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第六天魔王

評価40人、ブックマーク200人、評価800点超え本当にありがとうございます!

今週の更新は本日までになります。(数編投稿します。)来週は月・火のいずれか再開いたします。

これからもよろしくお願いします。

 俺、佐吉は織田信長様の居城、岐阜城へ向かった。信長様に引き合わせる話をした竹中半兵衛様と俺の直接の上司、羽柴秀吉様も一緒だ。


 岐阜城は金華山の頂上にある、現代でも形を似せた復興天守が建っている城がよく知られているが、信長様が普段過ごされているのは山麓にある城郭だった。山の上と下にそれぞれ城郭や天守があるのは、例えば後の鳥取城などでも見られる構造だ。


 山麓の天守は、山上の無骨ないかにも初期望楼型、という感じの天守とちょっと違って、どちらかというと今でいうと西本願寺の飛雲閣のようなちょっと小洒落た感じのものだった。

 俺は山麓の天守で待つ信長様の所に通された。


「これが先の話に出た佐吉にございます。」


と半兵衛様が話を向けた。


 織田信長はそこにいた。髪を整えているので有名な肖像画に近い雰囲気もあるが、おそらく180cm近くありそうな堂々たる体格と、そして予想以上に彫りの深い顔がそこにあった。現代でも宣教師由来とされる非常に彫りの深いダンディな写真のような織田信長の肖像画があるが、まさにそのような顔であった。


「で、あるか。」


信長公が話し始めた。声量は大きく通る声だがなんか甲高くて思ってたのと違う。ポイズン反町とか渡部さんの渋い声のほうがカッコいい。いやん。


「佐吉とやら、半兵衛に話した鉄砲を用いた戦法について話してみろ。」


 声こそは甲高いものの、信長様の存在感と迫力からは、息をしていいのかすら迷うほど緊張した。

あまりにも緊張しすぎて俺はガタガタ奥歯が止まらなくなり、つい、口走ってしまった。


「はい、第六天魔王様。」


 あ、いきなり魔王とか言ってはまずかったか。


 竹中半兵衛様はちょっと吹き出しそうになりつつ我慢してかつ様子をうかがう、といった複雑な表情をしているし、秀吉様に至ってはあちゃー、という顔とどうしてこうなった、という顔に恐怖が混じって赤くなったり青くなったりして平伏している。


「余を魔王だと、貴様、なんたる無礼な。」


俺、終わった。


「切腹を申し渡す。」


秀吉様が申し開きをしようとしてくれたが(恩に着ます。これまでサタンとか言ってすみませんでした。)

半兵衛様に

「佐吉殿の非は明らか。秀吉様も無理に静止されるならば同罪にて死罪となりますが?」


と止められ、複雑な表情で黙り込んでしまった。


こうして俺は切腹が決まった。


流石に岐阜城で、かつ信長様が


「即刻この場で死ねとは言わん。どうせ死ぬのだからゆるりと心ゆくまで準備せよ。」


 と言ってくれたので、俺は今回はいつも持ち歩いている切腹セットに加えて、正式な場のための緞帳や、屏風、食器や食事などなど念入りに準備を整えさせてもらった。



ついに切腹の日になった。

空には雲ひとつない青空だ。長良川の流れを見て俺は一度鵜飼を楽しんで食事などしてみたかったなあ、と今となっては意味がなさそうな気持ちを抱いた。


そして俺は帳で囲まれた切腹の場に入った。それを見た信長公が目をむいて俺に尋ねた。


「佐吉よ、その衣装はなんだ?」



俺は白無垢の裃、いわゆる白装束を着ていたのである。


「正式な切腹の場に置きましては血で汚れるのが見苦しいため、浅葱色の服を用いるのが常道です。

しかし、日の本一の傾奇者で華麗さを好む信長様の前でご覧いただくならば、とこの白装束を用意させていただきました。

白は自らの罪を命で贖うことで、すべてを捨てて清らかな心持ちになり、一切を恨むことなく天に帰ってこれからの世を慈しむ心、を表現しております。」


…なんか介錯役に選ばれた前田利家様が「感動した!」とか言ってグズグズ泣いている。

うん、利家様もとびっきりの傾奇者だものね。


そして粛々と決められた食事と酒を取り、辞世を詠む。


「筑摩江や 芦間に灯す かがり火と ともに消えゆく 我が身なりけり」


「まて、そちは如何様に腹を切るつもりだ。」


信長様が声をかけてくる。


「本日は南蛮好みの信長様のために十文字切りで行います。十文字はバテレンの十字架に通じます。十字架はバテレンでは救世主、イエス・キリストの象徴にございます。」


なんか長くなりすぎたような気もするがどこからも止められないので続ける。最後なので言いたいこと言わせてやれ、とサービスしてくれているのかもしれない。


「イエスはキリスト教では神の子、とされ人界の罪を背負って十字架にかけられたそうでございます。私は日の本の天下を布武、一統する救い主たる信長様のために、せめてわが腹を十文字に切って世の穢から信長様をお救いしたいと思います。」


…自分でも言っていることがわけがわからないけど、十文字斬りを十字架にかけて表現したのだけ伝わってくれればまあ、いいや。


そして三方から自慢の石田正宗をとり、向きを我が方に変えて突き立てようとしたその時、


「よい!待て!」


と信長様から声が飛んだ。


え?切腹許してくれるの?


…でも少し刺さっちゃった…皮下脂肪ぐらいで止まったから命に別条はないけど。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 切腹した回数だけ石田正宗くんも腹を掻っ捌かされているんだと思うと不憫ですなあ…… がんばれー!
[一言] 私は歴史的表記という意味で、統一よりも一統の方が適切と思っておりますので(苦笑)。誤解されましたならすみません。
[一言] 「一統する…」と表記されているのは、井沢元彦さんの「逆説の日本史」以外では初めてお目に掛かりました。 当時は統一ではなく一統と呼んでいたそうですね。
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