石田佐吉の奇怪な目標
ブックマーク1200件、評価ポイント2000,総合評価4500、PV30万超え本当にありがとうございます!
今週もよろしくお願いします。今回はちょっと先の方に向けた仕込み回的な話です。
動き少なくてすみません。
佐和山城は実は元浅井家臣で猛将の磯野員昌が城主だったのだが、無事退去していただいた。元々養子にしていた津田信澄様に家督を譲らず、一触触発の状態だったのだ。
「白装束で来ることもなくいきなり土鬼か!交渉の余地はないということか。
殺されるのはまっぴら御免だ!」
と磯野殿は言い残して退去して言った。いや、こちらとしては単に自分の部下を連れてきただけなのだが。ついでにいうと鉄華団用に誂えた黒色の鎧兜は丹羽長秀様に
「少しでも予算回収!」
と言われて没収されてしまったので、配下で元々名のある武士以外は軒並み土鬼隊の格好で来ただけなのである。
ともかく、佐和山城には無事に入城し、しばらく知行の割当など色々所用を済ませた翌天正6年の正月、岐阜の織田信長様や長浜の羽柴秀吉様に年始の挨拶を行ったあと、部下の諸将を城の大広間に集めて俺は前に大きな紙を貼り、宣言した。
「俺は石田千空三成!これが我が石田家が目指すロードマップ!そそるぜ!」
…諸将がポカーンとしている
「せんく、というのは『長篠の首刈り鬼』と称された殿のことですから戦狗、とかそういう意味だと思っておきましょう。」
筆頭家老になってもらった渡辺勘兵衛さんが引き取った。しまった。滑った。
「また皆様、このように我が殿は時々訳のわからない南蛮語を言い出すことがありますが、どうか深刻に考えず、聞き流しますよう。必要な時はちゃんと日本語で話し出しますので。」
なんか変人扱いなのが不安だが、気を取り直して続ける。
「要はボルトアクションライフルとペニシリン、それに必要な機材を造るぜ!という話だ。
ちなみにメタ的に言っちゃうけどこの段の以下の話はその一行をグダグダ解説続けるだけからめんどくさくなったら次の話に読み飛ばしちゃってね!
メタ的解説終わり!以下(略)でも良い話開始!」
ーーーーーーここからはお好みでーーーーーーー
「では説明しよう。」
真面目に話すので丁寧語で俺は始めた。
「当家は織田信長様から技術開発を任されております。まず銃火器の改良について。先の長篠で分かったとおり、管打銃は悪天候には強いのですが、威力は旧来の火縄銃と大差ありません。長篠の後、奥平信昌様と仲良くさせていただいた縁で徳川家康様の所に行った折、弓の名手内藤正成様に見せていただいたのですが、率直に言って射程もほとんど変わらず、内藤様は鎧を三領撃ち抜くことができました。威力的にも弓のほうが上です。
ですので、射程と精度を安定させるため、銃身の内側を螺旋状にしたポリゴナルライフリング(和語がめんどいのでそのまま言ってしまった。)にすること、また立てて装填する必要のない鎖閂式の後装銃を作る必要があります。」
「鎖閂式後装銃だと・・・管打銃でも他家に先んじているのに…」
参加していた国友衆の親方が唸る。ポリゴナルライフリングは巻張りで銃身を作る時の芯をねじったものにすればなんとかなりそう、だが鎖閂式の機構は流石に手作りでよっと、と言うわけには行かないので、まず旋盤の構造を説明し、また安定した品質で切削したりネジの製造ができるところから目指してもらうことにした。銃の機関部の大きさがまちまちでは弾も互換性がなくなってしまうので、まず工業規格的に同一の工作ができるような体制を目指すことにしたのだ。
鎖閂式銃は紙薬莢のドライゼ銃的なものを作るところを目指そうかと思ったが、
「この薬莢、『旋盤』が使いこなせるようになって同じ大きさのネジなどを安定して作れればある程度はできそうですぜ。紙薬莢だとどっちみち爆圧が逃げて威力低下しちゃうでしょ。」
と最初からドライゼ銃の欠点を見破って親方がいうので、最初から金属薬莢にできるかもしれない。ただ深絞りがあまりうまく行かなかったらショットガンの薬莢みたいになりそうだけど。
同時に硝石を輸入に頼っていては足りなくなるので硝石丘法で硝石の生産も始めることにした。江戸時代に五箇山でやっていた手法とフランスでやっていた手法を随時試してみる。ただ、硝石丘法でまともに硝石が取れるのは普通5年ぐらいかかるので…うまくいく頃にはこのまま歴史の流れが大筋で変わらなければ本能寺の変の頃になりそうだ。
硝石の生産がうまく言った暁には硫黄と反応させて硫酸を製造したり、その硫酸を用いて硝酸を製造し、それを獣脂や木綿と反応させてニトログリセリンやニトロセルロースを作り、最終的には無煙火薬を作りたい。そして小銃の改良も進めてモーゼルKar98kにたどり着くのだ。うはは。(モーゼルにしたいのは単なる個人的な趣味。38式歩兵銃でも良いのだけど。)
銃火器の改良と一緒にもう一つやっておきたいのが医薬品の製造だ。ひとまず傷を負ったときには清浄な水で洗浄し、清潔な布で被覆するなどの基本的な処置や普段の感染予防などについては徹底的に周知した。麻酔薬がまともにないのが痛いが、仕方がないのでそこは最悪の場合は南蛮人からコカを入手したり阿片を用いるしかないかもしれない。しかし麻薬が広まっては国の滅亡なのでそういった薬剤は許しを与えた医師しか用いることができないように死罪も適用して厳しく取り締まることにした。
そしてそれ以上に大切なのが抗菌剤の開発だ。俺は元々過去にタイムスリップするなら幕末に行ってペニシリンを開発して綾瀬はるかみたいな美人と恋仲に落ちたかったのだ。だから青カビを油で分離した後、酢酸で処理し、活性炭に吸着させて重曹で洗浄して乾燥させて単離!と製造プロセスは常に必死こいて暗記していたのだ。今こそその知識を活かす時。
しかしそれはそれでいくつか問題があり、まずペニシリンを生産してくれる青カビの同定、培養、そして一番の問題点はこの原始的な方法で製造できるペニシリン、内服すると胃酸で分解されて効果がないのだ。なので培養の時点でもガラスシャーレがほしいがそれに加えて注射器の製造と、注射針を作ってもらわなければいけない。仏具やかんざしなどの職人に作ってもらってなんとかなるのを祈りたい。
投与方法だけで考えると『そそるぜ!』の元ネタでやっていたサルファ剤なら内服できるからずっと良さげに見えるのだけど、こっちはこっちで材料の硫酸が不純物など入って毒になる可能性があること、また基剤で強い毒性が出る可能性があること、そもそも硝石丘法が安定してこないと硫酸の製造(とアンモニアもどうするのよ。電気は都合よく出てこないわ。)などなど結構ハードル高かったりする。一応研究は進めたいが、こっちはできたらラッキー、ぐらいだなぁ。
と二つの大きな命題を示して我が科学要塞研究所、じゃなくて佐和山城では日々研究が行われることになったのである。
まあぶち上げ過ぎちゃったので数年はかかるだろうけどね。その間は管打銃などでなんとかしよう。




