なぜか今度も関が原、にはいなかった。
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「…石田殿、石田殿!」
隣りにいた武将に声をかけられて俺は目覚めた。
太閤殿下がなくなって、朝鮮からの兵の引き上げについて相談していて、ついうたた寝をしてしまった、という状況のようだ。
「では小早川秀秋殿は蔚山城の戦いにおける独断専行で、筑前名島は没収、越前北之庄に減封して移転ということで。」
「福島正則、加藤清正、池田輝政、細川忠興、浅野幸長、加藤嘉明、黒田長政の七人も独断専行した上で
さしたる戦果もなく、褒美は特になし、むしろ叱責状を送る、ということでよろしいか?」
隣の陰険そうな武将が言ってくる。三白眼、間違いない。こいつが増田長盛だ。
「いやいや、それは朝鮮で苦労された皆様に対してあまりにも失礼ではないか?」
俺は切り出した。
「失礼って貴殿今さっきまで勝手に行動してろくでもない奴らだから厳しく処して
反省させたほうがいいと言っていたではないか!」
なんか神経質そうなのが長束正家か。
「そんなことは言っておらん。(本物の石田三成様は言っていたかもしれないが、俺は知らん。)撤退となったとはいえ朝鮮で十分ご活躍された
方々なのだからできる範囲で報いたい。小早川秀秋様は名島を安堵の上博多の支配権をおまかせし、肥前名護屋城の城代も兼ねていただいてはいかがだろうか?
また福島正則、加藤清正、池田輝政、細川忠興、浅野幸長、加藤嘉明、黒田長政の七将はじめ
朝鮮で苦労された方々はすぐ加増、というわけには行かないだろうから領内の太閤蔵入地の半分を自領として組み入れていただき、実質加増を図る、というのは?」
「何を言い出すので!それでは豊臣家の収入が減ってしまうではないか!」
増田長盛が声を荒げる。
「減るとは言っても全てではないし、この際遠隔の蔵入地に頼るより豊臣家は畿内の領地からの収入を主体に運営できたほうがいいと思うのだが。」
「ふざけるな、貴殿とは話にならぬ。叩き斬る!」
と増田が刀を抜こうとする。
「まあ、まあ、皆様方。」
そこに入ってきたのは前田利家様と徳川家康様だった。
「豊臣家の力を弱めるのでは困るが、朝鮮に出陣した諸将もなにもなしでは困るだろう。」
「治部のいう半分では多すぎるだろうが、四分の一でもそれなりにはなろう、それぐらいなら
差し支えなかろう?増田よ。」
徳川家康様の鋭い視線に、えぇ、それぐらいなら、とゴニョゴニョ言い出す増田。
こんなのに大坂任せるから関ケ原では負けたのだ。
「ではそういうことで!」
前田利家様の宣言で朝鮮に出陣した諸将の扱いは概ね俺の提案通りになった。
「あの石田三成が我々のために体を張って恩賞を確保しただと…」
加藤嘉明が首をひねる。
「なんの酔狂かわからんが、後で言いがかりをつけてきて全て取り上げる気かもしれん。」
福島正則は憮然とした顔で答える。
「ま、とりあえずいただけるものは頂いておこう。」
加藤清正が場をまとめた。いわゆる七将が集まっていたのだが、そもそも集まったのは三成を始めとする奉行衆の戦の査定に対しての疑念からだった。
しかし石田三成が頑強に言い張って出陣組の恩賞を確保した、と聞いて皆面食らったのだった。
七将というのは
福島正則、加藤清正、池田輝政、細川忠興、浅野幸長、加藤嘉明、黒田長政の七人で
俺と元々ものすごく仲が悪いメンバーだ。細川忠興とかお茶に呼んだのにバカにだけして帰るとかしていかれたこともある。
実は七人だけじゃなくて他にも脇坂安治、蜂須賀家政、藤堂高虎の三人も加わって十人いる。
このメンバー、俺が嫌いすぎて徳川家康に尽くし、関ケ原では主力になって戦うのだ。
この面々が朝鮮の役の際の蔚山城の戦いの結果などについて俺が讒言した、と言って皆でブチ切れて、仲立ちをしてくださった前田利家様が亡くなった後に起こすのが七将襲撃事件なのだ。この事件で元の石田三成様は命からがら伏見から逃げ出して佐竹義宣殿や徳川家康様の屋敷に転がり込んだりした。俺はなんか彼らの言い分にも分がある気がして(というかそこまで豊臣家が全てと考えてないのが本物の三成様でない俺なのだ。)できる限りのことはさせていただいたつもりだ。
「石田三成様がそんなに尽力を…」
名島城の天守で感激したような様子を見せたのは小早川秀秋である。
「この恩は必ず返します。」
家臣たちも改易になることなく、また博多の町衆も善政で知られる秀秋がそのまま領主を続けたことに感謝したのであった。
七将のためにちょっと頑張ったせいか、残りの奉行衆、増田長盛、長束正家、前田玄以の三人との仲はその後最悪である。(もう一人は浅野長政様なのだが、こちらは息子の浅野幸長に代替わりして半分隠居状態。)
やつらはとにかく諸大名から絞り取って大阪城の金蔵に財産を積むのが趣味なのだ。
個人的には長束正家は関ケ原の後池田輝政に騙されて城から出てきたところを捕縛されて殺され、奥方も陵辱されて殺される、という俺以上にあまりにも悲惨な末路なので後でなんとかこっそり助けたい、と思っている。前田玄以は別に何もしなくても無事だし。
だが増田長盛、テメーは別だ。
七将とはスカッと仲良くなることはできなかったが、それまで「佞臣石田三成こそ奉行衆の悪である。」とか「石田こそが豊臣家の癌。」とか「石田さえいなければ天下泰平。」とか悪口を言われていたのが、「奉行衆は我々にきつくあたってきて困る。」とか「役人どもはろくなものではない。」とか名指しで言われない様になり、中には「奉行衆はろくでもないが浅野長政様はまともだな、あ、石田もマシか。」とか言ってくれる人まで出てきた。
福島正則と徳川家康の間で婚姻が結ばれることになり、太閤様のご遺命違反では?と揉めたときも俺は
「私利私欲のためでなく天下安定のために家同士が仲良くするのは良いのでは?」
等と意見をし、これまで強硬な態度をとっていた福島正則も
「ふん、治部も聞き分けが良くなってきたものよ。」
と若干表情を崩したそうである。
その代わり後で上杉景勝様&直江兼続ペアとか佐竹義宣殿に「甘すぎない?」って叱られた。許して。
そうする内に前田利家様が病でなくなった。ここで史実だと先の七将が朝鮮の役の恩賞問題で俺を襲撃してくる。ちょっと怖いので屋敷に閉じこもり気味になった。が、ここまでやっておけばいきなりフル武装して襲っては来ない、と思いたい。
屋敷の外でわー、わー、と大きな喚声と武具がカチャカチャ当たる音がする。
七将が来たのか?頑張っても駄目なのか。是非もなし。
「水色桔梗か?」
左近に聞く。
「殿、何を仰る。明智光秀ではあるまいに。攻めてきたのは奉行衆です。」
襲撃してきたのは七将ではなく、なんと増田長盛と長束正家の軍勢だった。
「三成!貴様のおかげで武功派弱体化の太閤殿下の深いお考えが全てパーだ!!」
「内府や武功派に媚びるこの糞小物め!腹を切って詫びろ!!」
こちらはまさかそんな面々がこのタイミングで襲ってくるとは思っていなかったので慌てた。
「さこんえもーん、助けてー!」
「儂は左近であって左近右衛門ではありません。殿、落ち着いてくだされ。」
落ち着けと言われてもこちらは戦支度などしていないのだ。
こうなったら敦盛でも踊るか?
「にんげーんごじゅーねん、にはだいぶ足りないけど世間のうちをクラブれば、クラブで飲んだわけじゃないけど」
「殿、なんか間違えてます。落ち着いてくだされ。」
これが落ち着けるかよ、とどうしようと焦っていたら新たな軍勢が現れた。
「待てっ!」
あれはどうみても七将の軍勢です。本能寺どころか伏見城でも落とせるかも。
俺、終わった。
「石田三成殿に手を出すのは許さん!」
先頭の加藤清正が叫んだ。え?助けてくれるの?




