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竹中半兵衛様

調子に乗って書いていたら長めになりました。すみません。

 100回目の切腹(だけじゃないけど死亡回数ってことで)を加藤清正と福島正則の前でキメるつもりだったけど辛くも竹中半兵衛様に救われた俺、佐吉こと石田三成はその半兵衛様に声をかけられた。


「佐吉君、もし良ければ僕の軍学研究会に参加してくれないか?」


 噂に聞いた今孔明の軍学講義、行く、行きます!と速攻で応えた。


「今日の題はカンナエの戦いです。本日は仙石権兵衛殿が参加してくれているので、なんというかセンゴク的にカンナエの戦いにしました。」


軍学講義が始まった。そう。センゴク的には竹中様の講義はカンナエの戦いにつきるのだ。

半兵衛様が言う通り仙石権兵衛こと秀久様が参加している。また虎ノ助や市松の顔も見える。


「虎之助くんや市松くんは今までいくら誘っても来てくれなかったのに、今日は来てくれたんだね。」


と半兵衛様が声をかけると、


「佐吉さんが出られると聞いたもので…。」

「佐吉さんほどの人が参加されるならオレたちもちゃんと勉強しないとと思いまして…」


と妙に借りてきた猫みたいな殊勝な態度の二人。


「そんなにかしこまらないで一緒に勉強しよう!」


と言って市松の肩をたたいたら


「ひいいいいぃぃ!お許しください。頑張るからお許しください!」


と悲鳴を上げて縮こまった。そんなに緊張しなくていいのに。

そして講義が始まった。


「…このようにしてハンニバルはローマ軍を殲滅しました。ローマ軍の死者は6万、捕虜は1万を超え、元老院議員の四分の一がこの戦いで死んだのです。」

講義はとても面白かった。やはり実際に実戦を経験している人の体験を踏まえた講義はとてもためになる。


「なにか質問はありますか?」


と半兵衛様が聞いてきた。俺は思わず、はい!と手を挙げる。


「茶坊主のガキか、黙っておれ。」


なんか偉そうな尊大な態度の中年のおっちゃんがいう。これが神子田正治か。


「そうだそうだ、どうやったか知らんが虎ノ助たちは丸め込んだようだが態度がでかいぞ。」


と陰険そうなのが尾藤知宣。知性を誇っているらしいが人の後ろに隠れて吠えるのが好きそうだ。


「ご両人、そうは言っても今回初めて来てくれた佐吉君の言うこと、ここは一つ聞いてみませんか?」


と仙石権兵衛様が助け舟を出してくれた。


「では佐吉くん、質問をお願いします。」


と半兵衛様が声をかけてくれたので俺は話し始めた。


「いくつかあるのですが…まずカンナエの戦いでは両翼の騎兵が突出して撃破したことでローマ軍が包囲に持っていけたわけですが、我が国においては騎馬武者と言っても当節では下馬して下人と槍で戦うことが主流であり、このような機動的な運用を歩兵で行うとどうしても侵攻速度が遅くなりうまく包囲できないと思うのですが?」

「うん、そうだね。確かにこの戦いでは騎兵の機動力がとても重要な要素だね。」

「また後に行われたザマの戦いではハンニバルは戦象を用いて正面では押し込むことに成功しましたが、逆にスキピオが指揮するローマ軍両翼のヌミディア騎兵に突出・回り込まれて今度は包囲殲滅されました。我が国では正面の攻勢を支える部分はある程度槍衾の備えで実現できると思うのですが、両翼の騎兵の役割をするものはいかにしたほうがいいのか、と悩ましく思います。」

「では佐吉くんはどうするのがいいと思う?」

「本邦の歴史を振り返りますと鎌倉武士の時代には重装騎兵が弓を持って騎乗のみの部隊を編成して突入しています。

しかし単純な騎兵の突撃は今では三間槍の槍衾で簡単に止めることができます。これは南蛮でも同様に長槍によるパイク兵で重装騎士団の突出を止められるようになりました。」

「ふんふん、南蛮の話は興味深いねぇ。そこも詳しく聞きたいけど佐吉君、君にはその答えも胸の内にあるのだろ?」


さすが今孔明。半兵衛様には俺に考えがあるのはお見通しなようだ。


「それには鉄砲隊の運用、が最も今の時代にはふさわしいと思います。例えばイスパニアが運用しているテルシオ、という隊形では中央に四方を向けたパイク、つまり我が国の槍隊を置き、その四つ角に鉄砲隊をそれぞれ配備して守らせるようになっています。」

「うむ。それは強力な陣形だね。しかしその隊形だと守備は強力だけど動くのが大変で攻めるのは難しいのではないかな?」

「さすがは半兵衛様、ご彗眼でございます。」


といって俺は続けた。


「テルシオは強力な陣形でありますが、守備に特化していて機動力が足りません。そこをオランダや北欧、スウエーデンの王に突かれて破れてしまうのです。」


ナッサウやアドルフがテルシオを破るのは今から数十年先の未来だけどね!まあ気にしないで(おい)


「しかしてその破った方法というのは?」


権兵衛様が不思議そうに覗き込んでくる。


「その陣形・運用は大隊、と言われる戦闘隊形です。実はその配置はカンナエやザマのものに似ており、中央に槍隊、その両翼を鉄砲隊が固めて鉄砲隊を機動的に動かして運用するのです。」

「それは面白い。」


半兵衛様が声を上げた。


「でも君はもう一つ二つ言いたいことがありそうだね。」


いや、ほんと智謀限りなし。全てお見通しか。

俺が半兵衛様と相対したなら何度も

『ジャーン、ジャーン、ゲエ!』を繰り返していただろう。


「その鉄砲隊なのですが、今の鉄砲でもできそうな方法としては『戦列歩兵』があります。」


「戦列歩兵…なんだそれは?」


周囲から声が上がる。


「現時点の鉄砲は弾道が安定せず、狙いを正確につけることは難しいです。ですから鉄砲隊の数を並べて横に並べます。その横列を3-4列以上並べておくのです。そして並んだ横隊は一斉に号令で発砲します。鉄砲の装填には時間がかかるのですが、守備の場合は射撃したら後ろに下がり、準備した次の列が前に出て撃ちます。」


いわゆる三段撃ちだな。それを講談とか帝国陸軍参謀部の勘違いじゃなくて本当にすればいいの。でもそれだけじゃ物足りないの。


「夜戦の時は前列が発砲したらそのまま下がらず、2列目以降が前進して発砲します。こうすることで間断なく弾幕を浴びせながら前進できるのです。」


ふふふ。ナポレオニック。でもナポレオンには足りないのでもう一つダメ押し。


「しかし鉄砲隊の前進だけでは攻撃力が物足りない上、入れ替わりの間に攻撃されるすきができるので、後方に大砲隊を置いてそちらから鉄砲隊の前方に援護射撃をするのが理想です!」


これでナポレオン的戦列歩兵の完成だ。…あれ?周りが静まり返っている。

この辺の歴史・戦術好きだからってオタクの本性が出て調子に乗って語りすぎた?


「戦列歩兵?…『今の』鉄砲?…大砲の部隊だって?大筒じゃなくて大砲?私だって最近南蛮人から聞いたところなのに?」


なにか半兵衛様がグフグフ笑いながらこちらを覗き込んでいる。ヤバい。深淵を覗くものはまた深淵に見られているのです、か?


「佐吉君、一つ聞きたいのだが、君は大砲、と言ったね。あれは大友などが持っているフランキ砲のことかね?」

「フランキでは後方が空いていて発射ガス漏れで威力も低いですし…かと言って山道の多い我が国ではカノン砲は城に据えるぐらいになりますでしょうから…例えばカルバリン砲が一番いいと思うのです!カルバリン砲というのは比較的口径は小さめですが砲身が長く、軽量な割に長距離の射撃もできます。鉄じゃなくて砲金で鋳造すればより耐久性も期待できるかと!」


言ってしまってからあ、と思った。


調子に乗って分けのわからないことを言っていると思われたのに違いない。


実際神子田や尾藤は何いってんだ、訳わからないこいつ、という顔をしているし、虎ノ助や市松は目を回している。


こりゃ下手すると気狂いで切腹か、と思ったその時、


「佐吉くんは面白いねぇ!実に興味深い!」


ポン、と手を打って半兵衛様が声を上げた。


「そうだ、佐吉君、僕と一緒に織田信長様の所に会いに行こう!」


え?織田信長様?第六天魔王?


「すごいじゃないか佐吉!」

「織田信長様と話だってよ!」


なんかものすごく嬉しそうに興奮しながら虎ノ助は肩をたたいてくるし、市松なんか目を潤ませながら両手を固く握りしめてくる。


織田信長。第六天魔王。魔王というのは武田信玄の自称天台座主に対抗したジョークを、後世面白く取り上げた呼称ではある。

とは言っても実際問題恐ろしい人であるのは間違いない。結構ブチ切れて即処刑、とかしているし、

有能な人には超優しいけど無能なら速攻斬り捨てられる。ヤバい。迂闊なことをいうと生命の危機だ。


 俺は100回目の切腹を覚悟しながら、なんかひどく嬉しそうにニコニコしている半兵衛様を見た。

今まで羽柴秀吉様をボンドルド卿だと思っていたが、本物のボンドルド卿はこちらだったらしい。若いモノ育成したいなら絶体絶命の死地に向かわせなくていいと思うの。

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― 新着の感想 ―
[一言] 普通の子「コイツ、何を言ってるんだ?」 良い子 「コイツ、なんでそんな事まで知ってるんだ?」 悪い子 「なんでもよい、立ってるものは親でも使えば良かろう」
[一言] 日本は火縄銃は瞬発式火縄銃なので、暴発する危険が高いため、密集する戦列を有する戦列歩兵はできないと思う。
[気になる点] 感想返しありがとうございます。 すみません。説明不足でした。 違和感があるのは、主人公ではなく 竹中半兵衛 です。  「今日の題は【カンナエの戦い】です。」 偏見ですが戦国時代に…
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