織田前右大臣信長
わしは織田信長、先の右大臣だ。最近禿鼠(秀吉)の部下の石田佐吉三成というものが色々面白い銃を作ったり無理やり敵将を味方にしてきたりする。本当は敵将は処断したほうがスッキリしてよいのだが、三成の所に行くとどんな悪逆な男でもわしに逆らうつもりはなくなるようで織田家のために働いてくれるからまぁ見逃すことにした。武田盛信まで連れてきたときには内心のけぞりそうになったが。
先日佐吉に言われて安土城の天守に反射鏡を設置した。夜は灯台となって琵琶湖を行く船々に大変感謝されるようになった。徳川家康殿を安土に迎えてもてなしたのだが、
「夜になると城が光るので。ほぇぇ。」
と言って目を回していた。元の案は三成なことは黙っておこう。
さて、家康殿をもてなしていた時、秀吉から書状が届いた。備中高松城を水攻めにし、水没させたのだが援軍の毛利3万とにらみ合いになって埒が明かぬ、かくなる上は上様にご出陣を願いたい、と。
茶番だな。
秀吉とその麾下の軍団を考えたら同数程度の毛利など力攻めにしても鎧袖一触だろう。
いまだに弓隊が中心の毛利に対して秀吉の軍団は数千の銃と数百の大筒を装備しているのだ。
しかしここでわしが直接乗り出して破ることで、毛利を降伏させる式典としたいのであろう。わしは秀吉の要請に応じることにした。なんか佐吉も
「中国への道中は街道や宿場などなど整備して上様が快適に素早くいらっしゃれるようになっています。」
とか言っていたし。
わしは饗応役の明智光秀を呼び出した。そこでわしは佐吉に言われたことを思い出した。
なんか光秀には優しくしないと『ストレス』とか言うもので爆発しそう、と。
なのでわしは光秀にわしなりに完璧に気を使って『お願い』してみることにしたのだ。
「明智光秀、徳川家康の饗応役から外す。羽柴秀吉を救援するため丹波福知山城に戻り、出陣の準備をせよ。後任は堀秀政にする。(家康に気を使って準備するのは大変だと思うので一旦自城に戻ってゆっくり休んでくれ。)」
「上様、饗応役に問題があったので?(畿内の側近から外されて秀吉の下風に立てと?)」
「今回は秀吉の下で働くがよい。(司令などで頭使わずゆっくりしてね。)」
「それとな、光秀、斎藤利三のことだが一旦わしに預けてくれないか?(稲葉一鉄と揉めているが一息置いてから一徹を説得するからな)」
「利三は明智家のかけがえのない重臣であります!利三を召し上げて処断なさる積りか?」
「(おぅ?なに怒っているのだ。いかん、ここでわしが気を使っていることをよく伝えないと。)いや?そんな事はないぞ。一度場を改めて、と思ってな。それより光秀。」
続けて光秀を以下に気遣っているか表現するのだ。こういうのを『アピール』とか佐吉が言っていたぞ。
「四国の件だが、光秀は一旦担当を外れてくれないか。丹羽長秀と信孝に任そうかと思う(どうにも長宗我部は面従腹背で信用ならぬ。裏切られた時に光秀が巻き込まれないように離しておこう。)」
「四国の取次は私だったはず。それを…なぜ…(苦労して長宗我部との話をまとめてきたのに羽柴秀吉が与する十河の方に加担するのか!)」
なんか光秀は小刻みに震えている。うむ。多分わしの気遣いぶりに感激してくれているのだろう。よし、ここでわし、織田弾正忠信長の必殺の『アピール』が炸裂するぞ。
「丹波と坂本は一旦わしに返してくれないか?その上で出雲・石見を与えよう。(丹波も坂本も地侍や土豪、延暦寺の残党が多く統治に苦労していると聞く。石見一国を与え石見銀山を政治に優れた光秀に経営させれば光秀も労せず大金を得て栄えることができよう。これで明智一族は末代まで万々歳だ。)」
「……相わかりました。福知山に帰って準備をいたします。」
「おう。八上城では上手くやったな!」
わしはここで光秀の最大の武功を持ち上げる!いかに光秀の知謀を頼っているのか三成の言う『サービス』だ!
光秀はよほど家康殿の饗応に疲れていたようで、なんだか背中が小さい気もするけど、きっとわしの真心は光秀に分かってもらえたと思う。中国を平定したら石見銀山奉行として銀を大広間にうず高く積み上げて『愉悦』とかいつものセリフを言ってもらおう。うん。




