大陸軍は世界最強
やってきました設楽原。ついに戦列歩兵『鉄華団』のデビューだぜ。戦列歩兵と言う革新的戦法で俺は歴史に名を刻むのだ。うひょひょ、とか水木しげるの作品のモブなメガネさんが上げそうな笑いがもれてくる。
「バルバトス!」
「はぃ~。」
「戦列歩兵の準備は万端か?」
「戦列歩兵の装備、訓練は万端ですよぉ。ちょっと支援の大砲が足りませんけど、そこは相手も大砲がありませぇんからどぅにかなるンではぁ?」
なんか相変わらず間延びした話し方で少しイラつくが、準備は万端らしい。
他の部隊は馬防柵の後ろに塹壕を掘り、その後ろに長槍と弓兵を置き、脇に機動力をもたせた銃兵の部隊を配置して、弓兵で削りつつ槍隊で受け止め、そこを銃撃する、という後世の大隊編成に近い構成になっていた。しかし、我が鉄華団は違う。
塹壕の前に鉄条網を置き、敵の突出を防ぎつつ、銃撃するのだ。後方から大砲が支援射撃をし、敵が崩れたらいよいよ戦列歩兵の登場である。圧倒的な弾幕を張り、敵をなぎ倒しつつ前進して殲滅するのだ。ウヒヒ。塹壕も二度目の関が原以来俺にはおなじみのスコップで掘って、他の部隊よりもしっかりしたものを作り上げている。
準備は万端な筈だ。けれども俺は、バルバトスのボケっとした表情を見ていたらなんか不安になった。
「部隊編成を一部変更する。」
こんな時に、と部隊に少し動揺が走る。
「戦列歩兵1000の内、200は戦列から離れて渡辺勘兵衛と同じ右翼の塹壕に入れ。」
選ばれたものが何で外されるんだ、と怪訝な表情をしている。そこにさらに俺は続けた。
「戦列から外れたものは胴丸と戦列歩兵用の兜もはずせ。うん、甲冑はつけなくていい。」
甲冑の下は今でいうオリーブドラブ色の、今のズボンのように細く絞った袴で統一してある。上も丸首長袖シャツのような形の同じくオリーブドラブのモノ(説明めんどくて流石にボタンは止めて紐で結ぶようにしたが。)を着せる様にした。ちょっと服がしわしわヨレヨレした現代の軍人さん、といった風情だ。
「大将、鉄華団の黒甲冑と兜がないと貧相ですぜ。」
外された隊員から不満が出る。
「甲冑を脱いだものはこの兜をつけよ。」
と言って差し出したのは、ヘルメット、である。こちらもオリーブドラブに塗り上げてある。
俺の趣味で耳のところが少し下がった旧ドイツ軍タイプだ。
「なんと地味な兜…」
「全身枯葉色とは…」
なんか皆さん不満そうである。
「戦列歩兵の部隊は中央からやや左寄りに布陣!目標、土屋昌続、真田信綱!勘兵衛たちは右側の敵中央に近い方に布陣!戦列歩兵は手はず通り敵の浮足が立ったら前進!敵を殲滅せよ!」
「で、我々は何を。」
『枯葉色』部隊が言ってくる。
「うむ。右翼は接近してくる敵を塹壕から徹底的に銃撃して近づけないようにしてくれ。」
「それは地味ですな。」
「そうは言わず、頼む。それとスコップを持ち歩く事を忘れるな。」
「恥ずかしさに穴をほって逃げろ、ということですか?」
「そう言わないでお願いだから、ね。」
それから俺は全体に向き直って大声を上げた。
「行くぞ!鉄華団!俺が『大陸軍はぁ!』と言ったら『世界最強ォォォ!』と答えるんだぞ。
はい、『大陸軍はぁ!!!』」
『『世界最強ォォ!』』
「大陸軍はぁ!」
『『世界最強ォォォ!』』
ヲヲヲヲヲヲヲ!!と雄たけびが轟く。
その横では枯葉色部隊が
「せかいさいきょお~」
とやる気のない声を出していた。
そして5月21日払暁、世にいう『長篠の戦い』が始まったのである。




