鳥居強右衛門
俺、石田佐吉改め石田三成は麾下の鉄華団と部下を引き連れて羽柴秀吉様の指揮下に出陣、岡崎城に到着した。
そこに長篠城からの援軍を求めてきた鳥居強右衛門勝商殿が駆け込んできた。
「どうか長篠城に援軍を!城は食料庫を焼かれて数日も持ちません!どうか、どうか援軍を。」
「強右衛門、よく来てくれた。見よ、この援軍を。」
そこには徳川家康軍8000に加えて、織田信長が率いる3万もの軍団も加わってごった返していたのである。
「おお、ありがたや、これなら武田を打ち破れるでしょう…」
感激して震える強右衛門に織田信長公が声をかけた。
「見よ、これが我が織田軍が長篠のために引き連れてきた精鋭『戦列歩兵』鉄砲隊、
『鉄華団』だ!」
「おお、何という鉄砲の数、何という美しい装備…」
そう、鉄華団はナポレオニックを実現するために衣装もちょっとそれ風にしておいたのだ。兜は戦列歩兵の帽子風の形にして上に羽までつけておいた。鎧無しは不安、と兵に言われたので胴丸を戦列歩兵のモールの入った上着にちょっと似せたデザインにした。
ついでに基調の色は漆黒である。
武田騎馬隊を赤備えを相手にするのならば映像的に黒なのだ、『天と地』のビジュアルを再現するのだ。こっちは長尾景虎じゃないけど。
「これで安心して長篠城に戻って皆に援軍の出陣を伝えられまする。」
「ならん、脱出だけでも難儀であったのに戻れば必ず捕らえられよう。儂はお前の様な勇者を失いたくない。」
と徳川家康様が声をかける。ほんと、家康様は人を思いやる大人物だわ。俺は何度もその家康様に処刑されちゃうけど。
「そうだ鳥居よ、お前はゆっくり休んでおけ。知らせにはこちらから草のものを送る故。」
と、信長公も声をかける。
「いえ、私は一刻も早くこの朗報を長篠城の皆に伝えなければなりません。私よりものすごく足が速い出自がよくわからない男装したおなごの足軽などもここにはいないでしょうし。」
なんかよくわからない補足があったが、奥平貞昌って『若君様ぁ』とか女子高生に慕われちゃうぐらいのイケメンなのか?とにかく鳥居強右衛門さんは長篠城に自分が戻ると言って譲らなかった。三河者って噂通りの超強情ね。というか後の伏見城考えると鳥居という名前の人がとびっきりなのか。
「では早速ではありますが出立いたしまする!」
立ち上がる鳥居強右衛門に信長公が声をかけた。
「待て!」
「待てと言われましても。」
「そなたのその覚悟、たしかに受け取った。ならばせめて儂の方からもお前に贈りたい物があるのだ。おい、佐吉、じゃなかった三成。」
は、と俺は応えて控えた。強右衛門と一緒について行ってね(ハート)とかいう超特大死亡フラグでないだろうな、と内心ビクビクする。
「お前の白装束を鳥居強右衛門殿に持たせてくれないか。」
「おお、音に聞こえた石田様の白装束!」
強右衛門さんが反応する。
「それがあれば武田に捕らえられても我が覚悟、示すことができましょう!石田様、是非にお願いいたします。」
と平伏する。
「強右衛門様、顔を上げてください。もちろん白装束はお持ちください。」
そして俺は一枚の書を書き上げると強右衛門さんに渡した。
「これは些細なものでありますが、私の切腹への心構えの奥義を鳥居様が修めたことを証明する『切腹免許皆伝』の書付です。貴方のその覚悟、私など足元にも及びません。」
「おお、おお、石田様!石田様から免許皆伝をいただけるとは!この勝商、援軍の儀さえ長篠城の皆に伝えれば思い残すことはありません!」
と言って号泣された。いや、俺、そんなに偉くないんだけどな。そんなに喜んでもらってごめんね。
そうして鳥居強右衛門さんは岡崎城を出発して長篠城に向かっていったのだった。
鳥居強右衛門は長篠城の近くにたどり着くと、武田の兵に捕らえられてしまった。
武田勝頼は
「城に向かって援軍は来ない、もはやこれまでだから開城しろ、と伝えれば助命の上褒美を取らす。」
と強右衛門に伝えた。強右衛門は白装束を着て出られるなら、と返事をした。武田勝頼は
「けったいな衣装で目立ちたいということか。」
と怪訝な顔をしたものの、目立つ衣装のほうが城からも見やすいだろう、といって許した。
城の前に柱に縛られて強右衛門は引き出された。
「おお、強右衛門…」
「捕らえられてしまったのか…」
城兵が不安な口調でつぶやく。しかし、城将、奥平貞昌が言った。
「見よ!強右衛門が着ているのは世に名高い石田佐吉殿の『白装束』ではないか!
強右衛門は織田の所までたどり着いたのだ!」
「おお、あの石田様の『白装束』!」
「織田様の援軍がもう来ているということか。」
「戻ってきては助からないのを知っていて、強右衛門、なんたる覚悟。」
武田勝頼は狼狽した。この衣装で出てきた事自体、強右衛門が織田の軍勢と接触した証拠なのだ。
「貴様!今すぐこの衣装は適当にその辺から持ってきたもので織田の軍勢とは無関係だ、援軍など来ないから今すぐ降伏しないと皆殺しだぞ、と言え!!!」
と絶叫する。周りの老臣はそんなに絶叫したら城方に聞こえてしまっているわ、と苦笑いした。それに対して強右衛門は
「徳川の殿様と織田の援軍はもう、すぐにでも来る!ものすごい鉄砲隊じゃ!鉄砲だけでも数千丁じゃ!!時代遅れの武田など鎧袖一触じゃあ!!」
「貴様何をいう、殺せ、殺せ!」
勝頼が絶叫して鳥居強右衛門は槍で貫かれ、絶命してしまった。
その時懐から一つの書がこぼれ落ちた。勝頼がそれを拾って読む。
「なになに…『切腹免許皆伝』だと?石田三成?そんな奴知らん。こんなくだらない書を大事そうに抱えてバカなやつめ。お前らも降伏しないとこんなふうに惨めに野垂れ死ぬぞ。
ハハハハハ。」
と大笑して『切腹免許皆伝』を投げ捨てた。
それを見た長篠城の城兵たちは
「勝頼、絶対に許さん。」
「石田殿の免許皆伝、あの様に惨殺されるのではなく、同じ死ぬにしても立派に切腹したかったであろう。」
「奥義まで得てあの様な仕打ち、何たる無念か。」
「武田勝頼、人面獣心なり。」
「厭離穢土欣求浄土」
「行くぞ一族火の玉だ!」
そう、名誉ある切腹を極め、覚悟を決めて帰ってきた勇者の無念を想い、長篠城の城兵たちは今、一丸の火の玉となったのだ。
勝頼の所に次々に情報が飛び込んでくる。
「城方からの反撃、手におえません!」
「損害が大きすぎます!」
「勝頼様!ご下知を!力攻めは無理です!無理無理無理!」
こうして復讐の鬼と化し、士気が燃え上がった長篠城は武田の攻撃を全く受け付けなくなった。そしてついに織田・徳川連合軍が設楽原に到着したのであった。




