束しますから出てきなさーい。」
信忠様の遺品のメガホンで森長可殿が呼びかける。お、今日は真面目モードだな。
「ふざけるな、こちらはそちらの3倍近い兵力があるのだぞ!城攻めには城兵の5倍の兵力が必要、と言われるのにそっちは3分の1ではないか!降伏するのはそちらではないか!」
と北条の武将のどなたかが仰る。
「ではこれを受けてもそのように言い続けられるか考えてくださーい。攻撃の後でも先の条件で降伏は受け付けまーす。」
森長可殿がいうと同時に次々と大砲から放たれる炸裂弾と焼夷弾。うん。日本の城対策にはこれだよね。若神子城はあちこちの建物が燃え、門も廃墟になってきた。
「かくなる上は打って出る!」
また北条の偉そうな武将の方が出てきました。名前確認してないけど。とりあえず氏直殿ではなさそう。出てきた軍勢は必死にこちらに突貫してきたけど、そこに立ちふさがるは上杉・(元)武田共同騎馬軍団(下馬して槍で戦闘スタイル)お、馬集団で乗り崩し、はやっぱり北条のほうが取る戦闘法だったのね。騎馬隊カッコいい。
でも打って出てきた北条勢は上杉・(元)武田騎馬軍団に突進を止められた上、石田・森鉄砲隊から銃弾を雨あられと降り注がれ、奮戦するも脱出して城に戻れた人はほとんどいなかった。
「北条殿は配下を無駄死にさせてもよいのか?今からでも降伏すれば生命は必ず保証するぞ。石田殿が約定を違えた、という話は聞いたことがあるまい。」
今度はメガホン(新品)で直江兼続殿が呼びかける。
「石田と森の旧織田勢だけでなく上杉もいるだと…」
北条氏直は城の中で悩み始めていた。
何回か絶望的な突進が繰り返された後、城の中から高貴ななりをした大将と思われる人物が鎧も着けずに出てきた。
「北条氏直である。降伏すれば生命を保証するというのは本当か。私の配下に罪はない。私の命と引換えにお願いしたい!」
「氏直様、その必要はありません。氏直様も相模へ帰っていただきます。」
「そうか…ありがたい。石田殿は菩薩のような方だな。」
いいえ、菩薩ではありません。ひひひ。
降伏に応じた北条兵4万、まず完全に武装解除して武具を没収しました。後で売りさばいてうはうはです。抵抗する者には
「古の中国の秦の捕虜のように捕まった後穴に埋められて死ぬのと、無事相模に帰るのどちらがよいですか?」
と聞いて無理やり従わせた。いきなり埋めないだけ俺って超親切。
「先祖伝来の刀…これがなければ死ぬのも同様」
と泣きついてくる人にはきちんと名簿と目録を作って領国に帰った後に返してあげることにした。保管手数料、と言ってガッチリ頂いたけどな(笑)俺ってマジ菩薩。
そうして捕虜たちの扱いが一段落したところで俺はバック・ジョー・ダンを呼んで新たなミッションを依頼した。
「ジョー・ダンさん、これを小田原の北条氏政殿の所に届けて交渉してきてください。ジョー・ダンさんなら交渉のプロですから大丈夫ですよ。」




