それぞれの事情
私は織田信忠。織田信長の嫡男だ。父にはすでに家督と岐阜城を譲っていただき、武田征伐も私の軍団だけで概ね完遂できた。
今日は父上が朝廷との交渉のために京にいらしているので私も来ていた。本能寺に公家の皆さまを呼びつけて色々話あっている。自分の宿所に公家の皆さまを呼びつけるとは我が父の威光、すでに天下に並びなきものになっているのだろう。
交渉が終わったというので私は父上の所に参り、結果を聞いた。
「太政大臣、関白、征夷大将軍のいずれになさるおつもりで。」
「うむ、信忠。分かっていたか。その三職のいずれかに推任され、帝の元でこの日の本を治めてもらいたいと。しかしな?」
「お断りされたので?」
「将軍はまだ足利義昭が正式には退いておらん。受けても堺公方のようになって宙に浮くだろう。論外だな。」
「では関白で?」
「藤原北家以外のものが関白になってもお飾りにしか見えないだろうよ。」
「…となれば太政大臣。」
「そうだ。ただ、太政大臣と古臭く呼ばれるのでは性に合わん。相国と呼ばせるようにお願いした。」
相国…父上相国はまずいです。
「父上、相国といえば平清盛が有名かと。」
「おうよ、さすが信忠。わしは平清盛のように福原の港から宋ならぬ明と貿易をするつもりなのよ。福原を信孝に拡張させて神戸港と名付けようかとな。有馬の温泉も近くていいぞ、神戸。」
「しかし平相国ではその後がよろしくないかと。」
というと父上は笑って
「わしを滅ぼす源氏の御曹司もおるまい!お主は心配しすぎだ。最近佐吉の影響で散弾銃を振り回してお前もたくましくなったと思ったがな!」
と取り合ってくれない。
まずい。相国はまずい。平清盛本人は病死しているが、その後一族郎党滅亡ではないか。そのままでは私はよくて小松内大臣重盛のように過労で病死、父上は年中謀反されているからおそらくは反乱が起きて壇ノ浦の海に沈む運命だ。
大体相国、という名前自体元々あの董卓が名乗っていた名前ではないか。父上は帝をぶち殺しになられて裸の女を並べて椅子を作り、酒池肉林でもする気だろうか。父上そんなに太ってないから殺されてても死体でロウソクはできないと思うが。
平清盛にしても董卓にしても相国にろくな者はいないのでわたしは父上に考え直してもらうことにした。しかし普通に話に行っても深刻には考えてもらえないだろうから、手立てを考えるのだ…考えろ、信忠。
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私の名前は丹羽長秀。
『米五郎左』と呼ばれる織田信長様の重臣だ。安土城も責任者だったし織田家の事業は自分が回している、という自負がある。
最近秀吉殿の部下に石田三成というものがいる。切腹をさせたら天下一品という評判になり、あれよ、あれよ、という間に佐和山城主になってしまった。
佐和山城は本当は私が若狭の次に拝領する予定だったのだが、佐吉が鉄砲などの研究をする、ということで信長様のお膝元に近い所に所領を与えられたのだ。
佐吉は『科学要塞研究所』などと名付けてしまい、天守を築くことを禁じられたのを逆手に取って妙な形の展望台がついた建物を作ってしまった。結構大きいのに『天守ではない』などと言い張っている。
それよりも佐吉は次々とビックリドッキリからくりならぬ様々な武器を考案し、国友衆と結託して作り出していった。管打銃、三斤砲、散弾銃、などなど資材も目が回るぐらい高額で、いくら岐阜城や安土城の金蔵に必死に銀を積み上げてもそのすぐそばから消えていくのだ。
ついには毛利水軍を叩くため、と称して巨大な戦艦まで建造する羽目になった。
どうやって資金を回復させようか悩んでいたら、胃は痛いは時々血も吐くわ、なんか夜中にこみ上げてくるわで寝られず、鏡を見たら顔が真っ青になっていた。私、ヤバい。
信長様にどうにかしてほしい、と訴えたら
「ちょっと気分転換をしてくるがよい。」
などと言われて信孝様の四国攻めの副将として参加することになった。大坂で準備をする前に秀吉殿にも挨拶を、と思って秀吉様が今居城として使っている姫路に行った。
…なんじゃこりゃぁ!!
姫路城の天守、安土城よりも二回りぐらい大きいではないか。しかも白!漆喰塗りたくりって漆喰っていくらかかると思うのよ?何?耐火目的?知らんわ!
どうせまた佐吉の仕業で織田家の貴重な資金が!と思うといても立ってもいられなくなった。
「信孝様!」
「おう、長秀殿か。どうなさった。」
「四国に行く前に行く所があります!」
「いずこへ?」
「京、です!京!もうこれ以上佐吉に好き勝手させていては金が足りなくなって『当方滅亡!』です。
四国に行って会う機会が減る前に信長様に一言言わないと気が済みませぬ。」
「お、おう。」
こうして私は信孝様を引き連れて信長様に強訴するために出陣の準備を始めたのだ。
天下布武がなったら金食い虫の佐吉はインドのゴアにでも留学させて飛ばしちゃる。
今宵はここまでにしとうございます。




