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彼はそれでもペットをもふるのをやめない  作者: みずお
第一章 彼は新しい世界に触れる
17/88

16.彼は舞姫の虜となる

あらすじ:舞姫

 《Unlimited Online》と現実世界では時の流れが異なる。

 夜にしか現れないMobや夜間限定のクエストなどがある為、ゲーム内の方が流れる時間が早い。


 ゲームとは思えない程澄んだ夜空に瞬く星の煌きは、いつまでも見ていて飽きることがない。

 俺は『アルスティナ』の中央部に立派に鎮座する噴水に腰掛ける。絶え間なく流れる水の音を聞いていると心が落ち着く。


 釣り上げたスノーカープやコマアユ、ハリワカサギなど計二十匹近い魚たちは2830フィルという中々の値段で売れた。

 草むしりをしていた頃は薬草類を売って1000フィル前後だったので本当に嬉しい。


(いろんな人に助けられてるなー)


 ありがたいと感謝し、お礼を返せるように頑張ろうと意気込む。

 今日は釣りばかりしていて『クレア湖』の周りを探索していない。面白い採集物や敵がいるかもしれない。

 これからの予定を思案しながらウィンドウを操作していく。


 ウィンドウを開き数多あるスキルを無意味にスクロールしていく。【演奏】や【祈祷】とか面白そうなのもちらほら眼に留まって退屈しない。


(おお、【騎乗】なんてあるのかー。これは【調教】と相性がいいんじゃないか? あ、駄目だな)


 俺は膝の上の朽葉を見る。

 この子には小さすぎて乗れないし、仲間は完全ランダムだから、これから仲間になる眷属が全て小型だったら意味が無い。

 こう考えると【調教】は癖が強すぎる気がする。


「~~~~~♪~~~~~~~♪」


 俺の耳に弦楽器の調べが聞こえてくる。俺はウィンドウから顔を上げると音の元を探す。

 広場の一角に黒い人だかりが出来ている。俺はそれに向かって歩き、盗賊の出で立ちをした緑のバンダナ青年の肩を叩いて聞いてみる。


「…………すみません。何かイベントですか?」

「おっ、あんたリューネの踊りを見たことないのか?」


 『リューネ』。聞いたことが無い単語だ。首を振り正直にバンダナ青年に答える。


「そうか。んじゃ見てみなッ! 一見の価値ありだぜッ!!」

「……ありがとう」


 青年が体を動かして人混みの中央が見える場所を俺に譲ってくれる。俺は頭を下げて先程まで青年がいた場所に体を滑り込ませる。

 中央の空いた空間に一人の少女がいる。

 少女は白色の胸巻きとヒップスカーフを穿いて眩しい肌色を露出している。彼女が音楽に合わせて動く度にゆったりとした薄桃透明のチョリと同じ素材のベールが靡いていく。

 各所についたコインやフリンジのシャラシャラとした金属音が彼女の動きを強調してより眼を惹きつける。


 白いハイビスカスが飾られた桃色の髪の下で少女は純真な笑顔を浮かべる一方、腕の動きや腰つきは色っぽさを醸し出している。

 彼女は民俗音楽に合わせて緩急自在に踊り、彼女の持つ装飾のついたふた振りの剣が赤や黄色の残光を引いていく。


 魅入っている間に踊りは終わっており、気付いた時には少女は回りに集まった観客に腰を折って一礼している所だった。

 俺は周りと同じように無意識に拍手をしており、場所を譲ってくれた青年がいつまでも彼女から眼を逸らせない俺の肩を叩く。


「おい大丈夫か? 初めて見た奴は大抵あんたみたいな反応をするんだ」

「……あの人がリューネさんですか?」

「おう! プレイヤーの間じゃ『舞姫』って呼ばれてるな」


 彼女の踊りを間近でみた俺はその通り名の意味を肌で感じていた。


「……あの剣が光っていたのは何なんですかね?」

「んー。《アビリティ》の応用らしいけど俺にはわからねえな」


 俺とバンダナ青年はいくつか言葉を交わし最後に俺がもう一度頭を下げて別れた。

 あんな幻想的な踊りが見れたのだから感謝してもしきれない。


「……くーちゃん凄かったなー」

「きゅっ!きゅっ!」


 リューネさんの踊りはモンスターにも通じるようだ。朽葉も興奮して尻尾を振り回して鳴いている。


「……今から『イース平原』にいこうっ」


 暗くて見づらいので夜の戦闘は控えていたが彼女の踊りを見たら頑張ろうと思えてきた。

 イース平原に向かいながらウィンドウを開きそこからいけるプレイヤー間の情報掲示板を見る。

 するとさっきの広場での事についてもうレスが立ち書き込みがしてある。


 〔『舞姫』キタ━━━━(゜∀゜)━━━━!!〕とか〔今日もリューネたん可愛いな〕とかの書き込みを読んでいくと彼女がプレイヤーの間でアイドル的立場にいるのが感じ取れる。

 しかし彼女については詳しいことが分かっていないらしく、今回の様に突発的に踊りを披露しているらしい。


(……今日はラッキーだったなー)


 俺は流し読みをしていたウィンドウを消すとイース平原に足を踏み出す。

 もう少し閉じるのが遅かったら、その広場に来ていた『頭に子狐を乗せたプレイヤー』について書かれ始めたのを知っただろう。

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