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本能寺が変

 織田信忠は激怒した。必ず、かの邪智暴虐の父信長を除かなければならぬと決意した。信忠には政治が結構分かる。信忠は、織田弾正忠家当主の100万石の大名である。能を舞い、武田を滅ぼして来た。けれども邪悪に対しては、人一倍に敏感であった。きょう深夜信忠は妙覚寺を出発し、京の道をくねくね曲がって、一里はなれた此の本能寺にやって来た。


 織田信忠は完全武装の兵五千を率いて本能寺を完全に包囲した。


「利治!配備は万全か。」

「利治様は信長様に命じられて堀秀政とともに備中高松城へ軍監として向かっております。」


 配下で斎藤道三の末子、斎藤利治は上杉軍を撃破して越中を制圧するほどの戦上手であり、森長可と並んで信忠の寄騎としてもっとも軍略の面で頼りにしていたが、この日はなぜか父に命じられて不在だったのだ。


「そうであったな。包囲は万全か。」

「は!鼠一匹逃げ出す隙間もありません!街道も鉄条網で封鎖しました!」

「ならばよし!早速取り掛かるとするか。」


 信忠は本能寺の正門の前に出るとサングラスをかけ、肩に散弾銃を引っ掛け、メガホンを取り出した。


「おださきのうふのぶながーーー。お前は完全にほーいされているー。話したいことがあるからじんじょーに出てきなさーーい。」


 信忠は続ける。


「相―国にぃなろうとするのはいけませーーん。しょーこくだけは絶対に駄目でーーす。

祗園精舎の鐘の声ぇ、諸行無常の響きありぃ。娑羅双樹の花の色ぉ、盛者必衰のことわりをあらわすぅ。おごれる人も久しからずぅ、ただ春の夜の夢のごとしぃ。たけき者も遂にはほろびぬ、偏に風の前の塵に同じぃぃぃい!父上も知っておろう!平家物語、

へ い け!

うちも平氏!本当だか仮冒だがしらないが平氏なの!

父上が相国なんてなったらどうせどっかから源氏が生えてきて、無能な弟総大将に大軍派遣したら水鳥の音に驚いて退却したり、山から火牛降ってきて全滅したりして、最終的に私は壇ノ浦の海に沈む運命か源氏に斬首される運命が必定になっちゃうの!

一番源氏っぽい武田勝頼は滅ぼしておいたから安心だけど…あ、徳川家康って思いっきり自称源氏やん、やばいやん。ぶっ殺しておかないと源氏の御曹司名乗って攻めてきそうやん。この後襲撃しなければ…あ、相模の北条とか信濃の真田とかも火牛使うやん。やっぱヤバいやん。相国名乗ったら当方滅亡や!!」


「というわけで父上!信忠は父が相国受けることに全身全霊全力ではんたーーい!

相国はんたーい!それっ!」


「「「「「相国はんたーい!」」」」


 兵もメガホンを取り出して唱和する。


「相国はんたーい!」「「「「「相国はんたーい!」」」」」


「受けるなら征夷大将軍にしなさーい!幕府なら十五代ぐらい持ちそうだから!

父上、那古野城を改修して那古野幕府を作りましょう!でかい白い城建てて金のシャチホコを誇りにするのです!我ながらいい案。うん。うん。」


 しかし本能寺からは反応はまったくなかった。


「父上、かくなる上は反省して出頭し、全てを私に任せて出家されよ!さすれば全ては丸く収まるというもの!父上ーーー。」


 と呼びかけるも本能寺の内側からは全く反応がない。


「父上―!素直に出てこないなら出家先を高野山とか本願寺とか父上と仲が悪いところにしますよーー!」


 それでも本能寺は沈黙している。


「ちぃちぃうぇえええ!話し聞かないのなら出家先を比叡山をバッチリ再建して父上を天台座主にしますよ!第六天魔王が天台座主!面白すぎる!絶対針のむしろだけど!!あははは!」


「「「「第六天マオーが天台座主ー!第六天マオーが天台座主―!」」」」


 兵がさらに唱和する。


 しかし本能寺からは全く反応がない。ここに来て信忠はサングラスをクィっと上げ、本能寺の正門を睨みつけて言い放つ。


「父上!反応がないということは徹底的に抵抗するということか。そんなに相国になりたいのか!」


「「「「そんなにショー国になりたいのかぁーーー!」」」」


 兵が唱和する。


「父上のわがままに安土の母上(帰蝶)も泣いているぞーー!」


「「「「ははうえもないているぞぉぉぉ!!」」」」


 …しかし本能寺は沈黙したままである。


「父上!かくなる上は門を突破し、引きずってでも話を聞いていただくっ!

総員!戦闘配備!」


 そして信忠は散弾銃を構え、本能寺の正門の閂を撃ち抜く!


「者共、かかれ!」


 号令の下一斉に兵が本能寺の正門に取り付き、破壊する。ついに正門が破られた。

そして信忠を先頭に本能寺の境内に兵が乱入しようとしたその時、



本能寺が爆発した。

境内のあちこちから火の手が上がる。炎が上がるのみではなく、あちこちがから大きな爆発音とともに火柱が立つ。


「信忠様!危のうございます!お下がりください。」


 家老が慌てて信忠に抱きついて境内から下がる。


「なにが、何が起こっているというのだ…」


 信忠は呆然としていた。


「火を!火を消せ!」


 宿老の村井貞勝が慌てて、しかし的確な指示を行い、消火活動を始めようとした。

しかし本能寺の炎はますます燃え上がる一方だったのである。

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新もっとゆっくりでええぞ 書き溜めるとこころ落ち着くやろ
[気になる点] 抜け道が未完成なためスコップで掘り進む信長様が頭に浮かんでしまった [一言] 物置に入るたびスコップを目で追ってしまう私がいる・・・・
[良い点] 信雄はブレイクダンス踊れるぐらいの風流人だから 無能ってのは風評被害だよ(震え声 きっと、織田の未来は明るい
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