佐久間玄蕃
俺、というより明らかにバルバトスが率いた鉄砲隊は岐阜城でそれは見事な動きを見せた。一糸乱れず前進し、次々と射撃をした上で敵と近接した際には銃剣突撃を行ってみせた。あくまでも演習だが。
これで大砲隊の援護射撃があれば俺が夢見た世界がここにあらわれるであろう。でも実現したのはバルバトスの力量なのでちょっと微妙な気分。
「三成よ、よくやった。この鉄砲隊が戦に参加すれば戦いの様相は一変するであろう。」
信長公は上機嫌に語られた。今回は切腹回避できたかしら?
「新たに褒美は取らせん!」
と信長公は豪快に笑いながら言った。
「なにせお前のせいで岐阜城はすっからかんだからな!佐久間信盛め、自分のところで溜め込んで出し渋りおって…」
とブツブツ言い出したので、八つ当たりされないように逃げ出したくなった。
「とは言っても褒美はやらんとな。明智光秀の坂本城を取り上げてお前にやろうか?
なに、やつには丹波でもやっておけば十二分だろう。」
とちょっと怖いことを言い出す。そこで俺はかねてから考えていたことを言った。
「信長様にお願いしたい儀があります。」
「なんだ?また迂闊なことを言って切腹を見せてくれるというのか?」
「切腹は避けたいところですが。私に一つの特権を頂きたいのです。」
「特権だと?迂闊なことを言いそうで儂はワクワクしてきたぞ。」
ちょっと脂汗を流しながら俺は続けた。
「戦で私が捕らえた者は、どのような者であっても、もし私の部下になるならば命を救っていただきたいのです。」
「どのようなものであっても、か?」
「はい。どのようなものであっても、です。」
ふーん、と言って信長公はちょっと考え込むような姿勢をした。ドムゴー、とか怖い擬音が聞こえてきそうな恐ろしい雰囲気だ。
…あまりの緊張感に完全に胃潰瘍ができた自覚があった頃、信長公は口を開いた。
「そう言うからにはそれだけの手柄を上げる、ということだな。よし、許そう。
ただし流石に大名本人は駄目だ。お前が上杉謙信だの武田勝頼だの従えて出てきては俺の身の置き場が困る。
お前たちも分かったな、石田三成が捕らえたものの処断は大名以外は石田三成に任せて、口をだすことはならん。」
と並み居る重臣たちに向かって話した。
こうして俺は『戦場で捕らえた者は大名以外は部下にしてよい』特権を信長公からいただくことに成功したのであった。
その場でさらさらと信長様は書状を書き上げ、花押を記すと群臣に示した上で俺の所にわたしてくれたのであった。
信長公の気遣いに感謝しつつ、俺が下がろうとすると信長公からまた声がかかった。
「佐吉!じゃなく三成。もう一つお前に言っておくことがある。」
お前態度でかいから気が変わって切腹、とか勘弁してくださいよ、マジで。
「三成が様々な交渉事に赴く時には、白装束の着用を許す。」
先程の、いかなものか、という空気と違ってこんどはおおっ、という感嘆したような空気が流れた。
交渉する時は切腹も辞さぬ覚悟で行け、ということか。
「承りました。この三成、ときあらば白装束で覚悟を決めて参ります。」
そうして下がった俺は、柴田勝家様に呼び出された。
「お前が佐吉か。あの猿の小姓のくせに態度がデカすぎる!」
いきなり因縁をつけてきた。なにこのヒゲオヤジ。何が言いたいの?
「お前のせいでこの柴田隊に回ってくる鉄砲の数が少ないのだ。なんだあの数は?
独り占めしおって。また信長様からも鉄砲隊と槍隊の軍法は佐吉に聞け、だと何様のつもりだ。」
「まあまあ叔父上。」
ときらびやかに派手な赤を散らした衣装を着た、長身のイケメンが言った。何この美丈夫。180cmを超える身長、派手好み、現代でもイケメン俳優で通用するわ。もしかしたらあの人?
「佐久間玄蕃盛政だ。叔父上はお主の鉄砲隊に嫉妬しているのよ。」
「嫉妬だと!玄蕃。」
「俺は三成殿が家中の中では柴田や俺の佐久間、前田など我が郎党に鉄砲を優先して回すように信長様に頼んだのを知っている。」
「ではなんであの新しい銃ではないのだ!」
「新しい銃は扱いが違うし、弾が足りぬ。」
「うぬぬ。小僧よ!覚えておけ!猿などに儂は敗けぬ!」
佐久間玄蕃様に抱きかかえられて柴田勝家様は去っていった。
後日、佐久間様にお礼を申し上げに参上した。
管打銃と雷管、実包をお礼に贈った。
「十分な数でなく申し訳ありませんが玄蕃様に使っていただけましたら…」
「おうよ!ありがとな!俺も実は猿は嫌いなんだけどお前はなんだか気に入っててな。あの切腹すごかったしな!またな!」
と上機嫌で受け取っていただけたのであった。




