17.彼は称号を手に入れる
あらすじ:蛙
<《称号》『釣り見習い』を獲得しました。>
俺の頭の中で軽い機械音と共にそんなアナウンスが流れたのは、トミさんと別れて四日後の事だった。
俺は釣りを中断して薄青色のウィンドウを操作する。すると装備ウィンドウに称号という文字とその隣の空欄を発見する。
空欄をタップするとリストが表示され、その中に『釣り見習い』を見つける。
『釣り見習い』 条件:釣りを100回成功させる。
効果:【釣り】スキルの経験値微増加。
「……ほー」
スキルの経験値が増えるのは嬉しい。
どれぐらい効果があるか分からないがあって困るものではないし早速選択する。
称号を装備したからといって劇的に変わった雰囲気はない。まあ『微』だから。
ゲーム内時間ではもうお昼になっている。
称号を取った前後の変化を感じたい気持ちはあるが釣りはここらで切り上げる。
釣れた魚は二十一匹と上出来である。連日大量なのは明らかに釣竿のお陰だろう。
「……くーちゃん狩り行くよー」
「……くぅ?」
寝ていたくちはを拾いあげて湖畔をゆっくり歩いていく。リアルに感じるくちはの温もりが心を温かくる。
途中空いた左手に木剣を握り締め軽く素振りする。一応左の腰にもう一本木剣を装備して実体化させておく。
俺の【索敵】スキルに反応がある。反応は二つでどちらも湖の中で光っている。
俺はすぐさま木剣を振り湖の中から伸びてきたピンクの舌を横から殴りつける。
水を破る音を連続で響かせて二匹のモンスターが湖から飛び出してくる。
一メートルほどの毒々しい赤とぎょろりとした大きな目玉を持つ蛙型のMob。
蛙型のモンスター『ポイズンフロッグ』は喉の前の鳴嚢を膨らませて鳴きこちらを威嚇する。
(……何回見ても気持ち悪い)
一匹目が俺に飛び掛ってくる。
名前の通りこの蛙はその目に優しくない皮から毒液を分泌しており、体当たりなどで体が触れるとバッドステータス『毒』状態になりスリップダメージを受ける。
俺は飛び掛ってきた一匹目の蛙に触れないように距離を取りながら、動いていない方の二匹目のポイズンフロッグが飛ばしてきた舌を下に弾く。
そしてそのまま剣で舌を地面に縫い付けると右手で左腰の木剣を抜き放つ勢いそのままに真横に振る。
バキンッ!!
(......やっちまったっ)
一匹目のポイズンフロッグが硬直から回復して放ってきた舌と俺の木剣が『正面から』ぶつかり俺の木剣が折れる。
破壊された木剣が輝くポリゴン片となる前に俺の右肩に衝撃が来た。
その衝撃で左の木剣で押さえていた二匹目の舌が抜けるが構わない。元々俺の【片手剣】スキルだと長い時間抑える事は出来ないだろう。
俺は痛みに呻く前に右手の木剣の柄を捨て、肩に当たった一匹目の舌を右手で迷わず掴む。ぬめりとした感触に背筋が冷たくなるが構わず叫ぶ。
「……くーちゃん!」
「きゅわっ!!」
頭上に移動したくちはの《雷華》が一匹目のポイズンフロッグに命中する。
そのまんま蛙が潰れたような声をあげてポイズンフロッグのHPバーが減少し1ドットも残さず消滅する。
俺はそれを確認せずにくちはを抱えて地面を転がり、【見切り】によって感知した二匹目の飛び掛りを回避する。
そして二匹同時と比べるとあっけなく一匹になったポイズンフロッグを倒す。
(……二匹はまだ辛いな)
せめての救いはポイズンフロッグの舌にだけは毒が無いことだろう。でなければ先程のような強攻策は取れなかった。
俺は【索敵】で周りを警戒しつつ近くの木に体重を預ける。節くれ立つ幹が背中に痛いが今は構わっていられない。
ちらりと自分のステータスを確認するとHPが四割程減っている。俺はアイテム欄から自分がとった薬草を取り出し使用する。
ゆっくりと回復するHPバーを眺めながら深呼吸を繰り返し精神的な疲れも幾分か回復させる。
このゲームにはスタミナのステータスがあり体の疲労はないのだがモンスターとの戦闘は精神的に疲れる。
インベントリでアイテムの在庫とポイズンフロッグのドロップを確認する。
(木剣は残り六本に回復アイテムは二十以上か。そういえばまだ毒になったことがないから試してないが解毒草は単体で効果あるのか?)
毒のスリップダメージや継続時間も気になる。
だからといって体当たりを喰らって蛙のぶにぶにした表皮に触れるのは勘弁したい。
その皮はドロップアイテムにもあり、
Name:赤毒蛙の皮 Category:皮素材
★
赤毒蛙から剥ぎ取れる紅い皮。耐久は高くないがそこそこ柔軟性に富んでおり鎧や日用品に用いられる。また生前時の毒性は無く代わりに毒に対する耐性を持つ。
他にはこんなものもドロップしている。
Name:毒液袋 Category:薬素材
★
動物型のモンスターから取れる器官の一つ。薄皮一枚に濃縮されているので力を加えると破裂する。植物型のモンスターから取れる『毒粉袋』と組み合わせると毒素に相乗効果がある。
「……うっわ。禍々しいな」
アイテムの説明欄を読んでいた俺はそう漏らす。
あまり持ち歩きたくはないがそこそこ高く売れるので捨てるわけにはいかない。
ちなみに皮で防具は作るつもりは無い。毒耐性は魅力的だが全身赤いぶよ皮装備とかお断りだ。
俺は憂鬱な表情で木から背中を離すと蛙退治に戻るのだった。




