ラスト・バタリオン
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長篠の戦いの後半戦が始まります。すみませんが本日はこの1話のみです。すみません。
俺、石田三成が(織田家の)全財力の五分の三をつぎ込んだ(流石に嘘です。)未来を先取りした先進兵科、戦列歩兵『鉄華団』は、実在した武田騎馬軍団に押しつぶされて、期待されたような戦果を挙げられずに塹壕に逃げ込み、今では単なる『とても数が多い単なる銃兵隊』としてご活躍中だ。まあ銃の性能も兵数も多いからそれ以上はやられていないけど。
真田兄弟こそ『こんな事もあろうかと』と用意していたぶどう弾の餌食となり、大将を失った真田隊は後退しつつあるものの、正面の土屋昌続は竹束を前に押し立てて依然として猛然と当方を攻撃中だ。ぶどう弾は弾自体は小粒なので竹束でうまく凌がれてしまっている。馬場信春も相対している丹羽長秀様の隊と戦いつつこちらにちょっかいを出してきている。
俺はこの膠着状態を打破するために決心した。戦列歩兵と心中するのは真っ平御免だ。
「鉄華団!そのまま塹壕から射撃して防御に努めろ!
バルバトス!いくらなんでもその指揮ぐらいは取れるよな?」
「防御射撃でしたらぁ。」
「よし、お前はここに残って鉄華団を率いて防御しろ。土屋昌続に塹壕を抜かせるな。少しは仕事しろ。」
「大砲隊。土屋に対する射撃停止。そちらは鉄華団の銃撃に任せろ。
仰角上げろ!曲射!目標右翼奥側で控えている穴山信君隊!その後の指示は以前行った通りに。」
それから右翼に行き、ちょっといじけ気味に防戦している『枯葉色』部隊に声をかける。
「お前ら出番だ。最後の大隊出撃だ!」
最後の大隊、うん、今名付けた。なんかカッコいいだろ。
「鉄砲の射手は三人一組、一番上手いものが射撃、残りの二人は装填して装填できたら射手に渡す、後二人槍か刀とスコップを持って随伴、射手がやられた場合は射撃の上手い順に繰り上がり!やられた者の銃は拾って使ってくれ!よいか?皆銃とスコップを忘れるな!」
「スコップは何に使うので?」
渡辺勘兵衛さんに聞かれた。
「俺を見ていてくれ!とにかくスコップを忘れるな!」
そして俺も甲冑を脱ぎ捨ててヘルメットを被る。
「ラスト・バタリオンは右翼の穴山隊に突貫する!
正面の土屋隊は手出し無用!鉄華団に任せて放っておいてヨシ!
大砲隊!砲撃開始!
みんな!スコップは持ったな!行くぞぉぉ!」
俺は塹壕の右側から飛び出すと、正面で戦っていた土屋昌続を無視して、穴山信君の方に全速力で駆け出した。
次の瞬間、大砲隊は仰角を大きく取り穴山信君の陣に砲弾を打ち込み始めた。
その途端、激しい光とともに爆発音が響く!
信管の開発は流石に進んでいなかったのだが、原始的な『中をくり抜いて火薬を詰めて、火縄をつけておいて発射前に点火しておく』炸裂弾を用意しておいたのだ。『こんな事もあろうかと』爆発のタイミングは実は着弾する位よりも若干早めにしてあったのだ。(想定された設楽原での距離から事前に試しておいた。)
空中で爆発した砲弾は、無数の金属の破片となって穴山兵に降り注ぐ。元々厭戦傾向で日和見をしていた穴山隊は青天の霹靂に恐慌状態になった。
「全隊、射撃の上で突入せよ、トラトラトラ。」
俺は穴山隊に突入する寸前に管打銃を取って銃撃すると、銃を後ろの装填手に渡してスコップを構えて突進した。
出くわした穴山兵をスコップで首を刎ねる!手首を斬り落とす!突き刺す!背で叩き潰す!
ここまでブートキャンプで鍛えたこの肉体!無駄ではなかったわ!グハハハハハハハ。
「URRRRYYYYYY!!!無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァ!!!!」
飛んでくる石礫や矢もスコップで受けて流す!そのまま突撃して次々と敵兵の首をスコップで刎ね続ける。
ラスト・ヴァタリオンの皆も俺のスコップ戦闘法を見て次々とスコップをかかげて突入した。砲撃ですでに多数の死傷者を出し、恐慌状態にあった穴山信君の部隊は大虐殺の会場となった。
「なんだあの物乞いのような、全身土気色の惨めな装備の部隊は…土鬼、土鬼じゃあ!!」
穴山隊の誰かが叫び、「土鬼じゃ、土鬼じゃああ!!!」と言って地を這うように逃げ回りだした。
「誰が土鬼じゃ!!遮光土偶みたいな服は着とらんわ!
てか土鬼だったら空中戦艦寄越せ!
土鬼じゃなくてラスト・バタリオン!ラ、ス、ト!」
俺は叫んだが、なぜかみんな『土鬼』の所だけ妙に覚えていて、以後俺の部隊は土鬼隊と呼ばれることになった。何故だ。
大砲はすでに穴山隊に十分な打撃を与えており、こちらが投入する直前に更に目標を右方の一条信龍隊に向けていた。土屋昌続隊は鉄華団の銃撃にさらされて動けず、一条信龍隊は砲撃で打撃を受けた上(流石に炸裂弾は切れて通常弾だったが)穴山信君隊のあまりの惨状を見て身動きもできない状態だった。
「こんな事になるとは…退け!退けぇ!!」
穴山信君はどうにか負傷しないですんでいたが、取り乱して撤退命令を出す。
穴山隊のどうにか動いている生き残りが蜘蛛の子を散らすように一斉に逃げ出した。
それを見た一条信龍隊も隊の形をなさずバラバラに逃げ出す。
「お前ら!逃げるな!逃げるな!」
武田勝頼は鎧飾りを振り乱して叫ぶが、穴山隊、一条隊の壊乱に続いて、武田信豊も整然と撤退を始めた。
穴山隊で戦闘できるものはほとんどその場にいなくなり、俺(石田三成)達はついに土屋昌続隊の背面に出た。土屋隊を前門の鉄華団、後門の土鬼隊に挟み、ついに包囲する形になったのだ!
「勝蔵、見たか。」
織田信長は脇にいる青年武将に声をかけた。嫡男信忠の陣から使いで来ていた森長可だ。
「武田の中央が崩れましたな。武田は全体に渡って浮足立っております。」
「うむ、当初はご自慢の戦列歩兵とやらがまるで役に立たず、何をしている、と思ったが、盤面をひっくり返したな。」
「あの戦法、寡兵でも凄まじいものがありますな。」
「うむ。今こそが良き機会!全軍、前進して武田勝頼を打ち破れ!」
こうして中央の親族衆の崩れから武田の軍勢は統率が取れなくなり、絶望的な突撃をするもの、退却するもの、とバラバラの状態になった。長篠の戦いの趨勢はここに決まったのである。




