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仁義なき戦い

 火災の中心が本能寺であることを確認すると、明智光秀は軍勢を率いて一気に京都市内に突入した。


「ぬうう。これは鉄条網!これを使えるとは秋田城介殿(信忠)の裏切りか!」


 光秀は早急に鉄条網や散発的に守備をしていた兵を蹴散らすと本能寺に急いだ。


 本能寺にたどり着くとすでに大火に包まれており、逃げ出せるものもいないだろう、という勢いだった。


「女房子供は逃がせ!早くしろ!」


 と指揮をする織田信忠の前に光秀はたどり着いた。


「秋田城介殿、これはいかなる事態か?上様はいらっしゃらないようだが…」

「違う!チギャウ!私ではない。私ではないのだ。」

「何が違うというのだ本能寺は燃えているではないか。」

「私はただ父上に相国任官を考え直してもらいたくて包囲しただけだ。」

「なに!本能寺を包囲しただと!やはり貴様が上様を。許さん!」

「待て、待ってくれ!」


 双方の兵が戦闘態勢に入る。


「本能寺が燃えているのはなぜなのか皆目検討がつかないのだ!

私はただこの散弾銃を打ち込んだだけだ!」


 信忠は『だからこんなに燃えたり爆発したりするはずがない。』と続けようとしたが、その瞬間、一発の銃声が鳴り響いた。


「なんじゃこりゃぁ!!」


 信忠が胸を見ると鮮血が吹き出している。明智光秀の銃弾はあやまつことなく信忠の胸を撃ち抜いていた。


「だから私は…父上を…やってない……」


 門にもたれるようにして信忠は絶命した。


 それを合図に明智光秀の軍団と信忠の軍団は戦闘になった。数にまさる上に指揮官が討たれた信忠隊は、裏手の包囲に加わっていた織田有楽斎があっさり逃げ出したことなどもあり、あっという間に掃討されることになった。


 凄惨な銃撃戦が続く間にも本能寺は燃えていたが、突然巨大な轟音が響き渡るとともに

いくつもの火柱が上がった…


 そしてその火柱はどんどん上方に伸びていったかと思うと、どーん、どーん、と京都の夜空に大輪の花が開いた。


『お だ の ぶ な が さ ま 相 国 お め で と う 』


 巨大な花火の文字が夜空を染める。


「…これは…」


 そう、石田三成の家臣バック・ジョー・ダン(その正体は松永久秀)は織田信長の相国任官を祝って花火大会を行うべく本能寺に打ち上げ花火文字を用意していたのだ。


 それとともに無数の連発花火とその上空を飾る大輪の尺玉が次々に打ち上がる。


 人々は思わず殺し合いの手を止めてしばし花火に見入った。そして最期に終わりをつげる音だけの花火がバン、バン、と響いた後、これまでよりはるかに大きな地響きと爆発音が鳴り響き、本能寺の本堂が大爆発を起こした。本当は炎に包まれながら地下の大穴に向けて崩れ落ちていった。


 そして本能寺には焼け残った部分すらなく、巨大な穴の中に焼け焦げた木材や瓦の破片が折り重なって崩れているだけであった。


 明智光秀は必死に信長の姿を探したが、遺体どころか服の焼け残りすらも見つからなかったのである。


「上様…」


 明智光秀は涙に暮れた。しかしここで立ち止まっていてはならない。

早速書状をしたためて、各所に送ったのである。


「織田信忠様が謀反を起こし、上様を討った。光秀は駆けつけたが間に合わず、逆賊信忠を成敗した。京の治安は光秀が守っているから慌てずいてほしい。」



 しかし、その書状を信じるものは誰もいなかった。


「あの謀略家の光秀が…嘘やん。」「どうせ上様父子ともに弑逆して自分が後釜に座ろうというのだろ?」


 大和の筒井順慶も織田信長が死んだ、死んだのは分かってない、信忠が殺した、いや光秀が討った、と情報が錯綜し、


「これは何が起こったのかまるでわからん。動くな!」


 と命じて軍勢を動かさなかった。


 丹後の細川藤孝・忠興親子は事前に光秀から信長への恨みつらみを聞いていたので、光秀が主犯と断じて出家して閉じこもった。


 世のほとんどのものは光秀の謀略・残虐さと最近の信長に対する不満や恨みを知っていたので、


「あの明智ならやるだろう。」


 と言っていくら信忠が襲撃したのを見た、と言っても信じてくれず、明智光秀は孤立を深めた。


「どうして誰も信じてくれないのだ…」


 明智光秀は疲れた表情で床几に座り込んだ。


 朝廷に報告しても


「よくわからんでおじゃる。事態が沈静化したらまた報告するでおじゃる。」


 とにべもなく追い払われ、当代随一の才覚、と評判の蒲生氏郷にお味方をお願いしてもすでに安土の織田家の妻子を救出して逃げ出した後だった。


 後は摂津の池田恒興や中川清秀、高山右近などの諸将と四国に行くはずの丹羽長秀率いる織田信孝隊ぐらいだった。


 どうか信じてほしい、と使者を送ったが、


「義息の津田信澄殿を斬り捨てて丹羽様たちはどこかに行ってしまったそうです。」


 と無駄足となっていた。明智光秀は途方に暮れて、京の治安を維持しつつどこか自分のことを信じてくれる軍勢はないか、と駆け回る日々だった。信長を殺していない、といっても誰にも理解してもらえず、いくら治安維持に努めてもあちこちで夜討ち朝駆け焼き討ち山賊が跋扈する状況で、山賊がその辺を歩いていた武将を闇討ちしては


「明智様!手柄を上げてきましたぜ!!」


 などと言って乗り込んでくる始末だった。畿内は大混乱の無法地帯と化した。


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[気になる点] 「秋田城介殿」つい反射的に三成の最初のしくじり!って頭に浮かんでしまうこと
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