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中山道から現れたもの

 その軍勢は中山道から現れた。その数4万。家康のところに伝令が飛び込んでくる。

「徳川秀忠様、信濃の諸勢を引き連れて到着いたしました!」


 徳川秀忠は家康から信州をゆっくり鎮撫してから美濃に出向くように、との指令を受けていた。そこで榊原康政、本多正信など本来の徳川家の精鋭3万を引き連れて信濃に入ったのである。信濃における最大の抵抗勢力は嫡子、真田信之と袂を分かった真田昌幸、信繁親子であった。


 ここで秀忠はちょっと引っかかることがあった。父、家康はゆるりでよい、と言っていたが、ここは自分を試しているのではないか?と。むしろ信濃をすぐにまとめ上げ、美濃の攻略をすることこそが求められているのはないかと。

 仙石秀久の小諸城に入場した秀忠は真田昌幸に使いを出した。返事は降伏の準備をするから日数をいただきたい、というものだった。


 しかし秀忠は真田昌幸の返事を信用していなかった。すぐさま自ら真田昌幸の支配する上田城に使者を出したのである。


 上田城の伝令が昌幸に告げた。


「徳川方の使者が参りました。」

「なに?使者だと。何者だ?」

「名乗らないのでわかりません。が、若君(真田信幸)がついております。」

「信幸がともにいるなら会うしかなかろう。連れてまいれ。」

 使者が入ってきた。

「ご無沙汰しています。徳川秀忠です。」


 真田昌幸は目をむいた。まさか秀忠本人が来るとは。


「秀忠殿、ここで命を取られるとは思わないので?」


真田昌幸が聞いた。


「取られるかもしませんが、取られたら真田家は皆殺しですよ。それに…。」


徳川秀忠は続けた。

「私と一緒に来ているはご子息の真田信幸殿と仙石秀久殿です。」

 仙石なんて三国一の臆病者ではないか、と真田の家臣で笑うものがいた。

「今笑ったのは誰です?仙石殿は姉川で敵将を打ち取り、小田原征伐では

山中城で奮戦し、小田原城でも虎口を落とした勇将ですよ?

 そりゃ大軍を率いて、言うことを聞かない偉い大名を従えるのは苦手かもしれませんが、直接戦うとなりますと、ね?」

 と秀久の方に目配せをする。


 「そりゃいざとなったら死ぬ気で戦うしか無いです。俺。」


仙石秀久が答えた。一見朴訥な感じに見えるが実践で鍛え抜かれた体が

服の上からでも見て取れる。


 「それにそうなったら私も容赦しませんよ。」


 真田信幸が続けた。

真田信幸の戦の際の恐ろしさは真田家中のものは味方だっただけによく見ている。

それこそ第一次上田合戦で徳川勢に攻撃されて崩れつつ有った味方を単騎で立て直したのは信幸だった。

 近接戦闘で随一とも言える二人が本気で抗ったら…こちらの損害もただでは済まないのは明白だった。

 

「はいはい。恐ろしい方々とは戦いたくありませんねー。」


真田信繁が手を叩いて言った。場の雰囲気を変えようとしたのだろう。


「徳川様もひと暴れてして討ち死にするためにここに来たのではないでしょ?

 お話を伺いましょう。」


信繁が続ける。


「かたじけない。」


といって秀忠が話し始めた。


「昌幸様は信濃一国、といって西軍に誘われたのだろう?」


 なぜそれを知っている…と昌幸がうめいたが、信繁が続けるように促した。


「しかしそれは空手形です。西軍が勝てば褒賞を決めるのは毛利輝元様か

宇喜多秀家様だと思いますが、その辺りの方は面倒だからと、長束正家や

石田三成などの奉行衆に丸投げにするつもりです。

 そして私は服部半蔵に命じて長束正家と奉行衆の増田長盛が戦後の所領の案を

まとめているのを入手しました。」

 

 と言って秀忠は書状を取り出した。


「これによれば真田一族、当主の、ここには信幸様が当主で昌幸様を隠居、と

書いていますね。当主の信幸が内府に加担して豊臣家に反乱したことは

誠に許しがたい。しかし昌幸、信繁の功に免じて信幸は助命し、当主として

信繁を任じる。本来信幸の行いで所領も改易が妥当ではあるが、秀頼様の

温情で沼田5万石と信濃内に隠居料として小諸5万石を与える。

だそうです。

あらあら。上田すら取り上げる気ですね。」


そんなバカな、と昌幸が書状を取り上げて貪るように読む。


「信繁、これは本物か?」

「父上、これは本物のようです。秀頼様に大阪で仕えていた際に奉行衆の書は

よく見ていましたから。花押も筆跡もまちがいないようです。」

「…謀られたか!」

「そこでです。」


秀忠が続ける。


「私は信濃一国は約束しません。父なら空手形を出したかもしれませんが。

その代わり信濃・上野のうちで2-3万石を加増し、それと江戸近辺に昌幸様の隠居領を

用意させていただきます。この秀忠、できぬ約束は決していたしませぬ。」


 秀忠の強い眼光に昌幸はしばらく答えてから返答した。


「秀忠様の温かいお申し出に心から感謝します。

 ほら、信幸。私達は最初から家康様と袂を分かったわけではなく、

前もって秀忠様をお迎えするために上田に戻って準備していただけだよな?」


 ととぼける。


「まさにそのとおりでございます。お出迎え、おもてなし誠にありがとうございました。」


と秀忠が答え、一同破顔した。


 こうして本来の徳川の軍勢に加え、真田一族が根こそぎ兵をあげ、仙石秀久も同道し

後に「秀忠の早足」と言われる速度で中山道を軍勢は突き進んだ。

史実よりずっと早く出発できたので大雨の増水で川が渡れず遅れる事もなかった。


 更に東美濃の森忠政等の軍勢も加わり、4万を超える堂々たる軍勢が今、

関が原に姿を現したのである。

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