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魔弾の射手

 佐和山で技術開発に勤しむ日々を送っていた俺の所に、柴田勝家様と佐久間盛政様がやってきた。


 「おお!佐吉!元気か。」


 相変わらず佐久間様は気さくに声をかけてくれる。


 「佐吉に譲ってもらった管打銃、越前平定で実に役立ったぞ。」


 柴田様が感心したようにいう。


 「一揆勢は銃撃の音と煙だけでも逃げ回るばかりでしたからなぁ。」

 「うむ、雨だと思って『銃は使えまい。』とのこのこやってきた奴らを片っ端から打ち取ることができたのは大いに助かった。」


 「佐吉よ。」


 柴田様が続ける。


 「わしは猿はなんか気に食わないのだが、お前の才覚は認める。お陰でわしは信長様から越前北之庄75万石をいただくことができた。これからもよろしく頼む。」


 と頭を下げられた。


 「どうか柴田様頭を上げてください。」


 俺は慌てて声をかけた。柴田勝家様も前よりは俺に対する態度が和らいだようだ。


 柴田様たちが来てまた時が過ぎた夏。俺は信長様に呼び出しを受けた。信長様の待つ部屋に入ると、なんか空気が重い。


 「佐吉よ、毛利にしてやられたわ。」


 あ、第一次木津川口の戦いでボロ負けにされた時期か。Noooooo!!


 だって第一次木津川口って言ったらあの『村上海賊の娘』が来てたかもしれなかったじゃん。

俺活躍して生け捕ったら結婚できたかもしれないじゃん。でも俺船酔いすごくしやすいんだけど。


 「佐吉よ、毛利水軍に対する手立てはなにかないか。」

 「はい、鉄甲船というもので防げるかと。」

 「鉄甲船とな?」

 「安宅船の周りに鉄板を貼り、焙烙で燃えないようにするのです。ただし重くなりますから動きはとれず、水上の砦みたいなものです…個人的にはだったら戦列艦作りたい…」

 「戦列艦とな?また『戦列』か?今度は大丈夫だろうな?」


 信長公がニヤニヤし始める。


 「次に『戦列』でやらかしたらその生命はないぞ…」

 「今度は大丈夫だと思います。ただ作るなら安宅船のような和船ではなく、南蛮船を手に入れてそれを元に作らせたほうが…」

 「ならばよし。面白そうだから許す。九鬼と共にその『戦列艦』今すぐ造れ。」


 はっ、と控える俺。これって『非常事態』だからうちの予算以外使っちゃっていいよね・・・ふふふ。



 とは言ってもなにもないところから戦列艦造るわけにも行かない。まあ戦列艦じゃなくてその前段階のガレオン船で十分なんだけどね。ひとまず堺にいた南蛮人にガレオン船を売ってもらえないかどうか交渉する。(通訳バルバトス)


 「この黄色い猿が。そんな上等な船売れるわけないだろ!帰れっ!しっしっ!」


 と邪険に追い払われた。ならば是非もなし。


 「バルバトス、やれ。」


 しばらくした深夜の大阪湾、二隻のガレオン船が堺に向かって航行していた。

 突然ガツン、とぶつかった音がした。


 「何事だ。(以下スペイン語)」

 「船長、小舟が舷側にくっついてますぜ。」


 「皆さんこンばンは。オーミの方からやってきましたぁ。」


 真っ黒い服を着て長大な鳥銃と大きな袋を担いだバルバトスが甲板に立っていた。


 「お前何者だ?何をしに来た。」


 バルバトスは一枚の紙を取り出して、


 「この書類にサインをして私と契約をしてくださぁい。」

 「契約?なんのことだ。」

 「この船と随行している船団の船、両方を石田佐吉様に譲るという契約です。

 対価はほら、ちゃんとあります。」


 と行って袋を転がす。中からはたくさんの金が出てきた。


 「船を譲れだと、ふざけるな。お前らやってしまえ!」


 船長が吠えると海の荒くれ者達が一斉にバルバトスに襲いかかる。


 そこに一発の銃声が響き、気がつくと何人もの船乗りが倒れていた。


 「馬鹿な?銃弾は一発だったはず。伏兵がいるのか?」

 「有象無象の区別無く、私の弾頭は許しはしないわ。くぅ、やっぱこれよね。」


 一発の弾丸が生き物のように曲がりくねって多くの水兵を撃ち抜いていたのである。


 「化け物!化け物だぁ!」 


 船乗りたちがパニックになる。


 「化け物とは失礼ですね。私悪魔なのに。」


 とちょっと憮然とした表情のバルバトスである。


 「さて、そこで相談です。このまま抗ってこの海域の魚類への栄養散布行動に務めるか、この書類にサインして正式に船を譲り、金を受け取ってそこのボートで立ち去るか。」


 「分かった。すぐサインをする!」


 船長は慌てて書類にサインをすると、乗組員たちと共に争うようにボートに乗り込んだ。

いつのまにかもう一隻のガレオン船にもボートがついており、こちらからも我先と乗り込み、船員たちは大慌てで船から去っていった。


 「ま、内海で陸も近いですからどっかには着くでしょ。サービスサービス。」


 とバルバトスはひとりつぶやいた。それからどこからともなく眷族を呼び出すと、二隻のガレオン船は音もなく航海を続けたのであった。



 「今回はきっちり結果を出してきたなぁ、バルバトス。」


 朝の光を受けて二隻のガレオン船は志摩の港に並んでいた。


 「個人的な趣味に状況がぴったりだったもので。」


 とバルバトスは返した。『楽しかったです。』と上機嫌なバルバトスを下がらせて、俺は2隻の船をそれぞれ一隻を分解して竜骨など西洋造船の方法を学ぶ材料とさせ、ガレオン船よりも船首、船尾楼が平坦な2層戦列艦を作らせることにした。

 

 もう一隻のガレオン船はそのまま九鬼の海賊たちに西洋式の帆船に慣れる訓練用の船としてもらった。こうしてわが国初の戦列艦の建造が始まったのであった。


 翌天正5年(1577年)、ついに安土城の建築が始まった。なんか信長様が呼んでいるという。


 あれ?俺何かやっちゃいましたっけ?

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