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三杯の茶

ブックマーク100越え本当にありがとうございます!

励みになります。第三部は今までより長くなります。どうかお付き合いください。

押忍、おら、佐吉!近江のしがない寺の小坊主さ!

おら将来石田三成ってぇお侍になるんだとよ!


…というのはおいておいて、中の人は現代人男性な俺、某寺の小坊主、石田佐吉の前にまだ若い羽柴秀吉様が現れた。

しかし今回の俺には考えがある。なにせ今の俺はレベル99なのだ。


…レベル99と言っても魔法でブラックホールを出したり、オーラを伴った斬撃を出せる、とかそういうわけではない。切腹したり斬首されたり討ち死にした回数がついに99回に達した、というだけだ。


坊主で暇だったので何回死んだかとその原因をまとめていたのだ。


あはは。


さて、今回の俺の戦略は「触らぬ神に祟りなし」である。

そもそも羽柴秀吉様に雇われなければ最終的に関ケ原で負けることはなかったのである。そして適当なところで徳川家康様の所に潜り込んで天海僧正とか金地院崇伝とかの部下になって地味に坊主を続ければいいのだ。うん。


「狩りをしていて道に迷った。坊主、茶をくれ。」


三杯の茶イベントキタ━━━━(゜∀゜)━━━━!!


でも俺はここを華麗にイベントを改変、スルーするのだ。

とはいっても茶を出すこと自体を断ったりごねたりすると袈裟懸けに斬られて終わることは今までの経験から想定済みだ。


 俺は無言のままダッシュで寺の奥に駆け込むと、和尚が秘蔵している宇治の茶をひっつかみ、更に棚の中を漁っていくつか壺をひっつかむと台所に行き、三杯の茶を用意した。


「こちらにございます。」

「何も言わずに走っていくから何事かと思ったら、茶を持ってきてくれたのか。よい、よい。」


秀吉様がこちらをみながら鷹揚に笑う。その無邪気な表情は本当に魅力的だ。

この人たらしめ。


「ふむ。最初の茶はえらく少ないの。」


といって一気に飲み干す。


「お、これは熱々か。うーん。汗が引いて落ち着くの。」


「それからこちらをお召し上がりください。」


「今度は中くらいの茶碗か。

む、先程よりは少しぬるいな。うむ!これはえらく美味い!」

「わが寺秘伝の宇治の茶にございます。お茶請けにはこの京の菓子をどうぞ。」


と言って差し出す。ぐふふ。和尚め、隠し持っていたモノは有効利用させていただくぜ。


「良いお茶は温度が高すぎるとその本来の香りや味、特に甘みが出せまんので先程よりは温度を抑えて出しました。」

「ほう、それは面白い。」

「さらにこちらをどうぞ!」


といって俺は大茶碗を出した。隣には梅干しを添えてある。


「ふーむ、2杯の茶で一息ついてからこの並々としたぬるめ…でなくて冷えているだと?」

「はい。寺の氷室から持ってきた氷を入れてあります。」

「それだけではない、ほのかに香りと甘みもある・・・」

「乾燥させたみかんの皮と共に煮出してあります。更に蜜を加えて甘いものに仕立てました。甘いものを午後に取るのは南蛮のエゲレスという国が午後のお茶などと言って珍重しております。また暑くて汗をかいたときにはこの梅干しも一緒に召し上がっていただき、塩分を取ると水分がよく体に取り入れられて疲れが取れやすくなります。先程のお茶菓子やこの甘いお茶で糖分を取れるようにしたのも疲労回復が目的です。(やや早口)」


 訳がわからないだろうけど、今回の俺の作戦は、茶を出さない、とか普通に出すのではなく、うんちくを語りまくることで「何この小賢しいガキ、こんなのいたら鬱陶しくてやってられないわ。適当に褒美やって以後忘れよう。」とか秀吉様に考えていただき、俺のことをスルーしてもらおう、という深謀遠慮の策なのだ。

題して「オタクはうざがられる作戦。」


ふっ、現代にいたころもよく語りすぎてうざがられたものよ…。


遠い目をしていた俺に秀吉様が声をかけた。


「おい、茶坊主、お前俺のところに来ないか?」


え?なんで?

やっぱこの黒いし六本指だし、サタン?


「え?サタン?」


あ、いけね。思わず声に出してしまった。でもこの頃の宣教師は悪魔のことはサタンとかよりるきへるとか呼んでいたようだしスルーされるよね?


「ふん、左袒か。確かに今儂は汗を書いて左袖をはだけて肩を出しているからな。

坊主、左袒の意味を知っているのか?」


思わず答えてしまった。


「前漢で劉邦が亡くなった後に専横を極めた呂氏一族を、功臣周勃が『呂氏に味方するものは右袒せよ、劉氏に味方するものは左袒せよ』、と言ったのが原典で味方につくことと…」


「ふんふん。小坊主、お前故事に通じているのか。」


なんかサタン様が上機嫌です。


「儂に遠慮なく寺の最も良いものを振る舞おう、という考えも普段蓄えておいて使えるときにはバーッと使う儂の考えによく合っておる。

どうじゃ?儂のところに来て鍛えられてみないか?」


サタン様というより黒い衣装といいボンドルド卿に見えてきました。

きっと鍛えるとか言って死ぬ目に合わせる気です、この人。

僕は特に竪穴に潜ったりして探検する趣味はありません。


「せっかくの話ですが…」


体よく断ろう、と思って話しだした所に、


「良い話ですな、是非お願いいたします!」


俺の後ろにいつの間にか和尚が立っていた。

こめかみに血管が浮いてピクピクしている。あ、なんか怒っているかも。


「お聞きのようにこの佐吉、古今東西の故事に通じ、とてもじゃありませんがこの寺ではその器は収まりきれません。どうか殿様のところで使ってやってください。」


和尚様、秘蔵のお茶無断で使用して悪かったよ。

いつも夜中にこっそり一人で美味しそうに飲むのが楽しみだったものね。

あ、お茶だけじゃなかったか。でも許してクレメンス。


「では貰い受けていくぞ!」


クレメンス、と異教の神に祈ったバチが当たったのか、俺は羽柴秀吉様に仕えることになったのだった。


そして「寺で一生引きこもり大作戦」はこうして泡と消えたのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 要するに、持て余していた和尚が切れて厄介払い、と(笑)。
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