三成に過ぎたるもの
信貴山城が落城した翌日、筒井順慶殿が俺、石田三成の所を訪ねてきてくれた。
「石田殿!今回は本当にお見事だった。お陰で我が念願だった大和一国の支配がついに叶う。本当にありがとう!」
と言って手を激しく握ってくる。
「いえ、全ては我が主君、織田信長様と羽柴秀吉様の差配によるものです。ところで…」
俺は言い出した。今回筒井順慶殿と会えたら頼んでみようと思っていたことがあるのだ。
「『筒井家の両翼』と称される島左近清興殿はご息災でしょうか?」
「島左近?ああ、とても優秀な部下でよくしてくれていますが、我が筒井家の両翼、といえば松蔵権助秀政と松田善七郎盛勝ですよ?」
「その島左近殿を私に譲ってはいただけないでしょうか?」
そう、佐和山の城を早々に手に入れたので『三成に過ぎたるもの』のもう一方、島左近も招いちゃおうかな?と思ったのだ。
「左近は確かにちょっと真面目すぎて当たりがキツイ所もありますが…だからといって家臣をはい、はい、と差し出すわけには。」
当然渋る筒井様。
「左近様を譲っていただけた暁にはこの『管打銃』五十丁をお譲りいたす。今ならさらにこの『三斤野砲』も付けましょう!」
我ながらどこのテレビショッピングだよ。
「おお、あの一国に匹敵するとも言われる悪天候知らずの『管打銃』を!おい、左近を呼べ!」
そして連れてこられた島左近殿を俺は全力で説得した。
一説によると所領三万石の内二万石を与えた、とも言われた。実際には左近が固辞したので二万石分ぐらいは自由にしてもよい、という条件で来てもらったのだが。
こうして俺は『三成に過ぎたるもの』の『佐和山の城と島左近』の両方を手に入れることに成功したのであった。
ちなみに『過ぎたるもの』の筈の佐和山城は金をかけるのを信長様に禁止されているからいまだに板壁にボロい二層櫓が建っているだけのフツーの城だけどな。そのうち七層天守でも建ててやるわい。
「なんだかよくわからないがどうかこれからよろしくお願いいたす。」
まだ状況が飲み込めていなさそうな島左近さんが挨拶をしてくれた。
「家の詳しいことは先輩家老になる渡辺勘兵衛さんに聞いてください。後軍事向きのことは隠居の馬場様に。」
「鬼美濃馬場信房様がお仕えしているとは本当のことだったのか!」
左近さん、鳩が豆鉄砲を食ったようになってます。
「色々人の出入りはあると思うけど左近さんの才覚に期待しています。どうかよろしくお願いします。」
「いちばん重要なのは、うちの殿がなにか訳のわからない言葉を言いだしたら真剣に意味を考えるなどせずに気楽に聞き流すことですな!」
「勘兵衛さん、そりゃないですよ。」
と言って皆で大笑いした。
さて信貴山攻めも一通り片付いたので、俺は信長様に挨拶をして佐和山に帰ることにした。
「三成、こたびはよくやった!」
信長様が上機嫌で声をかけてくる。
「大砲の攻撃は長篠の『戦列歩兵』の様なザマにならず、実に上手く行ったな。」
と両手を組んでうなずく。
「これもひとえに上様が私のわがままを許してくれたお陰にございます。また島左近の我が家への転籍も認めていただき、本当にありがとうございます。」
俺は心から平伏して応えた。
「うむ。毛利水軍への策も期待しているぞ。励めよ。」
「ははっ、『戦列艦』の建造も順調に進んでおります。」
「うむ、完成の暁には毛利など敵ではないであろう。」
「では、これにて。」
俺が信長様に一礼して立ち去ろうとしたその時
「おい、三成、ちょっと待て。」
信長様から声をかけられた。
「その島左近の後ろにくっついて歩いている仮面の男は一体誰だ?」
「この男はバック・ジョー・ダンという広南国出身のものです。当家には夫婦和合の指南役として来ていただいています。ちょうど堺で用事を言いつけていたのでここで落ち合ったのです。私新婚で子宝に恵まれたいもので…」
ちょっと赤面しながら答える。
「三成は新婚であったな。うむうむ。
して、どうしてそのものはその様な面妖な面をかぶっているのだ?」
信長様が追求する。
「この者、生まれつき目が悪くて色の入った眼鏡なるものが手放せないのです。なんでもこれを着けていないと全て赤く見えてしまい通常の三倍も転ぶとか。夫婦和合の様々な奥義を江南にて授かってきましたが、その代償としてこの面を外すと呪われて命を失うとか。」
「あたし、ミツナリさまに赤ちゃんさずけたい!広南のおっきいアンコール寺でカンノン様からイオスの秘法、習ってきた!あたし、秘宝フラットスパイダーをなくしちゃって、もうミツナリさまのところしかいくとこないよ!ウエ様、どーかミツナリさまといっしょにいさせて!」
「…なんか聞いたことのある声の気もするが…呪われるなら仕方がないな。
うむ、三成、そのダンだかジョーだかによく教わって子作りに励めよ。」
信長様、子作りは直接的すぎないでしょうか。
「そのバックだかジョーだかというもの、今後わしの前に姿を出さなければ三成の所に仕えるのを許す。あまり何度も会うと余計なことを思い出しそうでな。秀吉もそういう事で納得してくれ。」
と信長様はニヤリと笑った。秀吉様はコクコク頷いた。
こうして俺は信貴山城の戦いを経て、頼りになる家臣、島左近と、ちょっと表に出せない夜の指南役、バック・ジョー・ダンを石田家に迎えたのであった。
今宵はここまでにしとうございまする。




