10.彼は皆と島を巡る1
※イベというよりゲーム仕様の話になりました。
話の更新が遅いので、三章終了してからまとめて読んだ方がストレスが無いかもしれません。
章終了時は報告しますので、それを見てから読み始めるのもアリですかね?
「はあああぁぁぁぁぁッ!!」
浜辺に裂帛の気合が響き、ユーナが亀型のモンスターを殻の上から粉砕する。
HPの無くなった亀はポリゴン片となり、夏の空気に消えて行く。
「さーてっ!! どんどん行くわよーッ!!」
拳闘士の機動力と破壊力を発揮しながら、モンスターを意気揚々と蹂躙するユーナ。
もうあいつ一人でいいんじゃないかな。と思う俺の隣で、ソラが頬を掻きながら眉根を寄せる。
「相当溜まってたみたい」
「……頑張って貰う分は俺としてはありがたいけどねー」
動かなくて済むし。
「ユーナは座ってあれこれするよりも体を動かすの方が好きだからね」
「……ああ、成る程。感覚派かー」
「感覚派?」
「……こっちの話だよー」
俺は大した事じゃないと手を振る。
探索メンバーであるアリシア、オカリナ、ソラ、ユーナ、ジャン、そして俺の六人は海岸線沿いに島を回っている。
ここに出てくる敵はあまり強くない。
最初は皆で協力して狩っていたが、あまりに非効率だったので、戦闘はユーナとアリシアに任せている。
まあ、この二人が戦闘スキル以外を育ててないから、消去法なのだが。
ソラには集まった素材やモンスターの特徴をメモに纏めてもらっている。
そしてソラ以外の他のメンバーは、アイテムの採取している。
ジャンがオカリナと話しながら潮干狩りの如く貝や海草を取っている。
人見知りで目を合わせないオカリナの、ともすれば失礼に感じる態度にも嫌な顔をせずに会話する彼は出来た人だと思う。
海岸線で各自で敵を狩る二人を見る。
(さっきの戦闘でも思ったが、やっぱりユーナの冒険者レベルが約130と狩場に対して高いのもあって、皆より頭一つ飛び抜けてるなー)
この辺りの浜辺は冒険者レベル100弱の俺がソロで丁度いい程のレベル帯であり、100以上の彼女には温い狩場だろう。
またレベルの30という差も結構重要である。
スキルレベルには契機となる数字があり、それが30と50である。
アビリティは基本5レベル毎にポンポン覚えていき、レベル30になる頃には六つのアビリティを覚える事になる。
六つのアビリティは最初に覚える事もあり、隙や癖の少ない技ばかりである。
それはつまりコンボが組みやすいという事であり、コンボが出来るというのは、効率的に敵にダメージを与えれる事を意味している。
特にレベル30で覚えるアビリティはコンボの要となる技が多いらしく、レベル30になると爆発的に手数が増えるらしい。
らしいと曖昧な表現なのは、俺自身がまだ『短剣』レベル15にも届いていないので経験が無いからである。
つまり俺とユーナでは30スキル分のステータス補正差以上に戦闘能力に差があるのだ。
(いや、こっちはいいんだよ。DPSの高い拳闘家だし、これぐらい強いのは)
問題はあちらだ。
俺はアリシアを見る。
アリシアはモンスターの体当たりを盾でしっかりと受け止め、動きが止まった所に盾でスタンを入れてからフレイルで叩き潰している。
堅実で有効的な戦い方だ。
現にモンスターが一撃でポリゴン片へと変わっていくのを俺は見ている。
そう、一撃なのだ。
盾職が攻撃職に追随する形で敵を倒している現状に俺は疑問を抱いている。
アリシアの冒険者レベルは約150。
この中では群を抜いて高く、戦闘スキルもユーナより一つくらい多いだろう。
(でも、スキル一つ程度で盾職と火力職の差が埋まるようなゲームバランスはしてないんだよなー)
例えば、雪月花にヴィヴィというプレイヤーがいる。
彼女は二丁拳銃で戦う火力職であり、その威力レートは全プレイヤーの中でも最上位に位置する。
それは別に彼女が武器スキル【小火器】――拳銃や短機関銃を使いこなすスキルだけを上げている訳ではない。
ヴィヴィは【狙撃】【看破】【銃器】などの攻撃スキルを上げている。
【狙撃】は距離による威力減衰の緩和、【看破】は弱点発見や弱点特攻、【銃器】は文字通り銃器全般の火力の底上げ。
それらを満遍なく上げて、尚且つ常に弱点を狙えるプレイヤースキルによって異常な火力を維持出来るのだ。
勿論中には攻撃と防御、両方とも専門職に引けを取らないプレイヤーもおり、そんな彼らは大抵二つ名で呼ばれている。
(確かナギが攻撃と防御のどちらも出来て、コハネが物理と魔法の両刀なんだっけか)
そんな感じのスキルの話をしてくれた妹の笑顔を思い出す。
話の後に、他の人のスキルを話すのはマナー違反だと釘を刺しておいた。
話を全て聞いてから釘を刺した俺も同罪なのだが。
(そういえば、アリシアはユキトに比べて柔らかいような……)
同じ盾職のユキトを思い出す。彼は防御とHPがバランスよく高かった。
それに比べアリシアはどちらかと言うとHPに特化している気がする。
勿論それでも盾としての性能に遜色は無い。それにスキルの育成順番や装備により、こういった差は出るものである。
(それにしては、作為的なものを感じるけどなー)
もしかしたら、それがアリシアの火力の秘密なのかもしれない。
そう思ってアリシアを見ていたら、こちらの視線に気付いた彼女が俺にちこちこと寄って来る。
「どうかしたのですか?」
「……んー。頑張ってるなーって」
「なるほど。私の華麗なるフレイル捌きに魅入っていたと」
「そこまで言ってないかなー」
(……鋭いな)
戦い方を観察していたのがバレている。
アリシアのスキル構成が気にはなったが言わないでおいた。
以前コハネに釘を刺した手前、聞きだす訳にもいかない。
それに同じチームだからといって、全てのスキル構成を公開しろというのは間違っている。
実際その事を前提に自己紹介を行ったのだから、喋らないなら詮索しないのが正しい。
ただ見ていたのはバレているのでもっともらしい理由を述べておく。
「フレイルは珍しいと思ってね」
「メイス・ワールドというものがありまして……」
「それ以上はいけない」
期待値は確かにメイスが上だけど。
「だったらメイス使いなよ……」
「回った時の爽快感には勝てないのです」
「GMもPLも泣かせる扇風機は止めてください」
アセリアは真面目な顔で俺を見る。
「冗談はここまでにして、私のギルドは打撃攻撃出来る人が少ないんですよね。だからその補完なのです。あとは純粋に趣味です。鎖の音とか非常にベネです」
重量感のある音を響かせて、打撃部の重りが地面に落ちる。
「……お、おう」
その光景に圧倒されながら返事を返す。
そんな俺の様子には気付かず、アリシアはジド目になりながら俺に言う。
「お兄さんも採取サボらないで。この中で【採取】のスキルが高いのはお兄さんなんですよ?」
「……はい」
二歳年下の少女に怒られた。
「ようリク。戻って来たか」
「ん。うちのメイン盾に働きなさいと怒られました」
「くっくっ。そりゃお前が悪いわな」
ほれ。とジャンに採取ポイントの空いたスペースを指され、俺は大人しくそこに納まる。
しゃがみながら彼らに尋ねる。
「どんなん取れましたかー?」
「うん?ほれ」
ジャンがアイテムの所有権を解除してアイテムを放ってくる。
Name:ゾウショクワカメ Category:植物
★
海に生える海草。刺激を受けると爆発的に増殖する特性を持つ。食用としての味はあまり期待できない。誤って食した場合、胃の中で爆発的に増える。胃袋テロリストとも呼ばれる。
「……いらない」
「俺もいらないし、腐るほど取れたから返さなくていいぜ」
「……ええ~」
所有権を放棄しようとした俺を制し、ジャンが首を振る。
「他は?」
俺が聞くと、ジャンがオカリナを示す。
「あ、あのっ。私はっ、こ、これですっ」
「ん。っと」
オカリナが綺麗な珊瑚を両手で差し出す。それを受け取ろうとした俺の手が弾かれる。
「オカちゃんの無意識の拒絶がリクを阻んだのか……」
「え? えええぇぇぇぇぇっ!? わ、私リクさんを拒んでませんよッ!? ほ、本当ですッ!!」
神妙そうに頷くジャンに、オカリナが慌てて俺に弁解する。
「そうだったのか……」
「ち、違いますよっ!! た、確かに初対面の時は目が恐いと思いましたけどっ! ああ、でも今でも恐いのは変わりませんが……」
「……ああ、うん」
「すげーなオカちゃん。回復職なのにリクに致命傷入れるなんて」
「あああぁぁぁぁぁっ!? ち、違うんです。そうじゃなくて」
オカリナはおろおろとしていたが、胸の前で拳を握って気合を入れて続ける。
「し、知り合って間もないですが、……は、話をしたり、ねっ、猫ちゃんを触らせてくれましたし、リクさんがいい人なのは分かってますっ!」
「……そっかー」
聞いてるこっちが恥ずかしくなる程の真っ直ぐな感情。
顔には出さないが俺は内心では顔を真っ赤にしている。
何か言わなければと思い、口を開く。
「……さっきのだけどね」
「?」
「盗難対策でアイテムには所有権があるんだ。だから人に渡す時は所有権を破棄しないと渡せないんだ」
「え? ……あ、ありましたっ!」
オカリナがアイテムを確認して目を丸くする。
そして俺からは見えないウィンドウを操作して、俺に恐る恐る差し出す。
俺は珊瑚を受け取る。
「ん。上手」
俺の言葉にオカリナが前髪の奥で微かに微笑む。
ジャンが追加で説明をしてくれる。
「こういったアイテムの譲渡方法は今回みたいな時や武具の取引に使うんだぜ」
「そ、そうなんですか?」
「ん。アイテム一個にわざわざ取引画面開いて相手の了承を一々取るのは手間だからねー」
俺はトレード申請をオカリナに飛ばし、トレード画面を見せる。
な、なるほど。と真剣に説明を聞く彼女に微笑ましく思いながら俺は続ける。
「武器とかはほら、実物見ないと分からない所あるしねー」
その場合は一時破棄とかいう制限時間付きの破棄方法を使うのだが、言わなくていいだろう。
一通り説明を終えた俺は受け取ったアイテムに視線を移す。
「さーてとー、これは何かなー」
Name:七色珊瑚
※イベント専用アイテム。
虹のように七色に光る珊瑚。お土産品や工芸品の材料としても利用される綺麗な珊瑚。また採れやすく安価なのも市場を出回る理由の一つである。
「イベント専用アイテム……」
「ああ。しかもレア度の概念が無いみたいだぜ」
「……」
「ど、どうかしたんですか?」
眉間に皺を寄せる俺にオカリナがおずおず聞いてくる。
「んー。レア度が無いのは面倒だなーっと思ってねー」
「面倒、ですか?」
ジャンが苦笑して引き継ぐ。
「レア度は一定の指針になるからな」
「はあ……」
オカリナがよく分かっていないのか曖昧に首を傾げる。
「例えばレア度1、2、3の三つの薬草があるとするね」
「は、はいっ」
「二つだけ選んで混ぜるとしたら、どの組み合わせがレア度の高い薬品になると思う?」
「……2と3、ですか?」
「ん。それが一番確率が高い組み合わせだよねー」
素人知識なので必ずしもそうとは限らないが、少なくとも目安にはなる。
「何となく分かりました」
「ま、生産系の詳しい内容が知りたかったら『魔女』さんにでも聞けばいいよー。あの人【調合】高いから」
教えてくれるとは断言しない。
「生産系ならランドルフの奴も【大工】を持ってるから、基本ぐらいなら教えれるはずだがなー……」
そこまで言ってジャンが口篭る。
俺も無口な大男を思い返す。
「……あんまり説明上手には見えないですねー」
「仲間想いのいい奴なんだがな。その、内に秘め過ぎるというか表に出にくいんだよなー」
「それを言ったら『魔女』さんも性格がなー」
何故うちの生産組はこうなのだろうか。
どこか遠い目をする俺達に、オカリナは笑顔を作りながら、
「え、えとっ、お二人に聞いてみますねっ!」
「オカちゃんはいい子だね……」
「えっ? えっ?」
俺達の態度におろおろと戸惑うオカリナ。
そんな彼女を見て、うちのチームの清涼剤は彼女だと、俺とジャンは頷き合ったのだった。




