明智光秀
さる天正5年(1577年)と言っても秀吉様だから猿なわけではない、羽柴秀吉様は織田信長様から中国(といっても中華人民共和国ではない)平定の大将を仰せつかった。
秀吉様は播磨に入ると、まずは黒田官兵衛父子を手なづけ(本当はこの時期は小寺勘兵衛だがめんどくさいので黒田で統一する。)姫路城をゲットすると天性の人たらしスキルを十二分に発揮してまたたく間に播磨の豪族をほぼ従えた。
あまりの順調さに『そろそろ播磨は平定できますぜ。グヘヘ。』と調子に乗った手紙を信長様に送ったぐらいだ(実話)
しかしチコちゃん、じゃなかった俺は知っています。播磨は現代でも某九つの州の北の方と並ぶ『修羅の国』と言われる場所(主になんか女性の僧侶っぽい名前の所)がある事を。
ちなみにその場所が現代でそう言われるのは元々暗殺拳とかが相伝される大地だったわけじゃなくて工業化とか太平洋戦争の敗戦に伴う、とか諸事情で戦国時代の住人には関係ないのです。
では中・近世の播磨は穏やかな大地だったのでしょうか?いえ、断じてそんな事はありません。あの名作コミック『バンデッド(打ち切り残念)』で描かれたとおり、北条ぶっ殺す!と六波羅探題を滅ぼし、その後も官軍に敗れて一旦九州に逃れた足利尊氏を追討しに迫る新田義貞の大軍を白旗城でゲリラ戦で迎え撃ち、尊氏が再起して九州から大軍を引き連れて戻ってくるまで防ぎきったあの稀代の大悪党、赤松円心則村が活躍した土地なのです。舐められたらぶっ殺すのです。
丁寧語終了。
なので秀吉様に俺はこう具申した。
「別所長治は良将ですが、ヒジョーーーーーーにメンツと見栄に対する意識が高く、軍議の場などでうかつに退けたりすると絶対逆恨みをして反逆します。どうかご注意を。」
「あいわかった。別所長治にはとにかく腰を低くして接するわ。」
うんうん。これで三木城攻めはなくなって竹中半兵衛様も長生きだ。
…と安心していたら
「別所長治謀反!三木城に立てこもりました!」
どうしてこうなった。
「秀吉様があまりにも下に置かぬ扱いで、増長して見下したようです!」
普通に指示出しても駄目、持ち上げても駄目、お前はジェリドを殴るカミーユか。
こうして三木城攻めが始まってしまった。
本来だと『三木の干し殺し』と言われた包囲戦で、毛利からちょこちょこ補給を受けられていたから長引いた戦いだ。しかし、羽柴様には我々、土鬼隊と12ポンド大砲隊があるのだ!
さっそく鉄条網と塹壕で三木城を取り囲み、犬一匹すら通れないように囲む。
さて、大砲を打ち込んで大手門でも粉砕するか、と用意していたその時
「荒木村重が謀反しました!」
…荒木よ、お前が謀反をすることは知っていたが、お前あの信貴山城の行く末を見ていなかったのか。いくら立てこもっても無駄だぞ。三木城さっさと陥としたらそっちに行くぜ。
と考えていたその時。
「黒田官兵衛様が荒木村重の説得に向かってから行方不明です!」
…かんぴょうえ様、そこは焦って史実通り説得に行かなくても。
ああ、このままでは黒田官兵衛様が牢に閉じ込められて後遺症で歩けなくなってしまう!
「竹中様、お願いが。」
「佐吉君、いかがした。」
「おそらく信長公は黒田様が行方知れずになったのを共謀した、と判断して嫡男の松寿丸殿を殺害するように命じてくるはず。」
「なんと。」
「ですから命令が来る前に竹中様は松寿丸を匿っていただきたい。」
「ひと目に触れてはいけないものを匿うのは佐吉君の特技では?どっかのダンさんとか。」
「私には別にやらなければいけないことがありまして。」
「あいわかった。松寿丸様は私が密かに匿っておく。」
「よろしくお願いします!」
と後顧の憂いを断って俺は荒木村重が籠もる有岡城に土鬼隊を率いて出撃した。
「君たちは完全にほーいされているー。今なら父上のおんじょーもまだ期待できるので出てきなさーい。」
有岡城包囲中の織田軍大将の御曹司、信忠様がお気に入りのメガホンで降伏勧告をしている。
「信忠様、石田三成、只今まいりました。」
「うむ。現在開城交渉中なのだが村重が雲隠れしているようで話が進まないのだ…」
「黒田官兵衛様が捕縛されております。救助の許可をいただきたく。」
「なに、勘兵衛は共謀ではなく捕縛されているのか。それは確かか。」
「確かにございます。」
「ならば許す、明智光秀と委細は詰められよ。誰か明智光秀を呼べ!」
ついに登場。明智光秀。壮年の陰影が深い光り輝く額を持つ武将だ。さすが金柑頭。
「…では三成様が大手門を大砲で破ると同時に我々も突入、三成様は黒田殿の捜索に専念するので我々が城内を掃討・制圧を目指す、ということでよろしいか?」
明智様が手筈を確認する。
「城内の抵抗が強ければある程度攻め込んだ時点で一旦引くのもありかと。婦女子は逃して良いと思いますし。」
「ふむ、別に倒してしまってもかまわないのだろ?」
「私は黒田殿に専念しますのでおまかせします。」
「まあ見ていられよ。貴殿は銃火器を用いた戦法でこの所名を挙げられているが、この明智光秀、貴殿より古くから銃の名手としても知られているのだよ。」
と言ってちょっと暗く笑う。なにかを思い出しそうでちょっと不安。
なんだったっけ?麒麟が来たりする人だし『秀吉』『キングオブジパング』とか『信長の忍び』『へうげもの』とかどの作品でも明智光秀殿は本能寺の変は起こすけど普段は誠実で真面目な感じだったから気のせいだと思うのだけど。
俺は持ち込んだ大砲を大手門の前に並べて斉射した。大手門はあっという間に損壊し、虎口なども構造物は吹き飛ばされて土塁や石垣も崩れだした。
「今だ、かかれ!」
うちの部隊と一緒に明智光秀の率いる軍勢が突入する。
うちは捜索が主体だからごく少数で風のように突入する。早速城兵を捕まえて牢の場所を聞き出し、黒田官兵衛様の所にまっすぐ向かった。
「官兵衛様…」
助け出された黒田官兵衛様は自分の足でしっかり立って歩いていた。
「狭い牢で体を折り曲げられ、不具になりそうであったが助かった。
心から礼を申す。あ!」
と言って黒田様は慌てだす。
「信長公のことだ私が裏切ったと思い息子の松寿丸は…」
「竹中半兵衛様が無事に保護しております。」
「おお、おお、貴殿と半兵衛様にはなんと礼を申してよいのか。ありがとう、ありがとう。」
と再会の喜びを分かち合っていると、後ろで大きな火柱が上がった。
本丸の建物が業火に包まれている。
「明智様。」
俺は黒田殿を連れて二の丸から燃え上がる本丸を眺めつつ指揮をする明智光秀様に声をかけた。
「明智様、どうなっております?」
「油をまいて炸裂弾を弾薬庫に打ち込んだのだ。炸裂弾は三成殿の十八番であったな。実によく燃えるな!
燃ーえろよ燃えろーよ、炎よ燃えーろー。火ーの粉を巻きあーげ、天まで焦ーがーせー。」
なんか歌いだしちゃっている。なんか恐い。すると
「あ、あそこに逃げ出したものがいるぞ!」
見る間に明智光秀は銃を取り出し、結構な距離なのに見事にヘッドショットを決める。
「ふむ。よし。」
「明智様。」
「お、佐吉か。うん。敵は倒しておいたぞ。犬一匹とて逃さん。」
みるみるうちに業火は全てを焼き尽くし、こうして有岡城の本丸の全ては、建物も武将も婦女子も動物も、みんな灰になってしまったのだった。
荒木村重はまんまと逃げ延びたらしいが。
目の前の地獄絵図を見ながら俺は思い出した。
そうだ、明智光秀については宣教師、フロイスがこう書き残していたのだ。
『彼は裏切りや密会を好み、刑を科するに残酷で、独裁的でもあったが、己を偽装するのに抜け目がなく、戦争においては謀略を得意とし、忍耐力に富み、計略と策謀の達人であった。また築城のことに造詣が深く、優れた建築手腕の持ち主で、選り抜かれた熟練の士を使いこなしていた。』
比叡山延暦寺の焼き討ちも一番熱心であったのは明智光秀であり、他の隊が逃げてくるものを見逃すことがあっても光秀の隊はすべて殺し尽くし、焼き尽くした、と。
茫然と立ち尽くす俺の前で明智光秀はつぶやいた。
「愉悦。」
今日はこの一話のみです。すみません。




