第1回信貴山花火大会
「こちら信貴山城前の石田三成がお送りしております。信貴山城には松永久秀翁が5年ぶり2回目の反逆をして立てこもっており、現在織田軍団が包囲しながら説得を続けております。」
「殿、何をしているんで?」
また渡辺勘兵衛さんに呆れられてしまった。
「一度ニュースのレポーターというものをしてみたかったのだ。」
「また変な南蛮語をどこで覚えてきたのやら。」
「ぐははは。儂はなんか慣れたぞ!思えば信玄公も突然我らが思いもよらぬことを色々思いついて振り回されたものだったわ!」
と馬場信春様が引き取ってくれた。
という訳で現在、『上杉謙信の侵攻に呼応してうっかり反逆してしまった』松永久秀の居城、信貴山城を包囲中です。『うっかり』というのは、上杉謙信は能登を平定して加賀で柴田勝家様とひと当たりしたらなんか満足したのか越後にお帰りになってしまったからです。松永氏は孤立無援で取り残されてしまっています。
「お前たちは完全に包囲されているー。城兵のみなさ~ん。村で待っているおとーさん、おかーさんは泣いているぞー。」
こんな事もあろうかと、兵器を開発しているついでにメガホンを作ったのだ。攻城隊の大将である織田信忠様が城兵に投降を呼びかけている。チラッと振り返って
「三成、この『めがほん』とやらはなかなか便利だな。」
とニヤリとした。気に入ってもらえたようだ。
「松永弾正~。平蜘蛛さえ差し出せば生命は保証するぞ~。出てきなさーい。」
と信忠様が続けると、城門近くの櫓に松永翁らしき人が出てきて
「嫌よ、信じないわ!そんな事言って平蜘蛛を取り上げた後私にひどいことをするつもりでしょ!」
松永翁、どうした。いい歳をしたムキムキのじっちゃんがオネエ言葉で話すと強者感半端なくて怖いんですけど。
「そんなことはなーい。父上の心は空より広く、海よりも深―い。無駄な抵抗はやめて出てきなさーい。」
信忠様が説得を続けた。
「嘘よ、信じないわ!ここから出ていって!」
と言って銃を乱射してきた。
「信忠よ、降伏はもう無理でないか?」
戦いは信忠様に任せたものの、こっそりついてきた信長様が言う。
「松永様を降伏させるか捕縛したら私の寄騎にしてしていただくというのはありで?」
と俺が聞くと
「また三成のぶんどり次第か…父上いかに?」
「うむ。佐吉、松永弾正は大名扱いだ。わかるな。」
と信長様に即答された。捕まえても助命して家臣にするのは今回はなしってことねー。
「かくなる上は力攻めだな。…秀吉!先の手取川の失態、取り戻してみせよ。」
と信長様が命じる。すると、
「佐吉!儂の汚名返上のために頑張ってみせよ。お前の手柄は儂の手柄。」
秀吉様丸投げー。まあ狂犬と化した松永弾正相手に無理攻めして被害出したくないものね。
「は。策がありますので皆々様夜までお待ちいただけますよう。」
「夜襲か。たぎるな。」
「夜襲といえば夜襲なのですが、どうかその時までお待ち下さい。」
俺は自陣に帰って準備を始めた。
夜、そこには12門の十二ポンド砲が並んでいた。
「戦列艦用に試製していた大大砲隊でございます!」
「ああ、また金蔵が…」
丹羽長秀様の胃はもう限界なようです。胃薬の開発はしていないので申し訳ない。
「なぜ夜なのだ?」
信忠様が不思議そうに聞いた。
「まあ見ていてくだされ。大砲隊!斉射開始!目標、信貴山城本丸!」
ものすごい轟音と共に砲弾が信貴山城に向かって飛んでいく。
「夜なので何も見えんな…あ、光った!」
秀吉様が思わず立ち上がると同時に、信貴山城に大きな大輪の花が咲いた。
花火である。
砲弾用の信管がついに完成したのだが、炸裂弾が確実に動作しているかどうか見るために、
中に銅などの小球を詰めて爆発を確認できるようにしておいたのだ。威力落ちちゃうけどそこは趣味。一応油脂とか黄燐とか燃えやすい素材も入れて焼夷弾にもなるようにしてある。
どーん。どーん。
次々と信貴山城に花火の大輪が開き、それとともに浮かび上がる城の姿は徐々に崩れ、燃え上がっていった。
「きれいですな…」
「うむ、実に華麗であるな…」
秀吉様と信長様はちょっとうっとりと眺めている。
「戦いを遊びにしてしまうとは…やはりこの信忠、納得はいかん…」
信忠様の趣味には合わないようだ。
そうする間にも次々と炸裂弾は打ち込まれ、照らし出される信貴山城がほぼ残骸のようになっていたその時、
ズガガガガガーーーーン!!
と一際巨大な地を揺るがすような爆発音と共に、天守が爆発した。天守は空中に向かってバラバラに弾け飛び、まるで一瞬空に浮かび上がったようであった。
「おお、天空の城…」
「どうやら松永弾正は天守に弾薬を溜め込んでいたようですな。そこに砲弾が直撃したかと。」
「平蜘蛛は諦めなければならんな…」
ちょっと信長様は寂しそうに言った。
こうして信貴山城は集中砲火によって残骸になり、落城した。
松永弾正の遺体は天守の爆発に巻き込まれたのか、いくら探しても見つからなかった。




